第33話 駅前で遊びますぅ 【に】
さぁ始まりました『どらすてぃっくごーすと』の時間ですっ。
えー、私、ロングヘアーの巨乳ロリっ子幽霊でお馴染みの桜井奈緒でぇーっす、よろしくお願いしまぁーすぅ~。
安心してください、時間は取らせません。
パッと前回のあらすじを言ってサッと帰りますからね…。
それでは前回のあらすじです!!(ババン!!)
さとしんがみかみんとかみやんにいじられた。
それでは本編スタートですぅー♪
「いやぁみき姉、しかし今日も暑いなー、早くカラオケに行って涼みたいところだよなー」
俺はそう言いながら額に滲む汗を拭うと、手に付いた汗が太陽の光に反射してキラキラと光っていた――みたいに表現すると何か爽やかな感じがしなくもないけど、実際のところただ歩いているだけで汗をかいてるんだから、爽やかな感じもへったくれもなくただ気持ち悪いだけだ。
どうして夏はこう暑いんだ、しかもカラッとした暑さならまだしも、体に粘りつくようなジメッと暑さだから本当に嫌になる。
ましてや今地球温暖化やら何やらで騒がれてるのに人間はそれに対する危機的意識を全然持ち合わせていないから困るというものだ。無駄に排気量の多い車を乗りまくるバカもいるし、暑いからってクーラーをガンガンつけてる奴もいる。それだけが原因だと限定するわけではないが少なくとも地球温暖化の原因にはなっている。
だからこんなジメッとした暑さが生まれてくるのだ。
車乗るな!!チャリで移動しろ!!
クーラー使うな!!団扇で頑張れ!!
太陽照るな!!ぶっ壊れろ!!
「お前の言いたいことはわかるが、矛盾しているぞ怜。そして、私は幽霊だからそういう暑いとかの概念はないので同意しかねる…というかお前そのこと知ってるだろう。それより怜よ、お前は今私に話し掛けているが、それは大丈夫なのか?」
確かにみき姉はこのイラつく暑さの中、平然とした顔をしている――そんなみき姉を見ると少し羨ましく思う。
このまま脱水症状を起こしてぶっ倒れてそのまま死んで幽霊になるのも良いかな――という考えもしたが、二秒後にそのそんなバカな考えは捨てた。
「ああ、良いんだよ。だってほら」
そう言って俺は前を歩く二人をバカにする意志を見せるように顎で指した。
――――――
「あたしさぁ、おっぱいは大きさより形だと思うんだよねぇ。確かに大きさも大事だと思うよ?でもやっぱり一番大事なのは形?というかバランスだと思うのよ」
「何を言っているんだ三上、胸はやっぱデカさだろう。形なんて関係ねぇ、重要なのは如何にデカいか、これに尽きる」
「何言ってるのよかみやん、いくらデカくたって見た目がアレだったらどうするのよ。それに体のバランスも悪いじゃん。例えばめっちゃスタイルが良い人でもおっぱいがデカすぎたら――それも片乳がメロンくらいの大きさだったらどう考えたってバランス悪いでしょ」
「そうは言うが三上、スタイルなんて人によって基準はあやふやだ、三上が言う『スタイルが良い』は必ずしも俺にも当てはまるとは限らないだろう?それに例え体のバランスが悪くても小っちゃいよりデカい方が何かこう…、うひょぉおおおお!!ってなるんだよ、男なら誰しもが二度見するぞ」
「でもさぁ、巨乳って年取ったら…垂れるんだぜ?」
「ぐっ…!!」
「若かりし頃はそれこそまん丸の豊満なパイだが、年を取るとまるでヘチマのように垂れて、そしていつしかたくあんのようにシワッシワになるんだぜ?」
「ぐぐっ…!!」
「それはさながら行為を終えた男性k」
「おっと三上、それ以上は言っちゃあいけねぇ」
「フヒヒ、サーセン」
「と、とにかく!!胸は形よりデカさだ!!それだけは譲れねぇ!!そして俺はいつかその豊満な胸に顔を埋めてスリスリしたい!!」
「確かにそれは男子にとってロマンだろうけど、それでもあたしは形を重視したいね!!こう、彼氏の手にジャストフィットするような…、手のひら全体であたしのおっぱいを感じさせることが出来て、同時にあたしもおっぱいで彼氏の手のひらを全力で感じれるような…、そんなおっぱいに憧れる!!」
「もうそれ形関係ないじゃん。やっぱり大きさの問題じゃん」
