第6話 ご飯食べますぅ
「祐介さんどうですか!?似合いますか!?」
先ほど買ってきたワンピースとダボっとしたTシャツを着て喜んでるボサボサ頭のロングヘアー幽霊こと桜井奈緒さん。
寮に帰ってきてからクルクル回ったり、走り回ったりとすごいはしゃいでる。
「似合ってるよ」
僕は若干疲れた様子でそう答えた。
「きゃあー!!『似合ってる』いただきました!!『似合ってる』いただきましたぁー!!」
桜井さんはそう叫びながら七畳くらいしかない僕の部屋の中でそれはそれは激しく暴れました。
「さてと」
桜井さんはそう一言言って先ほど着たばかりのワンピースとTシャツを脱ぎ始めた。
「!?ちょ、ちょっと桜井さん!?何してんの!?」
Tシャツを脱ぎ、ワンピースを脱ごうとする瞬間に僕はストップを掛けた。
僕の目の前だよ!?
何を考えてるの!?
桜井さんが大勢の人を見て興奮するなら、僕は桜井さんを見て興奮するよ!?
「これはお出掛け用のお洋服なので、部屋着に着替えようかと思いまして」
「だったら僕のいないところで着替えてよ」
僕はそう言いながら、桜井さんを脱衣所まで連れていった。
「ふぅ…、やっぱりこれが一番落ち着きますー」
桜井さんは布を身に纏い、床にちょこんと座る。
それが一番落ち着くんだ。
僕は一番興奮するよ。
「あ、桜井さん、お腹空かない」
僕はそう言いながら壁に掛かっている時計を見る。
気が付けば、もう六時半を回っていた。
…と言うか。
自分で聞いて何だけど、幽霊ってご飯食べるの?
「あ、食べますー」
食べるんだ。
じゃあ今までどうやって生きてきたんだ?
あ、幽霊にしたら“生きて”なんて矛盾してるか。
「何食べる?」
「牛乳を温めた時に出来るあの膜みたいなやつが食べたいです」
うん。
それはきっとご飯以前に食べ物の分類に入ってないよ桜井さん。
何で桜井さんのお腹はそんなものを欲しているんだい?
「ごめん、今牛乳ないんだ。だから出来れば違うやつが良いなぁ…」
よし!!
これは上手い逃げ方だ。
て言うか僕牛乳飲むとすぐお腹痛くなるからな。
飲まないんだ、牛乳。
「う~ん、じゃあメロンパンの硬いところが食べたいです」
…何でさっきから変なのばっかりリクエストするの?
初期のキャラ早くも崩壊?
いや、確かにメロンパンの硬いところは美味しいけれども。
主食がそれ?
いや、百歩譲って“メロンパン”が食べたいって言うんなら認めよう。
でも硬いところ限定と言うのなら、僕は認めないぞ。
残されたメロンパンの部分の気持ちを考えたら…。
僕は認めることは出来ないよ…。
「うん…、とりあえず僕何か作るから、桜井さんお風呂入ってきたら?」
僕はこれ以上変なもの要求されないよう、とりあえず桜井さんをお風呂へと促す。
幽霊がお風呂に入れるかどうかわからないけど。
ご飯も食べれるみたいだし、入れるだろう。
「はーい」
ずいぶんと素直だなぁ。
だからってここで脱ごうとするぬぅわぁぁああ!!!
「ダメダメ桜井さん!!脱衣所で脱いでよ!!つかあんたわざとやってるでしょ!?」
今日は理性が忙しいなぁ。
「えへへー。ごめんなさいっ」
その言葉とは裏腹に、桜井さん満面の笑みを浮かべている。
反省の色が全くない。
僕桜井さんに遊ばれてるの?
例えるならあのセレブな人たちがこう、ワインの香りを楽しむ時のワイングラスのように。
足組んでさ、ワイングラスのクルクル回すじゃんか。
僕絶対そのワイングラスだべ。
「じゃあお風呂入ってきますね。あと…」
桜井さんは脱衣所のドアを開けて足を止めた。
「オムライス…食べたいですっ」
そう一言投げ掛けて脱衣所に入って行った。
やっとまともなのが来た。
良かったー。
そう思いながら僕はベッドに倒れ込んだ。
でも僕、オムライス作れないんだよね。