第8話 暇ですぅ
皆さん、おはよう。
やっぱり挨拶は礼儀だからね。
やっておかないと。
さて、桜井さん起こすか。
「おーい、桜井さーん。朝ですよー。桜井sうわぁああ!!」
そ、そんな!!
突然目を見開かないでよ!!
ただでさえ僕起きた時立って寝てる桜井さん見て『うわっ、誰かいる!!』って思っちゃったんだから。
更にトラウマの穴を広げないでよ~。
「おはようございますぅ~」
そんな立ち寝の達人幽霊こと桜井奈緒さん。
「あ、そう言えばですよ」
二人で朝食を食べてる最中、桜井さんが僕に話し掛けてきた。
ベーコンと目玉焼きとサラダ、そしてトースト。
トーストの上にベーコンと目玉焼きとサラダを乗っけて食べるのも良し。
トーストにあえてバターを塗ってベーコン(以下略)を別で食べるのも良し。
実に多様性の溢れた朝食である。
「祐介さんて彼女いるんですかぁー?」
…。
本当この人(幽霊)、わざと言ってるのか、本気で言ってるのかわからないけど、平気で人の心を抉るよね。
あえて自分で言わせてその現実を再認識させるそのやり方。
実に巧妙です。
「い、いないです…」
あぁ、いないよ!!
あぁ、いないさ!!
むしろいてたまるか!!
出来たことすらないよ!!
「へぇ、そうなんですかぁー」
桜井さんは自分で聞いておきながら、特に興味もなさそうに言う。
桜井さんてちょっとSっ気があるのかな…?
「あ、大丈夫です。あたしは真性のドMですから」
あぁ、そう…。
「でも、彼女いないことには驚きです」
ベーコンをしゅるりと口に滑らせながら桜井さんは言った。
だったらもうちょっとそれっぽいリアクションして欲しかったな。
真顔の棒読みで言われて“驚いてる”って誰が思う?
完全に『あんたじゃいなくて当然だよね~あっはっは』的な感じだったべ。
まず驚いてたなら態度で示してください。
「何でそう思うの?」
とりあえず理由を聞いておこう。
期待はしてないけど。
「だって背が高いですし、顔も割と整ってますし、優しいですしね」
何を基準に“背が高い”って言ってるのかな?
僕は身長165cmだ!!
寝ぼけてんのかこいつ。
っと、言葉遣いに乱れが生じてしまった。
気を付けよう。
「寝ぼけてませんよぅ。まぁ、身長に関しては冗談ですけどね」
ごめんなさいと、一言笑顔で謝り、目玉焼きを食べる桜井さん。
「でも、あたしは良いと思いますよ?祐介さんのこと」
え…?
本当に?
ちょっと待って、僕素直に嬉しいんだけど。
フラグか!?
恋愛フラグ立ってんのか!?
「あ、ありがとう…」
僕は恥じらいながらお礼を言った。
「えへへー、どういたしましてっ」
桜井さんはいつもの可愛らしい笑顔でそう言った。
「暇だねー」
「そうですねー」
僕は床に、桜井さんはベッドにそれぞれ横たわり二人でまったりしていた。
窓の外からはセミが忙しそうに鳴いている。
「みぃーんみんみんみんみんみぃー。みぃーんみんみんみんみんみぃー」
あれれー?
この部屋、セミがいるよー?(コ○ン風に)
「桜井さんどうしたの?」
まぁ、それは桜井さんと言うセミなんですけどね。
「いや、こんな暑苦しい中、ひたすら鳴いているセミはどんな気持ちなんだろうと思いまして」
セミの気持ちになってみたと。
「で、鳴いてみてどうだった?」
「『みーん』って思いました」
結局わかんなかったんかい!!
う~ん。
でも実際どうなんだろう。
ちょっと考えてみようか。
―――――
『どうよ俺のこの音色!!ヤバいだろ!?』
『いやぁ、あっちぃーな』
『俺、この夏が終わったら、人間に生まれ変われるかな…』
『不況だなぁ…』
『あの子の羽、良い色してんな~、ありゃあ世界も嫉妬するぜ』
『だるい、死のう』
『暑い、逝こう』
『みーん』
―――――
まぁ、十人十色と言う言葉があるなら“十匹十色”もあるだろう。
セミだって個々で考え方が違うんだ。
ただ姿形が違うだけで人間と何ら変わりはない。
つまり結論。
僕もわかんなかった。
「桜井さん」
「何ですかぁ?」
「どっか行きたい所ある?」
「北極」
………。
「桜井さん」
「何ですかぁ?」
「どっか行きたい所ある?」
「南極」
………。
「桜井さん」
「何ですかぁ?」
「どっか行きたい所ある?」
「みーん」
………。
何だろう。
今日の桜井さんは何か様子がおかしい。
いつもの優しい桜井さんじゃないぞ。
何『みーん』て。
………。
あ、こう言うキャラ設定か。
僕がつっこみ役に回れってことか。
作者の差し金だな。
桜井さん可哀想。
「桜井さん」
「何ですかぁ?」
「一緒に頑張ろうね」
「はい♪」
とりあえず今日はどうしようかな。