「んもぅ!!わかってないなかみやんは!!しっかりとした形をしてないと満足させることができないでしょ!?バカじゃないの!?」
「バカって言うな!!アレだぞ!?バカって言った方がバカなんだぞ!?てか彼氏彼氏っつって実際三上は彼氏いねぇじゃんかよ!!」
「うるさーい!!かみやんだって彼女いないくせに!!」
「何だとー!?」
「何よー!?」
――――――
「何をあいつらは戯けたことを言っているのだ!!」
みき姉は“胸について”というどうでも良い話に真剣になって議論している二人に対して、勢いよく突っ込みを入れた。
「な?バカだろうあいつら。つまりバカな二人はバカみたいな議題にバカみたいに真剣になっているから俺の声なんて聞こえてないんだよ、だから大丈夫だ」
「お前のせいで『バカ』という言葉がゲシュタルト崩壊してきたぞ…」
はぁーっと、溜め息を吐くみき姉。
溜め息を吐くタイミングこそ俺の発言の直後だったが、きっとその溜め息の原因はあいつらのせいだろう。
全く、何を下らないことに真剣になって話し合ってるんだよ。
俺も混ぜろ。
ちなみに。
「みき姉はどんな胸が理想なんだ?」
と、みき姉に聞いてみた。
そんな俺の質問にみき姉は『お前もか』と言わんばかりに呆れた表情を見せる。
「理想なんてない、むしろ私はもうそれを手に入れている」
みき姉かっけぇ。
そんなこんなで俺達はカラオケに着いた。
昼を少し過ぎた頃に着いたので、やはりというべきか店内はある程度混んでいた。その大半は学生で、まぁ夏休みだからそれも当たり前かと俺はどうでも良いことに一人で納得していた。
「三名様ですね、えーっとですね、只今待ち時間がだいたい三十分程になるんですけどよろしいでしょうか?」
店員のその言葉に俺達は少し考え、『まぁ、三十分くらいなら待つか』という結論に至り、店員にそう告げてロビーに置かれているソファーが運良く空いていたのでそこに腰掛けた。
それから名前が呼ばれるまで俺達は他愛もない話をして時間を潰していた。三上は久しぶりにカラオケに来たということで『何を歌おうかなぁ~』と悩んだり、俺や亮平に『何歌うの?』と聞いたり、妙にハイテンションだった。亮平も意味不明に平然を装いながらも何度も受け付けの方をチラ見したり、PVが流れているディスプレイを眺めながら密かに歌詞を口ずさんだりしていた。
こうして二人の様子を見ているとカラオケを提案した俺ってなかなか良い奴じゃね?
そんなことを思いつつも、実際俺は本当に遊ぶならどこでも良かったので、何を歌おうと悩むことも、PVにくぎ付けになることもなく、二人の会話に適当に相槌を打ちながら入口の方を眺めていた。
別に深い意味はなくて、無意識に眺めていた。
「あれ?さとしんって年上好きなの?」
「さとしんって言うな。ていうかいきなりどうしたんだ?」
「いや、だって今入ってきた人妻集団のことずっと見てたでしょ?」
「人妻集団?」
俺はそう言って受付に目を向けると、三上の言う通り人妻の集団が待ち時間についてあーだこーだ言っていた。そしてその集団のそばにいる一人の女の子がつまらなさそうに持っていたクマのぬいぐるみと遊んでいた。恐らく集団の中の誰かの娘なのだろう。
「確かにそうだ、こいつの持ってるAV全部が熟女・人妻だもん。こいつぁ生粋の年上好きだぜ」
「おい!!俺はそんな熟女とか好きじゃねぇから!!それに俺の持ってるAVは素人ものだぞ!!」
「聞きました三上さん、この人未成年なのにそんな卑猥なものを持ってらっしゃるのよ?しかも素人ものって…。どう思いますか?」
「今度あたしにも見せてさとしん!!」
「何で食いついてくるんだよ三上…」
そんなことを言っていると、ようやく俺達の名前が呼ばれた。
「お待たせ致しました!!三名様の…ってあれ?人数の追加ですか?」
受付でジュースやら機種やらを選んでいる時、店員がふとそんなことを言ってきた。
「人数の追加?そんなんしてないですけど」
「店員さん大丈夫ですか?もしかしてあれですか、昨日の夜ちょっと彼女と激しいプレイし過ぎて疲れてるんじゃないですか?もしそうならその彼女貸せや」
ずいぶん堂々と失礼なことを言うじゃないか亮平。
(こりゃあもしかしたらこいつみき姉のこと見えてるのかな?)
