夫人の密やかな日常
フローラ嬢のその後。
賛否両論があると思われます。ざまぁ展開や幸せエンドなど予想されている方は読まれないほうがいいかもしれません。
かつて、私はとある男性に恋焦がれた。
その人は誰よりも美しくて、周りから持て囃されていた私にはふさわしいと思い込んだ。
けれど、その人は私を全く相手にもせず、家の権力を使っても私に冷たかった。
あのような仕打ちは初めてで、とにかく悔しくて腹が立った。親に頼んで、私に許しを請いに来ればいいと苦しませようとした。最も、そんなこと出来はせず、むしろ反撃を食らった形となったけれど今では感謝してあげてもいいかもしれないと思っている。
私の夫であるベリアル・ワーゼナットは24歳も年上だ。
見た目はそう悪くなく、お金もそれなりに持っているし、爵位もある。暮らしにはそれほど不便せずに済んでいるが、実家にいる時ほどの贅沢はできない。
それでも着飾れば美しいと賛辞をくれるし、欲しいものをねだれば買ってくれることもある。
彼の爵位を継ぐ子供はすでにいるので、後継の問題を気にする必要もない。気ままな生活を送れている。
まぁ、その子供は私に懐くこともせず可愛くないんだけど、一緒に暮らしているわけでもないからどうでもいい。
問題としては、少々田舎なことだ。
王都より離れたこの領地では、どうしても流行に乗り遅れがちだ。王都に行く機会もあまりなく、退屈でもある。
けれど、別にかまわない。
結婚するまでは思いもしなかったことが夜に待っているから。
主人はかなり手癖が悪い。
使用人や出入りの客人にすぐに手を伸ばす。女性はもちろん、男性にまで。浮気など日常茶飯事だ。
私はその都度、主人を責めてはお仕置きをしている。
彼は恍惚とした表情でそのお仕置きを受けてくれる。言葉責めだけでなく、ちょっとした暴力も。傷のあまり残らない鞭をプレゼントされてからはそれを使っているわ。年上の男性を跪かせ、虐めることのなんて楽しいこと。ふふふ。無様に許しを請うさまは今までにない快感を与えてくれる。
こうなると、反省していなくて浮気を繰り返すのか、お仕置きして欲しくて浮気を繰り返すのかわからないわね。
でもね。
あの人のいいところはそれだけじゃないの。
時々反撃してくるのよね。
それがまた素敵なの。無様なあの人も楽しいけれど、人が変わったように容赦なく私を愛してくれるのも好きよ。かつて受けた屈辱など可愛いお遊びだったのだと分かるほど、主人は容赦がない屈辱を与えてくる。蝶よ花よと育てられた私には衝撃ですらあった。
縛られて動けないこともあったし、媚薬を飲まされて一晩中泣いたこともあった。
夫婦の営みを他人の目がある場所で行わされたこともあったし、逆に複数の人の行為を見させられたこともあった。
最初は混乱したし怖かったけど、いつの間にかそれらが快感になった。
最近では義理の息子であるマルセルは年に一度程度しか会うこともない。
主人も引退しており、二人共領地の奥に引っ込んで日々を楽しんで過ごしている。
でも、一部ではそれなりに有名なのよ。
誰もが好きに振る舞える、享楽に落ちる歓楽地。
今日の主人はどこの誰と浮気をしているのかしら、どんなお仕置きにしようかしらね。
この気持ちはかつて抱いた綺麗な愛とはかけ離れてはいるけれど、愛には変わりない。愛されることのない日々よりもきっとずっと、今の私は幸せなのだろう。