現在・過去・未来
『これ…美味しい…?』
少女は工場で量産されているおにぎりを持って言った。
…はぁ?何言ってんだこの娘は…だいたいお前はいつもコレを買ってるだろ。
『さぁ…?食べたことないからわからないですね』
『食べて…。』
…はぁ?オレは職務中だぜ?(まぁ…バイトだが 笑 )
『さすがに仕事中は…』
『そう。』
レジに商品が置かれる。
…って、結局いつも通り買うのかよ。
細く、赤い光がコードを読む。ピッ…
『315円になります。』
…毎回だが、金額ピッタリお支払いだな…
この少女は毎日やってくる(時間はランダムだが)。毎回105円を3品。イヤでも覚えてしまう。
だが…理由はそれだけじゃない。
何より格好が目立つ。
毎回『なにかのコスプレか…?』と思うような格好をしている。
ここは東京・秋葉原でも、大阪・日本橋でもない。地方都市に行くには2時間ほど掛かる片田舎だ。ほんと目立つやつだ(良いお客だが 笑 )。
★
『これ…美味しい?』
気まぐれで聞いてみた。
何で聞いたのか私にもわからない。
ただ…本当に気まぐれ。
………あっ。
…またレジこの人。行くときいつもこの人なんだけど…しかも…また『変なヤツ』みたいな目だし。
『私…変ですか?』
彼は『ビクッ』と驚く。同時に目が泳ぐ。沈黙のまま、レジ袋を持つ私を見る彼。何も反応しない、固まった彼を見て…私は店を出た。
★
『私…変ですか?』
話したことがない少女に聞かれたオレはどう答えりゃいい?
『………』
…黙るしかないだろ。
ただ、少し心が見透かされた感じで…
うん…何だ?心地よくは無かったな(汗)。
…知らない間に帰ってやがるし。
何がしたかったんだ?アイツは…
それから数日間…謎の少女(仮)は店に来なかった。
あぁ…何でオレが毎日バイトに入ってるのか、ツッコミがくるだろうが…
あれだ。某ハンバーガーチェーン店の人件費削減を支えるような職種。
高校入学時には夢やら希望やらあったんだが…何も目標のない友達のおかげで、今やフリーター。笑
テキトーに働き、イヤだったらバイトだから気軽に辞めれるしな。
流石に、コンビニじゃ『夢』は売ってないな。笑
あの謎の少女(仮)。
どうしてるだろうか?
いや…誰でも気になるだろ?あんな不思議なやつ…滅多にいないし。
★
…そういえば、なんだか…あの店入りにくくなったな…
あの店員さんの…変な物を見るような目…
みんな私をそう見るんだ…
だよね…私がこんな格好してるからだよね…。
あぁあ…また他人に迷惑かけてるのかな…?わたし…
『うっ…うっ…っ…』
………
★
…やっぱ来ねぇな。
かれこれ一ヶ月が経った。
謎の少女(仮)はまだ店に来ない…
…バイト、やる気でねぇ…
『今度来たら…謝ろう…』
…ッ!来た!
格好は変わってるが…あの顔立ちは…!
ん…?ちょっと待て…
オレは驚いた。
と同時に彼女の下で頭を下げていた。
『すまん…!』
『………何?』
『いやっ…何も知らず冷たい目で見たと思うから…すまんっ…!』
『貴方が初めて…』
『えっ…?』
『貴方が初めて…謝ってくれた。みんなは冷たい目で見るだけ。貴方が初めて。』
なんて力の無い声…
元々細身だった彼女が、目前の彼女は枯れ木のように窶れている。
聞くと…コンビニに来なかった期間…あまりご飯を食べなかったらしい…
すまない…オレのせいで…
オレは知らずに言葉にしていた。
『いいの。』
本当に力の無い声。
あぁ…オレに何か出来ないだろうか…?
