中編
騎士団のトップから直々に調査許可を得た二人は、案内の騎士の先導で各所を回った。
武器庫、食料庫、宿舎、食堂。情報漏洩についてベイリーが心配してしまうほどの大盤振る舞いである。
各所に居たのは辞めていった若い騎士たちの同僚や友人、先輩など。
彼らから話を聞いた二人だったが、成果はほどほどといったところだった。
現在は、鍛錬場の入り口の前でとある騎士を待っている。最初に辞めた若い騎士と仲が良かったとのことなのだが、どこまで話を聞けるかは微妙なところだ。
案内の騎士が鍛錬場の中から戻るまで、ベイリーは今まで集めた情報を整理するために手帳を開いた。
いきなり若い騎士たちがこぞって辞めたという不思議な事件。
これはアルベリカ男爵の次男、ヴェリド・アルベリカが唐突に騎士団長の執務室へと駆け込んだことから始まっている。
「その次はフェレル子爵のご子息、次は伯爵の三男。その次が別の伯爵の四男ですね」
メモ書きを声に出して読み上げるベイリー。この三カ月の若い退職者は合計六名。その内五名が貴族で、一名が平民。
貴族が多いのですね、と小さく呟いたマリアベーラに問いかけるために、ベイリーは口を開く。
「貴族の方って、基本的に嫡男が家を継ぎますよね」
「ええ、そうですわ。最近はルルマ女伯の例もありますから、嫡子と言った方がいいのかもしれませんが」
「なるほど。軽率でした、すみません」
ルルマ女伯は隣国の女性貴族だ。数年前に父君を亡くし、ベネディアンナ王国との境にある伯爵領を相続した女伯爵である。
隣国ではルルマ女伯の活躍によって、女性でも爵位が相続しやすい状況へと変化していっているのだとか。
ベネディアンナ王国としては、男子優先で長子が相続するのが一般的だ。次男はそのスペア。三男ともなれば家を出て自分で生計を立てるのが好ましい。
その点、騎士団というのはいい受け皿だ。家の箔を落とさず、自らも働き次第では出世できる。
上位騎士にでもなれば、新たに自分の名で爵位を貰える可能性もあるのだから。
「立場を考えると、騎士を辞めるメリットはないに等しいですが」
一体何が起こっているというのだろうか。まるで全容が掴めない。何者かが裏で手を引いていると考えた方がいいのだろうか。
いや、むしろ。とベイリーは考える。
騎士団が劣悪な環境で、理想や夢を追いかける若者ばかりが挫折し、退職に追い込まれているのだとしたら、と。
だとすれば、教会の人間が行うべきは職場環境の査察である。ベイリーにとってはお門違いだと思うのも無理はない。
「天秤の従僕」が王侯貴族を審議処断する組織であるように、聖ベネデッタ教会の中には労働者保護を目的とした組織も存在する。
一応知識はあるが別部署なので、門外漢であるベイリーとしては早いこと専門家に丸投げしたいというのが本音だ。
そうこうしている内に、案内の騎士は件の騎士を連れてやってきた。最初に辞めた、ヴェリド・アルベリカと仲が良かったという騎士を。
話を聞けば、辞めたヴェリドだけでなく、他の騎士たちも皆若いだけあって夢を持ち、気力に溢れていたそうだ。
勤務態度にも問題はなく、急に辞めるとは思わなかった、とのこと。
これは他の場所での聞き込みでも聞いた情報だったので、親身になって話を聞くマリアベーラを横目にベイリーはこっそり溜め息をつく。
急な退職の理由はいくつか考えられる。人間関係。職務内容。拘束時間。経済的問題。身体的問題。
全員同じ理由だとは思えないが、似通っているのは確かだろう。流石にこれらの問題が同時に発生しているほど騎士団がブラックな環境だとは思えない。
まあ、どんな理由であれ恐らく上司には言いづらいだろうが。
「……言いづらい?」
ふと思いついて呟いたベイリーの声は誰にも聞こえていなかったらしい。
