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音
「ななちゃん引っ越すのよ」
「ひっこすってなぁにぃー?」
昔から私の好きな人は、
「お家を移動させちゃうの、遠くに行っちゃうのよ」
「あそべなくなっちゃうのー?」
みんなきえていく。
「え、でも愛海ちゃん緑派でしょ」
「うん、そーなんだけどねこっちもね…」
夏休みが明けてから愛海は佐藤くんとよく話すようになっていた。
「紗綾ー!」
「ねぇ紗綾きこえてる?紗綾!」
あ、またか。
「ごめん、いまいくー!」
他人の声が私の耳に届かなくなってきているのを貴女は知ってる?
私は貴女とずっと話していたいのに。
貴女の声が聞きたいの。
「最近あの二人いい感じよねー」
「え、やっぱりそう思う!?」
「私もそう思ってたぁー」
やめてよ。
「紗綾はどう思う?」
そんなこと聞かれても。
「愛海が幸せなら私も幸せ」
ぽつり。
チャイムがなった。
チャイムの音と重なったようで、
「え?」
「聞こえなかったー」
私の声は友達に届かなかった。
❮9月5日❯
音の割れが酷くなり始めた。