「そうかもしれないな」
まぁでも適当にごまかせば何とかなるだろう。
「あの、俺達は別に人数の追加とかしてないですし、ほら、後ろもつっかえてるから出来れば早くしてもらえると嬉しいんですけど」
俺がそう言うと、店員はどこか納得していない様子だったが、事実、俺達の後ろにも客がいたので他の客に迷惑をかけてはいけないと、とりあえず俺達をカラオケルームまで案内してくれた。その最中、亮平は『先にトイレ行ってくる』と言ってトイレに向かったので、俺と三上は先にカラオケルームに入った。
「よーし、歌うぞぉー!!」
そう言って三上はリモコンを手に取り、タッチペンを軽快に動かしていた。
(しかしあれだな、カラオケに着物なんて何とも不釣り合いだな)
「それは私のことを言っているのか?」
幽霊のくせにソファーにドカッと座り、腕組みの足組みという何とも態度のデカい恰好でみき姉は言う。
「仕方がないだろう、私にはこれしかないんだ」
(一種のトレードマークみたいなもんだもんな)
「いやそれは違うと思うが…」
(いや、そんなことはない。みき姉にとって着物は、タモさんで言うグラサンみたいなものだ)
「なんだそれは」
みき姉は『こいつマジで何言ってんだ?』みたいな顔で俺を見る。
でも俺は知っている、これはみき姉が照れ隠ししているということを!!
「よし、これに決めた!!さとしん、マイク取って」
俺はそう言ってリモコンを置く三上にマイクを渡した。
しかしいい加減“さとしん”と呼ぶのは止めてほしいというものだ。
昔から俺は名前で呼ばれることが多かったため、俺もそれに慣れてしまったというか、むしろ名前以外で呼ばれると落ち着かない――例えるなら、今まで使ってた携帯が壊れて新しい携帯にした時の違和感みたいなものだ。
まぁ、三上に『さとしんって言うのやめろ』と言ったところでこいつは止めないし(実証済み)、そうすると俺がそれに慣れていくしかないのだろうか。
そう思うと何か負けた気がしてならない。
「それではトップバッター行かせてもらいます!!」
そう言って三上は突然立ち始めた。
「“かりーぱむぱむ”?」
みき姉は画面を見て首を傾げる。
「おい怜、“かりーぱむぱむ”とはなんだ?」
(みき姉、ちゃんと文字を読め。“かりーぱむぱむ”じゃなくてきゃりーぴゃむ…、きゃりーぱむぱ…、ん、…んん!!“きゃりーぱみゅぱみゅ”だ。歌手だよ)
「お前もまともに言えてないじゃないか」
(うるさい)
みき姉とそんな脳内会話をしていると、ドアが開いて、
「おー、三上“かりーぴゃむぱむ”じゃないか!!」
と一番酷い噛み方をして亮平が戻ってきた。
「な…っ!!おいみき姉!!」
「うむ…、こいつは人間じゃなかったのか…」
俺が思わずみき姉の名前を言ったのはもちろん亮平の噛み方に驚いたわけではない。
というか亮平がバカなのは百も承知、こんな酷い噛み方をすることは日常茶飯事だ、何も驚くことはない。
では何に驚いたのか。
『お兄ちゃん見ぃーつけたっ』
それは亮平の首に巻き付いている、一人の女の子。
まるで亮平を自分の兄だと思い、懐いている――クマのぬいぐるみを持った女の子。
ロビーで見た時はてっきり人妻集団の中の誰かの子供だと思っていたけれど――。
「こ、こいつは…」
“幽霊”だ。
「桜井さん、確かに前回のあらすじとしては間違ってはいないけれど、いささか簡略化し過ぎでないかい?」
「…ん?」
「何で不思議そうな顔するのさ…」