1.行方不明
彼女は高岩 京子、二十五歳。
十年前、京子が高校生の時に警察官である父の京一が失踪した。
京子は父の居場所を探るため、新宿の住宅街に探偵事務所を立ち上げた。
「暑い。死んでしまいそう……」
事務所のソファに横たわる京子。
「クーラーが壊れてますからね」
そういうのは助手の吉田 快斗だ。
「僕なんか毛皮だからもっと暑いよ」
と、なんと喋る猫のサーミが言った。
「そういえば、なんで私たち、サーミの言葉がわかるのかな?」
京子のその問いに、「知らないよ」と、サーミ。
ピンポン、とインターホンが鳴った。
快斗が扉を開ける。
男性が立っていた。
「高岩探偵社にようこそ。どうぞこちらへ」
快斗が男性をソファに促した。
「初めまして! 探偵の高岩 京子です!」
と、京子が起き上がった。
快斗がお茶を用意した。
「初めまして、川島 洋一です」
「川島さんですね。ご依頼の内容は?」
「高校二年の娘の真理が今朝から行方がわからないんです。学校から電話があって、登校してないというんです。何かあったんではないかと思って」
「娘さん、携帯はお持ちですか?」
「それが、今日に限って忘れて行ったみたいで。さっきかけたら家の中で呼び出しが鳴りました」
「警察には?」
「事件性が見られないので調べようがない、と」
「わかりました。お引き受けしましょう!」
「ありがとうございます!」
「では、こちらにご連絡先をお願いします」
京子が契約書類を用意した。
川島が書類の必要事項に記入する。
京子は書類を受け取る。
「それでは、川島さんのお宅へお邪魔させていただけませんか? 手がかりがあるかもしれません」
「はい」
京子は、快斗、サーミと共に、川島に同行して彼の自宅へ向かった。
真理の部屋を調査する京子たち。
「京子さん、本棚に日記がありましたよ」
「見せて」
京子は快斗から日記を受け取って開いた。
パラパラとページをめくるが、手がかりになるものは書かれていなかった。
京子は置き忘れた携帯電話を確認する。
「なるほど」
「どうしたんですか?」
「快斗くん、これ見て」
京子が快斗にメッセージアプリの内容を見せる。
着信は昨晩で、明朝にお会いしたいというメッセージが書いてあった。
相手は男性で、どうやら出会い系サイトで知り合ったようだ。
京子は相手のアドレスをメモした。
「行こう」
京子、快斗、サーミは川島家を出た。
「ところで京子?」
と、サーミ。
「どこへ行くんだ?」
「弁護士事務所」
京子たちはお得意先である浜崎弁護士事務所へ向かった。
「いらっしゃい」
と、浜崎弁護士。
「このアドレスの所有者を調べたいの」
京子は浜崎にメモしたアドレスを見せた。
「@webez.ne.jp、UAか」
浜崎弁護士が電話を取った。
番号を押し、どこかへ電話をかけた。
電話の相手と数分話し、電話を終えると、すぐにファクスが届いた。
「はい、所有者の住所」
「ありがとう、浜崎さん」
京子は書類を見た。
「快斗くん、サーミ、行くわよ」
二人と一匹は、アドレス所有者の住所へ向かう。
ピンポン。
インターホンを押すと、精悍な顔立ちをした男性が出て来た。
「どちら様?」
「川島さんはご存知ですか?」
「そんな女知らない」
「我々が何も知らずに来るとでも? それに、川島さんとしか言ってないのに、なぜ女性とわかったんですか?」
眉をひそめる男性。
「あなたは出会い系サイトで知り合った真理さんと、今朝会う約束を、昨日の夜してますよね。川島 真理さんをどこに隠したんですか?」
「知らない。確かに会う約束はしたけど、会えなかったんだ」
「会えなかった?」
「練馬駅で待ち合わせしてたんだけどね。だけど、結局来なくて」
「それは本当ですか?」
「嘘ついてどうなる? それよりあなた方は?」
「川島さんのお父様の依頼で動いてる探偵ですよ」
「探偵?」
「はい。真理さんの行方がわからなくて」
「そうか。だが俺は知らない。他を当たってくれ」
男性は中に引っ込んでしまった。
その直前、二階の窓のカーテンが揺れた。
京子は警察に電話をした。
すぐにやって来る警察。
「通報した高岩さんというのは君?」
「はい」
「なんで呼んだの?」
「この家で現在進行形で逮捕監禁罪が行われてる可能性があるからです」
警官が仲間に言う。
「令状請求して」
「はい!」
仲間の警官が無線で所轄署に連絡をする。
やがて令状が発行され、警察が家捜しを始めた。
すると、二階の部屋で、ロープで縛られた真理が発見され、この家の男は逮捕された。