粗方話すことは終わったのか、鍛錬場に戻ろうとする騎士を捕まえてベイリーは手帳の裏表紙を突き付ける。
手帳の裏表紙に描かれた「天秤の従僕」の紋章。下がった空の皿と上がった首の皿。命よりも重い何かが乗せられていることを示したそれを。
言いづらいなら、言いやすいようにしてやればいい。
可及的速やかな事件解決のためなら、使える手は何でも使うという強い意志。それが、早く帰って本を読みたい、という欲求の元に生まれたものだとは本人以外知りようもない。
「天秤の従僕として、調査のために忌憚ない意見を求めております。他に何か、心から疑問に思ったことはありませんか? どんな些細なことでもいいんです。どうかご協力を」
秘術には、ある程度の思考を誘導するという使い方もある。
あくまでもおまけのような能力なのであまり多用はされないのだが、体裁を気にして真実を語れない貴族や、脅されている使用人等といった相手から証言を得るのには便利な効果だ。
目の前の騎士は、質問に対して先ほどと同じような返答を繰り返した。だが、「実を言うと」と前置きしてから彼個人の疑惑を口にする。
辞めた騎士たちは、何らかの形で一度はとある大隊長と関わっていたらしい。
一人目は直属の上司、二人目と三人目は演習時の臨時指揮官、といった具合に。
その大隊長は勤務歴も長く、部下への接し方も悪くない、いわゆる失敗はしないが可もなく不可もないタイプだそうだ。
秘術にかかっていようが頑なにその大隊長の名前だけは言わなかったが、そこまで聞けばすぐにわかる話だ。こっちには騎士団長がついているのだから。
緩やかに術を収めれば、マリアベーラは感心したような目でベイリーを見ていた。
彼女には秘術が効かないため、まるで魔法のように見えたことだろう。実際魔術的なあれこれなので間違ってはいないのだが。
何とも居心地の悪い真っ直ぐな瞳に射抜かれて、うう、とベイリーは言葉を失くす。
「……いいんですよ、無精者だとなじっても」
「いいえ、そのようなこと」
むしろ、お見事、流石、と褒めたたえてくる始末。
居たたまれなくなったベイリーが騎士を鍛錬場に追い返し、足早に応接室へと戻ろうとしたのはこの直後であった。
*
応接室に戻り、再度王弟殿下に会うため連絡したのだが、現在は執務中で手が離せないとのことだった。
だが、王弟殿下からの使いは「執務室でなら話くらいは聞ける」との伝言を残して去ってしまう。
いくら身元が知れているとは言え、騎士団長の執務室に部外者を入れるなんて。危機管理とかないのか、とベイリーが心配してしまったのも無理はない。
しかし可及的速やかに騎士団から去りたかったベイリーしては嬉しい提案だ。
それでは遠慮なく、と案内の騎士に連れられて騎士団長の執務室へと向かう。
その道すがら。不意に廊下の角の向こうから何やら妙なうめき声が聞こえてきて、二人は揃って足を止めた。
「……何でしょう?」
「一応、マリアベーラ嬢は後ろに」
「はい」
案内の騎士が片手を出し庇うようにしながら、そろりそろりと様子を窺う。
角を覗き見た彼は、一瞬硬直した後すぐに緊張を解いた。呆れた様子で「何だお前か」と言うのが聞こえてから、ベイリーとマリアベーラはそっと様子を窺い見る。
そこに居たのは、何の変哲もないただの少年だった。案内の騎士の態度からすれば、後輩か見習いか、といったところか。
何やら騎士と言い合いを続けている声を聞き、ベイリーは少し眉をしかめる。
変声期を迎えていない声で叫ぶ少年。騎士団長に会うために来た、とか。とにかく書類を提出しなければ、とか。
内容はともかく、この声、どこか聞き覚えがあるような。
「あ」
ピン、と糸が繋がるようにして、記憶が引きずり出される。
