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美しきものとは  作者: 唯愛
本編
2/17

子息の真相

容姿についての描写がほとんどないので。

フェリア→平凡な感じ。多分、茶髪にはちみつ色の瞳。

ジリル→冷たい感じ。多分、水色系統の髪に蒼い瞳。


マーシャル→熱い感じ。赤っぽい。

グルト→優男系な感じ。多分、金髪とか茶髪とかほんわりしそうな色。

ジラート→常識人。グレーとか似合いそう(適当)

 父も母も、美しい人だった。

 私もそれを受け継ぎ、美しいと言われる程度の容貌だった。

 だが、それが一体何だ言うのだろうと子供ながらに思ったものだ。


 両親の仲は冷え切ったもので、家の中はいつだって息苦しい雰囲気だった。

 母親に抱かれた記憶も父親に遊んでもらった記憶もない。屋敷にいる大人たちは遠巻きに自分を眺め、淡々とした日常の繰り返しにしか思えなかった。


 それが変わったのは、あの日、フェリアに会った日からだ。


 婚約者として連れてこられたフェリアは落ち着きがなく、今考えると非常に子供らしい子供だった。

 父親の足にしがみつき、隠れるようにしてこちらを見る瞳は恐れと照れ、そして大きな好奇心で一杯だった。

 なんだかその動きが面白くて、必要以上に見つめていたかもしれない。


「さぁ、フェリア。ご挨拶を」


 父親に背を押され、一歩前に出た彼女はオドオドと落ち着きなく視線を彷徨わせたあと。

 静かにじっと自分を見た。

 甘そうな、はちみつ色の大きな瞳が、真っ直ぐ自分に向けられたのを感じて自分もじっとその瞳を見つめた。

 

「ふぇ、ふぇりあ、です」


 必死にそれだけを言ったあとは、またオドオドと周りに視線を巡らせる。

 ほんのりと色づいた頬に触ってみたいな、なんて思いながらもこちらも挨拶を返す。


「ジリル・レオンハットです、よろしく頼む」


「あ……えっと、うん……じゃなくて、はい?」


 こてり、と首を傾げ父親を見上げる。

 不安そうに揺れた瞳が、父親のよく出来ましたと言わんばかりの頷きにぱっと輝いた。


 ころころと変わるその表情は見ていて楽しい。

 父親の、子供たちで少し遊んできなさい、という言葉に頷いて、彼女に手を差し出す。

 再びオロオロとしだした彼女の手をやや強引に引いて庭へと向かう。大人があのように言う時は素直に従うほうがいいと学習済みだった。


「どこにいくの?」


 後ろを振り返り振り返り、躊躇いながらも自分についてきていた彼女がようやくこちらに向き直り聞いてくる。

 端的に「庭」とだけ答えたら、彼女は「ふぅん」と頷いたきり大人しくなった。


 かと思えば、調子はずれの鼻歌が聞こえてくる。


 いつの間にが繋いでいた手を揺らしながら楽しそうに笑って歩いて付いてきていた。


 その笑顔は、好きだと思った。






 子供の遊びはよく分からず、彼女が来るたびに困惑はしたが迷惑だとは思ったことがなかった。

 慣れてくると、俺が何もせずに隣で本を読んでいても彼女は一人で楽しそうにしていたし、お菓子を食べている間もほとんど一人で喋っていた。

 彼女の話はつまらない内容も多分にあったが不思議と聞いてしまい、たまに相槌を打てばまた楽しそうに笑うので飽きることはなかった。

 その光景が大人たちにどう写ったのかは分からないが、俺なりに彼女と過ごす時間は有意義であり楽しみの時間でもあった。


 最初の頃は婚約者と言われてもピンとこないでいたけれど、年齢を重ねればそれがどういう意味のものかを知る。

 夫婦というものに両親のようなイメージがあったものの徐々にそれも崩れ、大人になればもっと彼女と一緒にいることができるというだけのことが単純に嬉しいと思うようになった。

