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4711  作者: 松河莉希
4/7

First LOVE

地下へと続く階段を下り、重厚なドアを開けると渋めのジャズが流れてくる。

通いなれたこの店でも、数ヶ月ぶりともなれば初めて来店するかのように

新鮮でワクワクする。

前と変わらず洒落た店内。一枚板のカウンター越しに勇次は片手を挙げて俺に合図する。

飯島勇次。高校時代からの悪友。「喧嘩をしたら分かり合えた」とかいうありがちな

オトモダチの構図。

「おう」

俺がスツールに腰掛けるかどうかのうちに、目の前に琥珀色に満たされたグラスが置かれる。

ターキーのダブル。飲まなくてもわかる。

「お前さぁ、たまにはオーダー聞いてもよくないか?」

「・・・何飲むんだ?」

頭の中でいくつかのカクテルが思い浮かぶ。が結局俺はいつも通り目の前の

グラスを揺らした。

勇次はそらみろと言いたげに唇の端でニヤリと笑う。

勇次の磨く仕草を横目に俺は煙草に火をつけた。


ふらりとこの店に来てはグラスを空け、流れるBGMに気持ちを委ねる。

勇次は何も言わず、俺も何も言わない。

時間だけが過ぎていく。

絶対にないとはいえない日々の憂さを洗い流すには都合のいい空間だった。


「香奈にあったぞ」

二杯目のターキーをグラスに注ぎながら勇次が切り出す。

「カナ?・・・伊藤香奈子?」

返事の変わりに差し出されたターキーを口に含む。心なしか苦い。

制服姿のあどけない笑顔が頭の片隅に浮かぶ。

「そう。来月、結婚するんだと」

「そっか」

昔のオンナが幸せになるのって、悪い気はしない。

特に香奈は特別だ・・・

「あいつ、心配してたぞ」

「心配?」

「バカの熱病はまだ続いてるのかって聞かれた」

熱病だ? そりゃ凄い言われようだ。まぁそれも仕方ないか。

ある意味、香奈子は最初の被害者(?)だ。

「で、どうなんだ?」

「何が」

「この時期に一人でふらふらしてる所をみると。ま想像つくけどな」

「・・・・るせぇよ」

俺は小さな声でボソリと呟く。


あの頃を知っている勇次にウソを吐いても意味がない。

グラスを磨き終えた勇次も銜えてた煙草に火をつけた。外国産の独特な

香りがかすかに漂う。

「愛・・・だな」

吐き出した煙と共に勇次が言う。

「そんなんじゃねぇよ」

俺はターキーを飲み干した。舌から喉に掛けて苦味が広がる。

「っていうより、お前の場合は初恋か」

クッと笑うと勇次は自分に入れたバーボンを飲み干した。


それ以上、勇次は何も触れなかった。ただジャズが心地よく響いていた。


新しい客が店に顔を出し、2人だけの空気が変わる頃、俺は席を立った。

勇次は顔を上げて店に来た時と同じように片手を挙げると、新しい客用の

カクテル作りに集中していた。


店の外では普段と変わりない騒々しさが広がっていた。

何となく自分の中で浮遊感が漂う。少し酔ったみたいだ。


勇次の言葉がターキーと共に俺の身体を揺るがせる。

『初恋』を忘れる奴はそうはいない。

そういう意味では勇次の言葉は的を得ている。


俺はハルを忘れられない・・・・・たぶんこれからも。


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