思い立てば、ベイリーの行動は早かった。すたすたと歩み寄り、騎士に何か不満をぶつけている少年の腕を引き、声をかける。
「何やってるんだ、ジョー」
「ベイリー!? お前なんでここに!」
甲高い大きな声が、ベイリーの耳を刺した。顔をしかめながら「それはこっちの台詞だ」と言おうとすると、少年はすぐに血相を変えてベイリーの胸倉を掴む。
「まさか、監査か!?」
「違う。善意の協力者ってやつ」
「善意? お前が? まっさかぁ!」
手を放し指をさしてケラケラと笑うジョー。ピキ、とベイリーのこめかみが音を立てたが、拳を握りしめるだけで手は出さない。
どうせ殴っても馬鹿は治らないのだ。冷静に思い直して、ベイリーは気を落ち着ける。
ジョー・ブラウンはベイリーの同僚、「天秤の従僕」の一員だ。ベイリーが聖ベネデッタ学園にいるように、ジョーは騎士団に見習いとして所属している。
今回ベイリーがマリアベーラに相談された際、真っ先に思い出したのはジョーの存在だった。
ジョーは割と馬鹿ではあるが、職務を放棄するとは思えない。馬鹿なのは間違いないが、そこのところは信頼できる。
であれば、何か問題が起こったに違いないのだが。そこまで考えて、ベイリーは妙な違和感に眉をしかめた。
何かを見落としている、という違和感ではない。
強いて言うならその逆。見えすぎていて気持ち悪い、といったところだろうか。
ん? と首を傾げたベイリー。何とも言えない表情で目を逸らすジョー。
「ジョー。お前、媒介は?」
至極簡単な問いかけに、ジョーの顔色が即座に変わった。勿論、健康的ではない方の色へ。
「あ、ははー……それ聞く?」
ひきつった笑みでジョーは言う。青い顔、滴る冷や汗。
ここまで明白に「隠し事をしています」と主張されるだなんて思ってもみなかったし、ついでに言うなら隠し事の内容は全く隠せていない。
だから先ほど、すぐに「監査」の言葉が出たのだと、ベイリーは即座に理解した。
「天秤の従僕」としての職務を全うできているか。それを抜き打ちでチェックされるのが監査だ。監査があって困るのは、失態を犯している自覚があるから。
「お前、失くしたのか!」
「まあ、そうとも言う……」
「馬鹿だ馬鹿だと思っていたけど、ここまで馬鹿だとは思わなかった……!」
「おー、韻踏んでるなー」
「馬鹿か!? いや馬鹿だったな!」
あんまり連呼しすぎて「馬鹿」がゲシュタルト崩壊してきたし、頭も痛くなってきた。
うう、と唸り文字通り頭を抱えたベイリーは、マリアベーラに「あの……」と控えめに声を掛けられたことで少しの平常心を取り戻す。
「……すみません、動転しました。同僚があまりにも馬鹿だったので、つい」
「いいえ、気にしておりませんわ」
気にされないのもどうかと思うが、と渇いた笑みを浮かべつつ、ベイリーは振り返って説明し始める。
どれほど馬鹿であってもジョーは「天秤の従僕」の一員。当然ながら彼も秘術を使う権限を持っているのだが、今現在、それは使用されていない。
この廊下は、騎士団長の執務室に向かうためだけにある廊下だ。警備の関係上、その他の部屋には通じていない造りになっている。
騎士団長に会うのなら秘術を使わないはずがない。顔を覚えられるわけにはいかないためだ。
けれど使っていなかったため、ベイリーは問いかけたのである。お前、秘術を使うための媒介はどこにやったのだ、と。
秘術を使うために、媒介は必須というわけではない。しかし、なければ精度が落ちる。
先日の婚約破棄騒動を例に出すと、媒介がなければテラス全域に均等に秘術を展開することは不可能だった。
あとは、媒介は身分証明にも使われる。紛失なんて以ての外だ。再発行など易々と出来ないのだから。
最後に、これが今一番重要なのだが、媒介があれば限定的ではあるが秘術を使うことも可能となる。素養がなくても、それを秘術だと認識していなくても。
