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7、


わたしは夢を見ていた。


なぜこれが自分の夢だと理解できたのか、その答えは簡単だ。


彼女が、クラリカが幼い頃一緒に過ごしたあの木の下で、

あの日渡すはずだった本を熱心に読んでいたからだ。


わたしがそっと近づくと彼女は顔を上げた。


「――ずっと待っていたのよ。そんな所に突っ立っていないでここに座ったら?」


彼女はわたしの定位置である隣を手の平でぽんぽんと叩いて見せた。


「久しぶりね。ちょっと痩せたんじゃない?」


「そうかな。自分じゃわからないけど」


「どうせ、オートマタばかりいじっているんでしょ」


「そんなこと、いやそうかもしれないな」


「あなた、本当に相変わらずなんだから」


彼女の誰にも見せない、わたしにしか見せない優しい笑顔にわたしも自然と笑みがこぼれた。


「そうだ、クラリカ! やっと君との約束を果たせる時が来たんだ。

オートマタが完成したんだ」


「……そう」


「これで君はオートマタとして蘇ることが出来るんだ」


クラリカは読みかけの本を閉じると、なにか自分の中で言葉を選んでいる様だった。



「ねえ、あなた。

わたしがこれか言うことを聞いてほしいの


「なんだい?」


彼女はとても神妙な顔つきをしていた。



「私はあの時、死んでしまったわ」



「わかっている。全部わたしのせいだ。

わたしが君との約束を守れていなかったから」


「違うわ。あなたのせいじゃない。


ねぇ、ルゴル。遅かれ早かれ人はいつか必ず死を迎えるわ」


「それは違う。オートマタがあれば人は永遠の命を手に入れる事が出来るんだ。

そして、わたしは完成させた。君が望んでいたことじゃないか」



「違う。私は永遠の命なんて望んでいない。


私はただみんなと同じように遊んだり、走り回ったりしたかっただけ」



「ならわたしはなんの為に……」



「永遠の命が人を幸せにするとは限らないわ。


もし永遠の命を手に入れたとして、あなたが死んでしまったら、わたしはどうしたらいいの?


ずっと一人寂しく生きて行けというの? そんな世界残酷すぎると思わない?」



彼女はうつむいているわたしの手を取りそっとキスをした。



「私はあなたとアンナに出会って幸せが何かを知ったわ。

この不自由な右足も神様があなたに出会わせてくれるために与えたんだって今は思っているの」


「だが、わたしには君しかいないんだ。

君がいないとわたしは……」


「そんなことないわ。あなたの傍にはアンナがいるじゃない。


――ねぇ、ルゴル。

死んでしまった私の事より、ちゃんとアンナの事を見てあげて。

あの子は私とあなたの大切な娘なのよ」



そうだった。


アンナの生まれた日、アンナの初めての誕生日、アンナが一人歩きした日、アンナが初めて言葉を口にした日、

そのすべてがわたしたちにとって大事な日々だった。


わたしたちは娘を必ず幸せにすると誓ったんだ。



「あの子が頼れるのはあなたしかいないの。


だからお願い。


私の分も、あの子の事を愛してあげて。

もう私には出来ないことだから」


「あぁ、わかった。約束する」


わたしは小指を立てると、クラリカと固く指切りをした。




目が覚めると涙が取りとめなく溢れていた。










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