表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
美しきものとは  作者: 唯愛
本編
1/17

令嬢の独白

思いつき投稿。

視点がコロコロ変わるタイプの小説。



 人形のようだと揶揄されることは珍しいことではないという。

 まさに作り物めいたはっとするような美貌と無機質とさえ感じる無表情。


 けれど、確かに人形ではない、生きた人間であるとの証明のように揺れる瞳が何よりも美しく感じた。


 多分、その時に落ちたのだ。

 この甘く切ない恋などというものに。






 彼の名は、ジリル・レオンハットという。

 この王国には東西南北に分かれるようにして公爵家が4家存在している。

 レオンハットは西に存在する伯爵家で、当代の主は西の公爵家出身の婿だ。そんな家の嫡子として生まれた。


 一方の私は南に存在する伯爵家の娘である。

 西に近い南であり、レオンハット伯爵家とは隣とまではいかずともわりと領地が近い。

 こちらは同じ伯爵位であっても実際の権力の差は歴然としているほどの平凡な家柄だ。そんな私がジリルの婚約者に選ばれたのは、都合が良かったからにほかならない。


 家格は一応伯爵家。

 特筆するほどのものはないが、悪くもない。

 当家には私以外に兄と弟がいて、爵位には私は関係がない位置にいる。

 婚約の都合が悪くなった場合、レオンハット側の権力があれば無理を通して破談にできる。

 とまぁ、そんなところだ。

 初めから、レオンハット家にそういう意図があることは分かっていた。それでも、何事も問題なく過ごせれば我が家にとって悪い話にはならないから受けた。

 そもそも断れるはずもなかった。


 そうやって私たちは引き合わされた。

 彼、ジリルが七歳、私、フェリアが六歳のことだ。


 当時から非常に美しい容貌のジリルであったが、それほど表情がころころ動く子供ではなかった。

 それ故か、同年代の子供は近寄りがたく感じたようで浮いた子供でもあった。また、大人から見ても可愛げがなかったのか、遠巻きに見られることのほうが多かったような気がする。


 私の場合は、ほぼ一目惚れだったせいか子供の頃は普通に接していたような気がする。

 無表情に思われがちだが、彼にもちゃんと表情が存在する。けれど、表情筋が壊れているのかあんまり変わらないことが多い。

 ただ、その瞳の変化は著しかった。

 好きなことや興味のあることにキラキラと瞳を輝かせ、嫌なことや辛い時には翳ってしまう蒼い瞳。

 小動物が好きで、小鳥を指に止まらせて満足気な顔をしている時には微笑ましい気持ちにもなった。

 それなりに良好な関係だった。


 それが少し変わったのは、ジリルが十二歳の時に士官学校に入学してからだ。

 中央の学校は寮生活で今までのように会うことはできなくなった。それまでは二月に一度の頻度で会っていたが、余程の事情がない限り領地に戻ってくることもなくなり一年に一度、会えるかどうかというほどになった。

 ジリルも私も少しだけ大人になり、少しずつ何かが変わったのだろう。


 五年後、ジリルが十七歳で士官学校を卒業した頃にはお互いにどことなく余所余所しいものになり、上辺だけの会話になってしまっていた。


 気持ちが冷めたとかじゃなく、私も淑女の教育を受け、それに則って行動したらそうなってしまった。

 久しぶりで気恥ずかしかったとか緊張したとかもあったんだろう。

 けれど、相変わらずのジリルの無表情と……無感動な瞳に本音の言葉を失ったのだ。


 子供の頃のように、もう無邪気ではいられなくなった自分がいた。


 知ってしまっていた。

 この婚約が、簡単に壊れてしまう可能性の秘めているものだということを。

 恐怖してしまっていた。

 自分と同じ、好きという感情が返されることがないことを。

 嫉妬してしまっていた。

 敵うことなどない、ますます美しくなったその姿に。


 それでも。

 それでも彼を好きだという気持ちはなくならなかった。むしろ、ますます愛おしいとさえ思った。


 律儀に定期的に私を訪れたり、贈り物をしてくれることが嬉しかった。

 昔のように瞳に感情が宿ることが楽しかった。時折表情も綻び、穏やかな時間が過ごせたことが幸せだった。


 


 予兆はあった。

 気づかないふりをしたかったのだ。それが何の意味もなさないことを知っていても見ないふりをしたかった。

 結局はそんなこと出来る訳もなく、私は諦めて夢を見る心地で幸せを噛み締めた。


 ある日、父に呼ばれて執務室へ尋ねれば、頭を抱えてうなだれる父の姿を目にした。

 やるせなく、言いづらそうにするのを見て、直感的に理解した。それはやはり、諦めの、あぁ、やっぱり、という心地で。


 もうそろそろ結婚の話が出てもおかしくはない、彼が十九歳、私が十八歳の時だ。


 レオンハット家から、婚約破棄の申し出があった。




 我が家はただ諾と頷き、その申し出を受け入れる他なかった。

 もとより家と家の決め事。

 私が決まったことに口を挟めるはずもなかった。


 婚約破棄の後、彼はすぐさま新たに婚約した。

 彼の新しい婚約者は私よりも二歳年下の、白薔薇姫とあだ名される美しい侯爵令嬢だった。


 彼女の家は最近産業で発展著しく、また、彼女の器量の良さに憧れる令息令嬢は数多く。

 私などと比べることもおこがましい、彼と並んでも遜色ない人だった。


 私は精一杯笑った。

 それは、ただの意地だったのか防衛本能だったのか。

 ただ、婚約破棄なんて大したことはないと笑った。

 



令嬢の名前はフェリアさん。なんか、名前とか全然出てこなかったね。というか、セリフとかどうなった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