そのために各自、発動の鍵になる文言や操作を決めておくのが基本なのだが、この様子だとジョーの鍵はよっぽどわかりやすかったに違いない。
単純パスワード、ダメ絶対。「天秤の従僕」でなくとも通ずる基礎の基礎である。
その事情を端的にマリアベーラに伝えると、彼女は神妙な様子でこっくりと頷いた。
どうして本人以外に事の重大さが理解できてしまうのか。本人が馬鹿だからだろうか。
「……ジョー。お前の知っていることを全て話せ」
「えー? 大体話したけど。おれの媒介がなくなって、何でかわかんねーけどおれは辞めるから、これ出しに来ただけで」
ひらひらと退職届をひらつかせるジョーは、いっそ小気味いいほど見事に思考誘導に掛かっている。
溜め息をつきつつジョーに向かって手帳の裏表紙を向け、ベイリーは再度同じ質問を繰り返した。
するとジョーは、あっちこっちに目を泳がせながらもぽつりぽつりと話し始める。
「媒介、そーだ。おれの媒介が、誰だっけあれ……なんか、大隊長のジャマ? とかって……あれ、何でだっけな……ううーん……?」
酩酊したようにぐるぐると目を回して、ジョーはその場に座り込んでしまう。
ベイリーは情け容赦なくジョーの肩を強めに叩く。今失神されては折角の手掛かりがなくなってしまう恐れがあったためだ。
「お前の媒介は誰が持ってる?」
「おれの、ふ……くちょ……副長、が」
「副長?」
そう問いかけた瞬間、ジョーの意識は落ちた。二重で秘術を掛けられて、脳が混乱したためだ。
どうしますかと言いたげに、寡黙な騎士が目で問いかけてくる。
「……一応、重要参考人です。お手数ですがついでに運んでもらえますか?」
ひとまず目を覚ますまでは、廊下に放置でいいだろう。見張りも必要だろうし。
ベイリーの指示に快く応じてくれた騎士は、ジョーを荷物のようにして肩に担ぎながらも騎士団長の執務室へと案内してくれた。
流石、普段から鍛えているだけはある。全くぶれない歩行速度に感心するほどだ。
その後は何も起こらず、廊下の突き当りにある執務室へと真っ直ぐに辿り着いた。
騎士にジョーの見張りを任せて、ベイリーはマリアベーラの後に続いて入室する。
それから騎士団長にこれまでのいきさつを説明し、件の大隊長と副長について話を聞けば、その正体はすぐにわかった。
大隊長の名前はルダン・イベシル子爵。そして彼の副官はアンディオという平民だ。ちなみに彼らは騎士団でのジョーの上司でもある。
イベシル子爵は長年騎士として勤めている。年功序列的に大隊長へと昇進したのが二年前のこと。
国内に限るが、目新しい戦というのは三年前から起こっていない。すなわち彼は、平和になりつつある情勢を見て、内務能力の高さから大隊長に任じられたことになる。
その副官であるアンディオ氏は、小間使いの頃イベシル大隊長にその実力を見出されたという経歴を持っている。
実力というのも武力的なものではなく文官的なものだ。強いて言うなら商家の出なので財務的な問題に強いらしい。
さて彼の人間性はというと、出自のことがあってか劣等感が強く、何をするにも「イベシル子爵のため」という理念で行動するという報告書が上がっている。
失くなったジョーの媒介は十中八九彼の副長、すなわち副官アンディオの元にあるだろう。
それを用いてアンディオが若い騎士たちを辞めさせているのだとしたら。それこそ、イベシル大隊長のため、という免罪符を掲げながら。
いわゆる狂信者だな、と冷静に考えながら話を聞き終えた頃、ベイリーは一つの厄介な事例を思い出した。
爵位を持つ貴族に対して審議処断権を持つ「天秤の従僕」だが、彼らが退けられた前例はいくつかある。
その中で今回該当しそうな問題は一つ。貴族を騎士が捕らえるためには令状が必要だということだ。