 それは確かに恋だったのだろう。

 親にも屋敷にいるものにも、外で会う人たちにも。面と向かって言われることはあまりなかったが、俺はそれほど感情が表情に出ることがなかった。

 感情がないわけではないのだが、変化の乏しい顔と無口であることが災いして気味悪がられることは良くあることだった。


 そんな中で、彼女は俺の感情をよく理解していた。

 どうしてわかるのかと尋ねれば、見ていればわかると答えられた。


 他の人は見て分からないから気味が悪いというのにおかしな事だった。

 彼女の前では素直に感情が表に出ているのかとも考えたが、彼女と二人で過ごす際にも周りに世話をしてくれる者はいるわけで。どうやらそうではないらしいと結論づけた。


 ずっと不思議がっていたら、彼女もうーんっと悩みながらも詳しく答えてくれた。


「あのね、ジリルさまはね。嬉しい時は目がきらきらっとするの。でね、楽しい時は、キラキラさせながら目がすっとなるの。あとね、つまんない時はずーんってなってる」


「…………よく見ているね」


「えへへ。だってね、フェリアはジリルさまのこと大好きだもん」


「俺も、フェリアのことは好きだよ」


 答えれば満面の笑みで抱きついてくる。

 俺よりも小さくて暖かい彼女の体を、俺も抱きしめる。大切な人。大好きな子。彼女がそばにいてくれるなら、他の誰に気味が悪いと言われても気にならないくらいに。





 自分が十二歳の年の頃、父親に中央の士官学校へ入学するように言われた。

 すでに全ての支度は整っており、自分の意見もなにもあったものではなかったもののそれが貴族としての自分の義務だと教わってきた身としては否やはなかった。

 息が詰まるようなこの家での生活から出られることは正直なところほっとしていたけれど、フェリアと会える時間が極端になくなることは辛かった。


 それでも士官学校で良い成績を収めることが自立への近道となり、また、それがフェリアを迎えに行く一番の近道だと分かっていた。

 寂しがる彼女に立派に勉強をしてくるから応援をして欲しいと宥めて送り出してもらう。

 会えないこともそうだが、目の届かない場所に、すぐには行けない物理的な距離に不安だったが、一生懸命に手を振ってくれる彼女に手を振り返し、情けないところを見せたくはなくてなんとか中央へと向かった。


 士官学校での寮生活は、今までの暮らしと全く違っており、はじめは戸惑いもあった。

 が、まぁこの変化の乏しい表情はほとんど変化なかったらしく。周りには全く戸惑っているようには見えなかったようだ。


 最初の二年は友人すらまともに出来なかった。

 だが、三年目の夏にマーシャルという男とよく話すようになった。この男はこの国に四家ある公爵家のひとつ、南のランダーン家嫡子であった。

 未来の公爵様と有象無象に囲まれていたような奴だったが、それを一蹴してふらふらと一人でいることの多い男でもあった。

 粗野で面倒くさがりに見える反面、公爵家嫡子としての容赦ない教育の賜物を時折垣間見て感心したものだ。堂々と俺に表情が硬すぎると文句を言った輩でもある。


 俺の無表情が気に入ったのか何なのか、気づいたらよく一緒にいて仲が良くなっていた。

 

