再来の勇者
王国→アースガルズ王国
少女が住む村→レギン村
2018/01/27 (改正)
魔神封印から数百年が経ち・・・すっかり『勇者』が忘れ去られた頃、ある村で女の子が生まれた。彼女はすくすくと成長した。特に何かに秀でておらず無口であったが、芯が強く、やさしい心をもち周囲の人々から愛される子であった。
そんなある日、魔神が復活を遂げたという一報が彼女のすむアースガルズ王国にはいってくる。王は驚き慌てふためきながらもすぐさま魔神を迎え撃つべく、大軍を送った。しかし魔神ひきいる魔族は少数ながらも個々の凄まじい戦闘力をほこり、王の差し向けた軍を圧倒し、アースガルズ王国に向け快進撃を続けていった。
そして彼女のすむレギン村にも進撃してきた。村人たちは必死に抵抗したがほとんどが殺されてしまった。生き残った人々は死にものぐるいで逃げ、村にある小さなふるぼけた祠に立てこもる。その中には彼女も含まれていた。両親が魔族達に立ち向かい時間を稼いでくれたおかげでなんとか逃げることができたのだ。
誰もが悲嘆にくれ嗚咽を上げる中、まるで誰かに導かれるように彼女はそっと目をを閉じた。
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目を開けるとそこは見渡す限り一面真っ白で何も無い空間。
ふと気付くと彼女の目の前の空間が波紋状に広がりその奥から銀色の一振りの剣が現れた。
「やぁ、はじめまして」 「!?」
剣が話した!? あれ? 剣って話せるものなんだっけ? そうなのか。最近の剣は凄いなぁと思っていると、それを見透かすように剣は話しかける。
「いやいや、剣は普通話すことは出来ないからね?
僕がかなり特殊なだけだよ。ひょっとして君ってかなりのポンコツ?」
「わ、私はポンコツなんかじゃない!」頬を赤らめ、まくしたてるように声を荒げる。
「本当かなぁ?」「まぁ、これで緊張も緩んだと思うからまずは自己紹介といこうか」「僕の名前は、グラム」「遥か古から聖剣なんて呼ばれている」「僕が・・・」
彼の話を遮り、たたみかけるように問いかける。
「でも聖剣は魔神との闘いで失われた筈じゃ?」
「あー それは、正しくない心を持つ人間がもし万が一僕を使いこなすことが出来たなら世界を簡単に滅ぼすことができるから、リスクを回避するためにわざと紛失したということにしておいたのさ」 まぁ、そんな人間が僕を使いこなすなんてできやしない。彼はそうこぼす。
「少し話が脱線したね。元に戻すよ。僕は正しい心を持つ人間の前にしか姿を見せない、なおかつ契約を交わさないと僕本来の力が発揮できない。契約を交わさないまま僕を使ったところでそこらの剣より少し頑丈で切れ味が増すくらいだろう。ここまでわかったね?」
無言でうなずく。
「さて本題に入ろうか。僕と契約をしないか?」
「えっ」「あなたは古の伝承によれば自由気ままな性格をしているはず、そもそも配下の魔族すら恐ろしくてその場を動けなかった私と契約するメリットがどこにあるっていうの?」
「ははは・・・まぁ、そう思うのが普通だろうね」彼はつづける。「相棒と交わした約束がまだ残ってるからさ。ただそれだけ」
「ふぅ〜んそれでその内容は?」
「それは君にも言えないことだよ、まぁ僕と契約したら教えてあげるかもね」「どうする?」
私は両親のおかげでなんとか生き延びることができた。本来ならばここにはいないはず。
彼の提案に応じるのは気が乗らないが、一か八かやってみよう。彼女はそう決意を固め、短く「やる」とこぼす。彼がそれを満足げに受け取ったような気がした。
「契約といってもそう難しくとらえないでいい。君の望みを契約内容としよう」
「さて・・・・・君はなにを望む?」
「私は───────」
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「お頭ここらの人間は大抵殺し尽くしましたぜ」「そうか、良くやった」「残ったやつらはどうします?」「放置でいい、どうせ大半が女か子供だろう。後からいくらでも処理できるからな」
「しかし・・・」「わかっているはずだ。魔神様の機嫌を損ねると何が起こるかわからない。人間に恨みがあることは結構だが、今は私怨より魔神様優先だ。」
「さぁ次の村に行くぞ」「・・・でも・・・」
「まだわからないのか!? 我ら魔族は魔神様にお使えする身。下手に反抗すると殺されるぞ?いいのか?」
「それは・・・」「よしわかったな、じゃあ行くぞ」「・・・」
こうして魔族達は村を去っていった…
この時の魔族の浅はかな判断が、後々響いてくるとはいざ知らず・・・
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
人間と魔族は互いに憎しみあっている。人間が魔族を殺し、魔族が人間を殺すからだ。これはごく当たり前のことだ。同族が殺されたから、報復として敵を殺す。人間と魔族共通の考え方。しかしこれはどちらかが完全に滅びない限り永遠に続く泥沼の戦い。そこに存在するのは憎しみただ一つ。
歓声が聞こえる。
悲鳴が聞こえる。
怒号が聞こえる。
幾多の剣戟の響きが聞こえる。
そんな中、たった一人呆然と佇む人物がいた。
「私は彼を殺した」そうその人物はつぶやく。
今、殺した彼は敵だった。
そう敵であった。敵を倒さないと同族がやられる。
仕方の無いことだ。
なのになぜこんなに罪悪感が込み上げてくるのだろうか?