「令状、ですか」
「はい。僕の伝手を使っても、最短で一週間はかかるでしょうね」
それか、教会に応援を頼んで兵士を回してもらえばこの事例には引っかからない。
だが、現状では物証はないのだ。副官の手元にジョーの媒介があるとは言えども、窃盗か強奪かただ拾ったのかは判明していない上、その価値を知っているのは「天秤の従僕」のみ。
つまるところ教会が介入する理由がないわけである。
そういうわけで、今日のところは帰りませんかと相談しかけたベイリーは、執務室の外から自分を呼ぶ声が聞こえて言葉を飲み込んだ。
ジョーの声だ。それが、何故か焦った様子で扉の外の騎士と言い合いをしている。
「……またあいつ……」
「丁度お話も聞き終わりましたし、わたくしたちもお暇いたしましょうか」
「それもそうですね。それでは団長閣下、貴重なお時間をありがとうございました」
深々と頭を下げてから、ベイリーは先に退室する。いちゃつくなら二人きりのときにやってくれ、と言わんばかりに。
まあ、執務室内には補佐官が三名ほどいるので正確には二人きりではないのだが。
甘い空気にさらされる気分は自分以外が味わえばいいことだ。
ふう、と清々しい溜め息をついてから扉を閉めたベイリーは、案内の騎士に詰め寄っているジョーを見てから重々しい溜め息をついた。
どうやら意識を取り戻したらしい。ずっと気絶していても構わなかったのに、という顔を隠すことなく声をかければ、キャンキャンと子犬のようにジョーは吠える。
「ベイリー、おれ、思い出したんだよ! 副長が、あっ、おれの上司のな?」
「知ってる。どこかの馬鹿が失くした媒介で、イベシル大隊長の副官のアンディオとやらが、若い騎士たちを退職に追い込んでるんだろ」
「あれっ? おれ、そこまで言ったっけ?」
いまだ憶測の域を出ない予想だったのだが、ジョーはあっさりと肯定する。どうやら先ほど気絶したことによってすっかり秘術の影響はなくなったらしい。
すっきりした様子のジョーとは打って変わって、頭が痛そうにしているのはベイリーだ。
口に出してみたはいいものの、そんなこと有り得ないだろうと思いながら喋っていたのだ。それが真実だなんて思いもしなかった。
「……令状、申請してないよな?」
「おれがそんなことしてると思うか」
「聞いた僕が馬鹿だったよ」
ふふん、と何故か偉そうな態度のジョーは後で殴っておくとして。
仕方ないな、と呟きながらベイリーは眉間を揉み解す。
その仕草を見て、ジョーは首を傾げながら問いかける。何かベイリーに考えがあるのだとわかったためだ。
「……どうする気だよ?」
「どうにかするんだよ。こういう時こそ使える魔法がある」
但し書きという名の魔法が、と疲れ切った様子で渇いた笑みを浮かべるベイリー。
それを見て、ジョーはぞくりと背筋を冷やした。
こういうときこそベイリーは輝くのだ。舞台を整え、相手をその上に追いやって追い詰めて、女神の名の下に論破するときにこそ。
ロクでもないなー、と思いながらも止めはしないのだから、ジョーも共犯のようなものではあるのだが。
執務室から出てきたマリアベーラにも協力してもらおうと、ベイリーはつらつらと策を語り始める。
半分だけ聞いて、マリアベーラは頷き、ジョーは顔をしかめ。
八割ほど聞いて、マリアベーラは目を輝かせ、ジョーは顔を青くし。
最後まで聞いて、マリアベーラは笑顔で手を叩き、ジョーは廊下で丸くなった。
「素晴らしいですわ、ベイリーさん。まさに正義の使者ですわね」
「強いて言うなら女神のしもべですが」
「やだよー、何でこんなの思いつくんだよー!」
「うるさい。元はと言えばお前の失態なんだから自分で挽回しろ」
かくして、作戦は速やかに実行に移されたのだった。