『すまん…!オレに出来ることなら何でもする!何かお詫びをさせてくれ…!』
『じゃぁ…』
『じゃぁ…?』
『携帯の番号を…』
そして…謎の少女(仮)とコンビニ店員は出会った。
…なんてな。
★
彼は優しかった。
あの出来事から数週間…毎日メールをくれた。
嬉しかった。
心配してくれていると思う反面…
今は謝罪の念でやっている。どうせ…またこなくなる…貴女(私)は一人なの…
もう反面。
ピピピッ♪
また彼から。
件名
(本文)
やっ(*^-^*)
今度よかったらメシでも行こう( ^o^)ノ
食べたい物とかある?
件名
RE:
(本文)
うん。貴方が食べたい物でいい。
本当はあんまり行きたくない…。
断れない…。
わたし…イヤな女。
★
この辺りで…美味い飯屋…無いな。
遠いけど…仕方ないか…。
これは昨日の事。
駅で待ち合わせ、駅から地方都市へ向かう。
『………』
『………』
沈黙が続く…。
正直…気まずい。
おっ…ナイスタイミングで到着だ。
『まだご飯にゃ早いから…ちょいブラブラしょっか…』
『…うん。』
これは…周りから見ればカップルなのか?
ちっとも楽しそうじゃない彼女。
すれ違う奴らは『そうか…喧嘩の後か…』などと思うだろうが…
そんないいもんじゃない…
正直…今オレは左隣にいる謎の少女(仮)の事が好きだ。
…彼女はどうなんだろう?
そんなことを考えながら…ふと隣を見る。
………
『あ゛あ゛ぁ゛!!!!!!!!!!!!!………んっ…うっ…うっ…』
………!??
★
ナンデ…?
ナンデ…?
ウソ…ウソ…ウソ…
何デ…?
ワタシノ前カラ消エタハズ…
マタ…
マタ…ワタシ…何カ悪イコトシタノ?
マタ…殴ラレルノ…?
死ニタイ…
消エタイ…
誰カ助ケテヨ…
ドウセ…誰モ…助ケテクレナイ…。
私ハコノ世ニ必要ナイ存在…。
…………
★
人がざわめく中…
一つの奇声。
震える、青白い唇。
冷や汗をかきながら…視線がおかしい…
がたがた震え出す華奢な身体。
………
雑踏の中…彼女は倒れた。
唖然としてるだけのオレ。
数分後…救急車が来た。
乗り込み、事情を聞かれるオレ…。
『わかりません…彼女がいきなり…』
そして…
診察の結果…
彼女は入院することになった。
極度のストレスからくるショック状態。
医師はそれしか言ってくれなかった。
理由…他人だから。
だとさ…。ふざけるな…!
結局…その日は無理矢理帰らされた…。
…面会に行こう…。
そう思ったのは2日後。
『面会に来たんですが…』
3階の角部屋…。
個室…。
そして…
その個室で彼女は…
★
コワイ…
私のお世話してくれる…天使でさえコワイ…
他人の笑顔がコワイ…
他人の仕草、呼吸、全てがコワイ…
『………。うっ…ん…。』
また…わたし…泣いちゃってる。
他人に迷惑かけてる…。
ゴメンナサイ…
ゴメンナサイ…
ゴメンナサイ…
だからもう…
殴らないで…
★
入れなかった。
彼女の…泣き崩れる…他人を信じない瞳…。
冷たい瞳…と言うより
重い瞳…
病院だからとかじゃない…
彼女の瞳から放たれる…孤独、絶望の空気…
耐えれなかった。
…くそっ!
オレはバカじゃないか…!?
大切な人…奈落の底…助けれない自分…情けない…。
何か…出来ること…
何か…
★
彼が来てた事は知っていたの。
本当は気づいてた…。
彼の…あの姿も。
ゴメンナサイ…
貴方は本当に優しいのに…わたし…
こんな自分が嫌い…。
治したい…
お願い…誰か…私を治して…
ダメだ…また…誰かに頼ってる…
うん…。そうだね…。ん…決めた…。
★
…オレ。逃げてるよな…?
大切な人が大変なのに…
でもどうすりゃ良い…?
彼女の闇に踏み込む…?
彼女の心を壊してしまうんじゃないのか…?
壊れなかったとしても…今のオレの心が彼女の闇を照らせるのか…?