疑問に思いつつ、再び戦場へと自らをいざなおうとしたその時、物言わぬ骸となった彼の首にペンダントがかかっているのを見つけた。なんだこれは?まるでなにかに導かれるようにそっとその蓋を開ける。
直後、絶句した。ペンダントの中には2人の人物が写り込んでいた。1人は今、手にかけた彼。もう1人は彼の妻と思われる人物であった。2人は心底愛し合っているようにみえた。この瞬間、自身の内側のなにかが崩れ落ちていくような感覚に襲われた。
「あぁ・・・私は、私は・・・決して許されないことをしてしまった」小さくそう呟く。敵だから憎い。そうだからと言って彼らに大切な人がいないとはけっして限らない。そのことにやっと気付いた。もう私は彼らと戦うことなどできない。そう心の中で思った。
直後、その人物の視界は失われ、一面見渡す限り真っ黒な空間へと変化した。
「ここはどこだ?」「敵の幻術か?」「くそっっ、少し戦場から離れているからといって油断した」そう心底憎しげにはき捨てた。 それから少しの間、敵の襲撃を警戒していたが、なにも起こらなかった。誰が何のために?焦燥に駆られる。
どこからか声が囁きかける。
「気持ちよかったよね?」と。
「そんなことはない」苛立ちをあらわにしながらも真っ向から否定する。
「嘘だ」さっきとは違う声が囁きかける。
「自分に正直なりなよ、君、彼を殺したときすっっっっごい気持ちよさそうな顔をしてきたよ」
「!? そ、そんなはずはない、私は・・・私は殺しを楽しんだりしない!」「ふぅ〜ん」その人物の反応を嘲笑うかのように誰かが声を漏らす。「じゃあ、じゃあ君の家族を殺したのは誰?」その声はいかにも愉快そうにたたみかける。
「君の恋人を殺したのは誰?」
「君の親友を殺したのは誰?」
「君の家族を殺したのは誰?」
「君の人生を狂わせたのは誰?」
・・・・・それは敵。私の平穏な暮らしを奪ったのは彼ら。
「復讐したくない?」またもや声が囁く。・・・・・少し時間がたち「したくない」そう断言する。
「ほんとに?、もう一度自身に問いかけてみなよ」
・・・・・私は確かに彼らをずっと憎んでいる。あの悲劇が起こった日からずっと。しかしさっきの出来事でわかったはずだ。奪われることと、奪うことは大差ないことだと。
さらに囁きかける。
「でも敵は憎い、殺さないと殺される」
「簡単な話だよね?」「ためらう必要なんてないさ」「家族を、恋人を、親友を、人生を奪ったのは彼らだ」「罪悪感を感じる必要はない」
さらにさらに囁きかける。「我慢する必要なんてないさ」「さぁ殺そう?」「死んでいった同族の仇を取ろう?」「復讐して気持ち良くなろう?」
「殺そう?」
「殺そう?」
「コロそう?」
あぁ・・・意識が混濁する。
気がつくと右手には一振りの剣。血濡れた一振りの剣。目の前には死んだ男の骸。そこで、はたと気付く。
虚しい。ただ虚しい。なぜこんなことをしてしまったんだろう・・・わからない・・・
そうして自問自答を繰り返している時ですら敵はそんなことも御構いなしと襲いかかってくる。
「死ねぇぇぇぇぇぇぇっ!」
剣を振るう。飛び散る血。肉を切断した手応え。溢れ出る血。真っ赤に染まる視界。
「あれ?」「なにしてるんだろ?」
そんなことをぼんやりと考えていると、 また誰かが囁く。
「 気持ちよかったよね?」と
「もっとしよう」
「もっと」
「ねぇ。もっと」
「もっともっとすれば、さらに気持ちよくなれるさ」
「殺そう?」
「殺そう?」と囁きは続く。
「あぁ殺すのは気持ちいい」
「もっとしないと・・・」
「もっと・・・」
そこで誰かの意識は途切れた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
『契約完了だね』
「うん」
「これからよろしく」
「うん」
「じゃあ、いこうか」
「そうだね、いこうか」
この世界を変えるために私は…
そして一歩踏み出す。
かくして一人も死者を出さずに魔神を封印するという歴史上比類なき偉業を成し遂げた彼女の伝説が今、幕をあけた。
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