始まり
今から大体5年前くらいだろうか。
その日、たった1日でとある街が崩壊した。
当時そこに住んでいた俺は、あまりの出来事に詳しいことは覚えていられなかった。
ただ、一つだけ。
一つだけ、確実に言えることがある。
そこで俺は地獄を見て、そして俺の世界は終わってしまったんだということ。
いや、それは文字通りの地獄では無かったか。例えていうなら、
『薔薇園』、だろうか。
といっても、人々が薔薇を見て楽しめるような生易しいものじゃない。
人間の体を遥かに超える大きないばらがすべてを呑み込んでいく。
それだけじゃない。その棘に触れたものは人であろうと、木であろうと、電柱であろうと、全てを腐敗させていった。
響きわたる悲鳴。助けを乞う声。誰かの泣き声。
救いのない混沌がそこにはあった。
今でも、なんで俺が助かったのかはわからない。
目が覚めたら隣街の病院にいて、回りには沢山の大人達がいた。
後から聞いた話だか、あの街で生き残ったのは俺だけらしい。
でも、もしかしたら。
あの日その街にいたあの子。
数年たった今でも夢に見る彼女が、俺の命を助けてくれたのかもしれない。
彼女。
何処か神秘的で、あのいばらの中でさえ俺に妖艶に微笑んでいた人。
一体、彼女は誰で、俺は何の為に生き延びたのか、そして、あの災厄は何だったのか。
俺にはいつかそれが分かるのだろうか。