『あぁ…!考えるのは止めだ!!』
知らぬ間に叫んだ。
★
…彼が来た。
あれから2週間ぶり…
ホッとした反面…
コワかった。
何事もなかったかのよう話してくれる優しい彼。
少し救われた気がした。
嬉しかった。
楽しかった。
決断の時…
裏切られてもいい…
私は彼を信じようと決めた。
★
『でさぁ。店長が無茶言うんだよなぁ…。バイトの身にもなって欲しいって(笑)』
『あの…。』
初めて彼女から話しかけてきた。
正直…かなり驚いたが…それはまだ軽いものだった。
『ん?どしたの?』
『少し話が…』
あぁ…聞くに耐えない…。
彼女の闇は、想像を絶した。
彼女は施設育ちらしい。
理由は父からの虐待。
母は幼い彼女を残したまま蒸発し、その腹いせが全て彼女へ。
虐待は中学2年まで続いたらしく、殴る蹴るは日常茶飯事。
『お前さえ…お前さえいなければ…!』
『ゴミだ!お前は家の恥だ!』
毎日飛び交う罵声。
小学3年生から性的なものも始まったらしい。
彼女はやせ細ったお腹を見せてくれた。
丸い火傷…火傷の後が丸く白い。
タバコだ。しかも一カ所じゃない。
ボコボコの頭蓋骨。
毎日殴られ、蹴られた結果…変形したらしい。
外傷以上に…
心はボロボロだった。
対人恐怖症
情緒不安定
極度の自己嫌悪
オレは…口を開けたまま…ただ…ただ聞いているだけだった。
聞くしか出来なかった。
何度も目を背けたくなった…。
言葉が出ない…。
★
彼はただただ聞いてくれていた。
時折、涙さえみせていた…。
嬉しかった…
まだ、こんな私のために…泣いてくれるヒトがいるなんて…。
この人は逃げなかった。
ヒドい辛い話…
けど…逃げなかった。
この人を信じて良かった。
『…ッ!』
彼の手が触れた…
…??
いつもみたいに…ならない…?
手が震えない…?
身体が震えない…?
身体が熱くならない…?
★
手を握っていた…
…無意識。
…あれ…?
彼女の様子がおかしい…
小さな口がポカンっと開いている…
…!!?
クスッ…
笑っている。
見たことのない…とても可愛らしい笑顔。
笑うとくしゃりとつぶれる目。
小さな顔の小さなえくぼ。
可愛い…
すごく可愛い…。
何だろう…さっきまでの辛い話の空気が一掃された。
部屋には、向日葵が咲いたような暖かく爽やかな空気。
さっきまで…氷が、光のみ残し太陽になった。
あぁ…恥ずかしいたとえだな。比喩は苦手なんだ。
そんなことはどうでもいい。
何故彼女は笑ったんだろう?
そうだな…今は触れないでおくか。
★
あっ…彼…ポカンってしてる。
目が点になっちゃってる(笑)。
『この子…何で急に笑いだした!??』って顔に書いてある。
『あのね。私…男の人に触られると身体が震えだすの。でもね…さっき貴方の手が当たったでしょ?』
『…震えてない…?』
彼の開いたままの口が動いた。
『そう…。だから…おかしくて…笑ってたの…』
ダメ…笑いが止まらないんだけど…
初めてこんなに笑ったかも…。
★
『退院おめでとう。』
彼女は全て良くなって退院した。
『ユウ君!』
あぁ…恥ずかしながら『ユウ君』と呼ばれている。
照れくさいな…。
あぁ…何であの時彼女は倒れたのかは、結局知らずじまいだったな。
あぁ…わかってる。聞かない方が良いこともあるんだよな?
コンビニの名物少女…
今じゃオレの大切な人か…
…ん?
何か忘れてる…
オレはバカだ!
大バカだ!!
ていうか…
間抜けだな…
『そういや…君の名前…まだ知らなかったな。』
『私の名前…?』
『あぁ…そういやずっと知らんと居たなぁと思ってさ。』
『私は…』
虐待について、すこしでも知っていただきたく書きました。よくわからなく、見にくい小説ですが…少しでも皆様に虐待で受ける、『心身の傷』を知っていただけたら幸いです。