 五年目に入る頃にはマーシャルと仲のいいグルトとジラートという男ともよく一緒にいるようになった。

 グルトは東の公爵家、デラトルン家の次男であり、ジラートはグルトの幼馴染でもある東の男爵家出身の侍従であった。


 彼らは俺に感情があることを理解し、表情がないことをからかうまでになった。

 冗談すら言い合う気心の知れた仲間ができたことは生涯の宝になることだろう。





 そうやって卒業したあと、久方ぶりに会ったフェリア。

 彼女は記憶よりもずっと大人びて、お淑やかな女性になっていた。


「お久しぶりにございます、ジリル様。士官学校では優秀な成績を修められたとお聞きしておりました」


「あぁ」


「お疲れでございましょう。お話は後ほど、まずはどうぞお寛ぎくださいませ」


 勧められた椅子に座る。

 僅かに伏せられた目にはかつての感情豊かな色が見えない。

 一瞬、母親の自分や父を見るどこまでも醒めた目を思い出して息を呑む。


 ふと顔を上げた彼女が、困ったように笑った。

 その笑い方は、とても貴族的だった。昔のような、満面の笑みでも、照れ笑いでもなく。何かを誤魔化すような笑い。

 どうして俺にそんな表情を向ける?

 誤魔化すような、何かがあるのか?

 問い詰めたくなる言葉をぐっと飲み下す。違う。落ち着け。久しぶりだからだ。きっと。

 言い聞かせ、その場はつつがなく話を合わせる。


 なんだか、どこか余所余所しいものに感じて気分が沈んだ。




 長らく会う時間がなかったからあのようになったのだろう。


 そう言い聞かせ、以前のように頻繁に会うように心がけた。

 マーシャル達と会う機会もあり、相談してみると非常に面倒であったが、それでも贈り物をしてみてはどうかという意見ももらった。

 回数を重ねれば徐々に以前のような表情も見せてくれるようになり、会話もスムーズになった。

 昔には見せることのなかった大人びた表情や仕草、ちょっとした羞恥に顔を赤くした様を見ると心拍数が上がった。


 もうすぐ彼女と結婚し、ずっと一緒にいられると思えば幸せで浮かれるほどだった。





 それに不穏な陰が落ちたのはいつだったか。

 

 中央で開かれた社交界で、大抵はいつもの四人で集まって話をしていた。

 時折他の交流を求めて別々に行動はするものの、基本はこの四人で行動する。それはマーシャルに群がる連中を蹴散らすためでもあった。


 だが、最近はマーシャルだけでなくグルトと自分にもよく声がかかるようになった。

 ジラートも何かと自分たちと縁を繋ぐようにと声をかけられているようで非常に鬱陶しい。

 その中で俺によく声をかけてきたのがフローラ・ダンベール嬢だ。ダンベール候爵は近頃、自領の産業発展が著しいやり手の領主。その愛娘のフローラ嬢は社交界では白薔薇姫と揶揄されているとかどうとか。確かに美しい見た目と金の緩やかな髪と青い瞳は華やかな色彩。実家の財力を持ってすれば、その身につけているドレスや装飾品も一級品のものであろう。


 その彼女がやたらと俺に絡んでくる。


 すげなくすれば、周りの取り巻きが姦しくうんざりとしてマーシャル達に助けてもらうくらいだ。

 どこまでも傲慢で正直なところ嫌いな人種に位置するフローラ嬢だが、だからと言って俺の立場では強く出られない。そして、彼女はそれが分かっていて俺に近づく。

 

 マーシャル達は俺の事を分かっていたが、ほかの連中は何を勘違いしたのか俺に攻撃的だ。

 フローラ嬢に好意を向けられていることの嫉妬、俺が相手にしないことに対する憤慨、果てには関係のないことまで持ち出してくる。


 そうこうしているうちに、父親がダンベール候爵と何らかの話をつけたらしい。


 人の意見も意思もすべてを無視して、勝手にフェリアとの婚約が解消され、よりにもよってフローラ嬢との婚約が成立していた。

 フェリアのことを、俺の婚約者として相応しくないと嘲ったあの女と、婚約だって?

 




 なんだそれは。


 言葉を失うとはこういう時のことなのだろう。






 ふざけた事をしてくれる。

 そちらがそう出るなら、こちらも大人しくしているつもりはない。


 マーシャル達に協力を求め、この婚約を潰すことに決めた。

 傲慢なだけの女に、俺の大切な人を傷つける権利などない。絶対に許さない。





実は固定カップルでした。


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