同乗者
「なんで他に人がいるの」
頭をあげた先にある列車と、自分以外いなかった筈の人。
それはどうやら他の人たちも同じようだ。
「あんたら誰だよ、さっきまでいなかっただろ」
疑いの眼差しを向けてきているのは伸びきっていない背丈、幼さの残る顔をした少年と…
「ゆ、幽霊?」
驚いた顔でこちらを伺っているのはスーツを着た社会人風の女性だった。
「もしかして補導か?スーツのあんたは教師とか?残念だけど俺はこの列車に乗るから一緒にはいかねーよ」
「わ、私もこの列車に乗りたくてきたんです…ただの事務員なんで教師じゃないんです」
突き放す様な態度に対して丁寧な返事。
少年はそのまま私を見る。
「私は頼まれ事があって居合わせただけ。学生だから教師じゃない」
「…ならいい」
ぷいっとこちらから視線を外す。
スーツのお姉さんとも一瞬目があったが、すぐに反らされてしまう。
沈黙して動かなくなった二人も目的は同じらしい。状況は大きく違うだろうけど。
思考にはまる直前に小さく咳払いが聞こえた。
「そもそも数人になるのは珍しい事ではありますが、皆さまお連れではないですね。ご案内致します」
その言葉と共に車掌と思われる人が列車の入り口を示す。
先に乗ったのは少年だった。ほとんど全力で駆け寄り飛び乗る。
続いてお姉さん。恐々ながらも確実に足を進めている。
「…乗らないんですか?」
私だけが動きだせずにいる。
「乗る理由がよく、わからないんですよね。」
「というと?」
私は、とこれまでの経緯をかいつまんで説明する。ふんふん、と聞いてくれる車掌さんは私が話きると同時に手を引く。
「え、あの、ちょっと…」
「貴方は列車に乗る条件をしっかり満たしていますよ、例え勧められたものであれ、ここまでこれたのは貴方。その教授ではない。」
なくしものも見つかりますから、と手を引かれるまま乗り込むと同時に扉が閉まる。
内装は至って普通、窓と扉に沿うように横長の椅子があるだけでシンプルな造りだった。
離れるように先に乗った二人が両奥にいる。
「それではお待たせしました、出発しましょうか。…車掌の空也と申します、終点までで結構ですのでお見知りおきください。」
車掌、空也はにこやかにそういうと、ようやく私の手を離した。
「あき様、どうぞ宜しく。…ああ、名前は皆さま存じておりますよ、光輝様、由季様。」
驚いた顔の私をおいて、空也は運転室へと去ってしまった。
ガタガタと揺れる音だけが響く。
「…由季、さん。」
「あきさん」
ほぼ同じタイミングで名前を呼ぶ。
女性同士で話しやすそうだという理由だけだった。
加筆します。




