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10/19

3、

今回は少し短めです


教えてもらったその店は街外れの一角にあった。


……ここで本当にあっているのだろうか。


表札も看板もないその古めかしい建物は、そこだけが時間の流れから取り残されているかのようだった。



入ろうかどうか扉の前で迷っていると、突然音を立て扉が開いた。


わたしが慌てて飛びのくと、不機嫌な顔をした男が


「こんなところ、二度と来るか!」


そう吐き捨てるよう言い放ち、扉の前に立っていたわたしの顔を一瞥し、ぶつぶつ文句を言いながら立ち去って行った。



「――なにか御用でしょうか?」


男に気をとられていると背後から声を掛けられ、思わず後ずさってしまった。


そこに立っていたのは仮面を付けた長く美しい黒髪の少女だった。

顔上半分が仮面で隠れていたが、赤い唇と口元の黒子がとても印象的で、どこかわたしの作るオートマタに似ていた。


「あ、あぁ。この店はどんな願い事も叶えてくれると聞いてきたんだが……」


「申し訳ございませんが、当店ではお客様から受けるご依頼は一日一人までと決まっております。


今日はもう閉店致しますので、また次の機会にご来店ください」


少女はそう言うと腰を追って深々と頭を下げた。


「……そうですか。ではまた後日伺うとします」


「お客様、お待ちください」


わたしが諦めて帰ろうとすると、後ろから呼び止められた。

声の主はどうやら中にいるようだ。


目を凝らして覗き見るが、中は暗く声の主の姿は確認できなかった。



「ナナ、そのお客様を中にお通しして」


「かしこまりました。

――お客様どうぞお入りください」


わたしは警戒しながらも促されるまま足を踏み入れた。



建物の周りを城壁と高い建物で囲まれているせいか中は薄暗い。


部屋の中央に、ぽつんとテーブルと椅子が置いてあるだけで他に家具などはいっさい何もない。


なんとなく異質な感じがしたのは、壁一面にこの部屋には似つかわしくない風景画が何枚も飾ってあったからかもしれない。



「どうぞ、こちらにお座りください」


「あぁ、ありがとう」


案内された席に着くと手に持っていた仕事道具のカバンを足元に置いた。


「お客様、なにかお飲物はいかがですか?」


「いえ、お気遣いなく」


「そうですか。失礼しました」


少女は軽く一礼すると部屋の隅で黙って佇んでいる。



しばらくして店の奥から現れたのは先ほどの声の主だった。


「はじめまして、お客様。願叶堂の主トアと申します」


トアと名乗ったこの人物も少女と同じように顔を仮面で隠していた。


声から察するにわたしよりも随分と若いように思える。



「ルゴルオールです。よろしく」


「ルゴルオール様、本日はどのようなご用件でしょうか?」


「実はどうしても手に入れて欲しい物がありまして」


話を始めると急に緊張感と期待感が大きな波となって交互に押し寄せてきた。


願叶堂の主人はそんなわたしの心の奥底を覗き込むかのように目を細め真剣な表情で話に耳を傾けていた。


「それで、それはどのようなものでしょうか」


「デウス魔鉱石です」


「デウス魔鉱石? すみませんが、詳しい話を聞かせていただいてもよろしいですか」


「はい。


――わたしの家系は代々オートマタの職人をやっております」


「オートマタ、魔法機械人形ですか」


「はい、多くの人はオートマタを単なる機械仕掛けの人形だと考えているようですが、それは違います。


トアさんはオートマタが何の為にこの世に生まれたのかご存じですか?」


「いいえ、存じ上げません」


「オートマタは死者の魂を入れる器として生み出されたのです」


「死者の魂を?」


「そうです。かつて時の権力者たちは絶対的な死から逃れるため、莫大な財力を使い、ありとあらゆる方法を模索してきました。


その一つがこのオートマタなのです」


「決して老いることのない機械の身体ですか」


「そうです。死したのち魂をオートマタに移すことで生き永らえようと考えたのです」


「しかし、成功はしなかった」


「はい。試行錯誤の末、オートマタの開発は成功しました。

しかし一つだけどうしても解決できない問題があったのです」


「それは?」



「オートマタでもっとも重要な部品は魂を入れる魔鉱石です。


死者の魂を特殊な魔法で魔鉱石に封印するのですが、そこらの魔鉱石では魂の持つ強大な魔力に石が耐えきれず、ことごとく砕け散ってしまったのです。


かつて、わたしの父も世界中を巡り、幾度となく実験を繰り返したようですが、結局完成させることなく死んでしまいました」



「……あなたは父親の為に、同じ道を歩もうとしているのですか?」


「いえ、そうではありません。

そうではありませんが、これはオートマタを作る者にとっての究極の目的でもあるのです。


とはいえ父ほど執着しているわけではなかったのも確かです。


それでも暇を見つけては様々な文献を調べていました。


――そしてわたしは見つけたのです、

遥か昔、神が強大な魔王の魂を封じた石が存在することを」


「それがデウス魔鉱石なのですね」


「はい。しかし数十年、いや数百年の間、そのような魔鉱石が発見されたという話は聞いたことがありませんでした。


結局は文献の中だけの話と半ば諦めていましたが


そんな折、この願叶堂の噂を耳にしたのです」



わたしは一通り話終えると、固唾をのんで男の言葉を待った。




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