伯爵の戸惑い
ジリル父視点。
私も息子のジリルも王宮での仕事があるために、ここ数年は王都の屋敷で暮らしている。
妻は普段は領地にいるが、今回の息子の婚約でのことで今はまだ王都の屋敷にとどまっていた。これほど長く家族が揃っているのは何年ぶりになるか、というほどだ。
その息子であるジリルだが、先日初めて、その心の内を聞いた。
普段何を考えているのかわからない息子であったが、ここしばらく接することが多い。そうしていると、存外普通に話ができた。
あれから息子の婚約者であるフェリア嬢ともよく話をする。
あまり人のいないこの屋敷にそのままジリル達は暮らす予定のようで、部屋のことや我が家のやり方などを学びに来るからだ。
正直、私は女性は苦手である。
妻のこともはっきり言って苦手だ。
昔から立場上、女性と接することが多くはあったが社交的なものだけでプライベートで親しく付きうということはなかった。フェリアは昔から知っているが、子供のことも好きではなかったし、今まで挨拶程度でじっくり話すこともなかった。
それなのに、今になって時折彼女と時間が合えば共にお茶を飲み、話をすることもある。
不思議なことに、フェリアはそれほど苦手には思わなかった。
義娘となる子だからか、仕事や社交で話すことの多い女性達とは違った雰囲気の子だからかはわからない。
とはいえ、別に彼女と二人でお茶を楽しんだり話をするというわけではない。
ジリルと三人であったり、妻とであったり、珍しく二人共そろっていることもある。
家族団らん、などというものとは程遠い我らであったが、今のこのお茶の時間はその言葉に当てはまるものになるのだろうか。
今まで気づいていなかったが、ジリルがフェリアのことが好きなのだという心の内を知ってしまえば、さりげないところで確かにフェリアを気遣っていることが分かる。私が妻に対してそうであったように、婚約者であるから時間を作り会いに行っているのだとばかり思っていた。
普段私には見せることのない、ほんの僅かな微笑みをフェリアに向け、気を遣う息子の姿に驚いたのは私だけではない。
柔らかく甘やかな声で、繊細な壊れ物に触れるようにフェリアの手を握り、眩しそうに目を細める。
その全てが、フェリアが自分の特別なのだと息子は語っているように思えた。
感情の希薄な子供だと思っていた。
誰に対してもああなのだとばかり思い込んでいた。
自分と同じで、大切なモノなど大して持っていないのだと考えていた。
それを見事に壊される。
だが。
悪い気はしない。