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美しきものとは  作者: 唯愛
本編
6/17

公爵家次男の諦観

今回は短いです。





 まだ11歳の少年だというのに、その表情はすでに大人のそれで。

 どこかジリルを思わせる乏しい表情に、ジリルからの要望とか貴族社会の陰謀とか関係なく力になろうと思った。





 マルセル・ワーゼナット。

 現当主のベリアル・ワーゼナット侯爵の一人息子で、昨年心の病で錯乱したままの母を亡くしている。


 母親の実家である男爵家が母親を連れて帰った際、一緒に彼も連れて帰ってきており今も保護しているけれど、彼は侯爵の所業と母が壊れゆく様をその目で見てきた少年だった。


「僕の名前はグルトだ。彼はビット。今日からしばらく君の家庭教師になる」


「ビットと申します。よろしくお願いします、マルセル様」


「よろしくお願いします、ビット先生」


 硬質な声は緊張というよりは警戒。

 僕が連れてきた髪色が真っ白になったかつての僕の教育係であるビットもそれは感じているだろう。

 

 男爵家はワーゼナット侯爵に深い嫌悪感と憎悪を抱いてはいたが、実質何をすることもできずに歯噛みしていたようだ。

 僕は男爵家には公爵の所業については特に触れることなく、ただワーゼナット侯爵とマルセルは不仲であるとお聞きしたので教育をこちらで請負ましょう、と書状を出した。当然、いきなりの申し出に困惑はあっただろう。しかし、デラトルン公爵家からの配慮の手紙を無下にするわけにもいかず仕方なしに返事をしてきたのだと思う。

 どのような思惑があれ、このままずっと侯爵の後継息子を男爵家に留めておくことはできないし、だからといって侯爵のもとへ連れて行きたくもない。


 僕からの申し出は苦渋の決断を余儀なくさせただろう。


「グルト様。あなたの考えは私にはわかりませんが、この度のことはありがたく申し出に甘えさせていただきます」


 しっかりと話をすることはできるし、目もじっと僕の方を見て物怖じをしていない。

 きっと彼なら大丈夫。


「ビットは優しそうな顔をして厳しいですからね、健闘を祈ります」


 まだ11歳の少年の頭をわしゃわしゃっと撫でる。

 不快げに顰められた顔に、まだあどけなさがあって口元が緩む。


「たまに様子を見に来るからね、今度は笑顔で出迎えてくれると嬉しいな」


 まだ柔らかな曲線を描く頬をぷにぷにっと指でつついて言ってみると、真顔で「やめてください」と怒られてしまった。


 昔、一回ジリルにやったら指の骨を折られかけたんだよね。

 それに比べるとなんて可愛い対応だろうか。


「ビット、よろしく頼むよ」


「畏まりました」


 丁寧に完璧なお辞儀をしてみせたビットは、これっぽっちも年齢を感じさせない。

 10日くらいしたら様子を見に来るかな。

 甘いものとか好きかな? 今流行りのお菓子とか持っていったら食べてくれるだろうか。




 さて、と。次はレオンハット当主だな。

 俺と似たような立場のジリルの父親。公爵家から伯爵家へと婿入りしたことは不本意なことだったのだろうか。

 次男で気楽にできる僕とはまったく性格が違うのだろうけれど。


 社交界で何度か会話を交わしたことはある。

 さすがジリルの父親だと思ったくらいの美しい人で、冷たい人だった。

 ジリルの父は法務局に勤務していらっしゃる方だからというのもあるかもしれないけれど、規則や法を重視して人の心を見ない傾向がある。


 奥方も今だって大層美しい人だけれど、序列というものに厳しい方だ。

 今更ながら思うのは、ジリルの両親は分不相応というものを弁えているということだ。

 貴族ならばこうあらねばならない、という考えがあるようで、無意味に権力を傘に来たり固執したりはしないが蔑ろにもしない。その考えは奇しくもジリルに引き継がれている。


 ただ、お二人は人の心の機微に鈍感だ。

 形だけの家族にどれほどの意味が有るかなど考えたこともないのかもしれない。それによって幼いジリルが心を凍らせた意味も。


 今は時間がないから出来ないけれど、いつか分かり合える日が来ればと思う。

 決して悪人たちではないからこそ。




 まぁ、今出来るのはダンバール家との婚約を取り消すための書類作りだ。

 ダンバール家とただ姻戚を結んでの利よりも、フローラ嬢をワーゼナット家に嫁がせることで得る利。


 ワーゼナットから格安で糸を手に入れることのできるようになるダンバール。当然、その2領間に互いの商人が通る。その流通路をレオンハット領を通るようにさせれば、それだけで関税が落ちる。ジリルはその立地も計算に入れていたんだろう。

 あと、ダンバールのワインをワーゼナットに買わせるついでにレオンハットのチーズやらワインのアテとなる食料を売りつけられれば御の字だ。

 

 それと、フローラ嬢の浪費に関する資料も作っておくかな。

 どんなに美しいご令嬢だろうと、それを維持するのに湯水のように金を使われれば百年の恋も冷めると僕なんかは思うんだけれど。世の男はそうとは限らないんだよね。

 ただ、ジリルの母親はそういうことに厳しそうだし。

 その辺のことはそれとなくダンバール家に噂で届くようにしようかな。向こうから婚約破棄したいと言い出せば儲けもの。


 そうと決まれば次の社交界だな。

 フローラ嬢の耳に入るように、彼女の取り巻きのレッタ子爵令嬢当たりに吹き込むか。

 そうなればドローテ子爵の夜会の招待状が来てたな、あれに出席してみるか。



 完全に裏方で、ジリルにいいように使われている気もするけれど。

 まぁ、怒っているジリルに逆らうほど愚かではない。この騒動が終われば怒りも静まるだろう。


 それまでは諦めてあの美しき友人の逆鱗にだけは触れぬよう、馬車馬のごとく働きますとも。

 

 


今更ですが、実際貴族ってどういうことしてるのかわからないので適当です。

今回の世界観では、領主だけやってる貴族とニートと領主兼王宮でお仕事やってる人といます。全然話に出てこないけど、ジリルは何の仕事かの設定はありませんが王宮勤務だったりします。

そんでもって王宮勤務の貴族は当然、中央に別邸があります。


グルトさんは地方を視察中で単独行動し放題の実家手伝い。自由がきく分、使われる運命。なのかもしれない(実は未設定)

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