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第32話 駅前で遊びますぅ 【いち】

 海に行ってからというものの、考えてみれば俺の出番って一番少ないよなぁ。

 祐介はともかく、何で亮平と司の方が俺より出番あるんだよ。

 しかも司に至ってはあいつ視点の話があったっていうじゃないか、どう考えてもモブキャラだろうがあいつは。

 三人の中で俺が一番最初に登場したというのになんだこの扱いは。

 ひど過ぎるだろ。

「怜よ、それに関して同情せざるを得ないがまぁ落ち着け。それとさっきから電話が鳴ってるぞ」

「みき姉は俺より出てるくせに何が『同情せざるを得ない』だよ、しかも最近祐介と買い物行ったくせに。何だそれは、嫌味か?嫌味なのか!?」

「お前はいつからそんな卑屈な人間になってしまったんだ…」

 登場回数が最も低いからキャラ設定だってあやふやにもなるさ…。



「……あぁ、わかった、それじゃあ」

 俺は電話を切ってベッドに放り投げた。

「誰からだったんだ?」

「あぁ、亮平だよ。今日あいつ三上達と遊ぶらしくて、そんで何でか知んないけどお前もどう?って謎に誘われたの」

 そうかとみき姉。

「まぁ、あれだけ出番がないって文句垂れてたから作者も慈悲の心でお前の出番を増やしてやろうとしたんじゃないか?」

「もうやめろその話は。聞いてて自分がいかに小さいかということを思い知らされる」

「面白いからやめん」

 それからみき姉はしばらく『出番があってよかったなー』とか『出番が少ないとか言ってしっかりお前視点の話をもらえたじゃないかー』とかメタ発言のオンパレードで楽しんでいた。

 全く、何で俺に憑いたのが奈緒ちゃんみたいな可愛くていい子じゃなくて、こんな性格の悪い奴なんだ。

 祐介が羨ましい。

「お前今なんて言った?」

「何も言ってないよ」

 何か鋭い針で刺されてるような痛い視線を感じるけどいちいち相手するのも面倒くさいから安定のスルーで。

「おい、私にはお前の心の中が全部見えてるんだからな、あまり調子に乗るのもいい加減にしろよ。お前なんて私がちょっと本気を出せばすぐに殺せるんだからな」

 一気にみき姉の殺気が増して、俺の部屋をそれで満たした。

 面倒くさいなぁ。

「みき姉、冷蔵庫に牛乳プリンあるから食べていいよ」

「お、本当か、なら頂こうじゃないか」

 そう言ってみき姉はふわふわと浮遊しながら俺の部屋を出て行った。

 いつも思うんだけど、牛乳プリンが大好きってのはわかるんだけど、牛乳プリン一つであの態度の変わりようは何なんだろうな。

 まぁそれで機嫌直してくれるんだから別にいいんだけど。

 とりあえずみき姉はちょろいな。

「聞こえてるぞ怜!!」

 一階からみき姉の声が聞こえたけど気にしない。


「で、結局どうするんだ?行くのか?」

 恐らくリビングで堂々と牛乳プリンを食べてすっかり上機嫌のみき姉がそう聞いてきた。

「ああ、どうせ家にいても暇だし」

「そうか」

「みき姉はどうする?一緒に行くか?」

「ん~、たまにはお前に付いて行くのも悪くないな」

 と言っても私の姿も声もお前にしかわからないからつまらないのには変わりはないんだけどな、とみき姉。

「じゃあ祐介と奈緒ちゃんも誘うか?そしたらみき姉も退屈はしないと思うし」

 まぁ、俺は誘われた身だし、しかも亮平のおまけみたいなものだから、果たして俺に人を誘ってもいいという権限があるのかわからないが。

「いや、それはいい」

 みき姉は首を横に振った。

「いいのか?みき姉の言うように、みき姉の声とかは俺にしかわからないんだぞ?」

「構わんよ。それより奈緒達の時間を使ってしまう方が気が進まない」

「気が進まない?何でだよ」

「奈緒は、あいつらはあれで上手くやってるんだよ。だからそれを邪魔するのは気が進まないんだ」

 ただそれだけのことだと、みき姉は少し顔を綻ばせて言った。

 何だ?俺の知らないところで祐介と奈緒ちゃんはみき姉にそう思わせるほど上手くやってるのか?

 それはあれか、人間と幽霊ということで上手くやっているということか?

 それとも人間と幽霊のという隔たりを越えて男女としてうまくやっているということなのか?

 もし後者なら祐介にいろいろ話を聞かなきゃならんな。

 祐介の奴め、羨ましいじゃあないか。

「安心しろ、お前が思ってるようなことではない」

 本当かなぁ。

 まぁ、みき姉が言ってるんだから本当なんだろう。

「じゃあ一緒に行くかみき姉」

「勘違いするな、一緒に行くのではない、私はただお前に付いて行くだけなのだからな。むしろ“憑いて”行くのだからな」

「はいはい」

 わかってるよそんなこと。



「いやぁ、本当はあと二、三人来る予定だったんだけど、何かいきなり来れないって連絡来てさ。てか有り得ねぇよなドタキャンとか。マジ考えられねぇ。約束は守るためにあんだろうよ、なぁ怜、そう思うよな?」

 駅に着くと、そこには亮平と三上しかいなく、そう言えば電話で亮平が“三上達と遊ぶ”と言っていたのを思い出したので、俺は亮平に『他の人は?』と聞いてみたところ、亮平は“友達を裏切るとか人間じゃねぇ”という溢れんばかりの人情の厚さを発揮しながら俺に事情を説明してくれた。

 というか、そもそも俺ははっきりとした人数を聞いていなかったからなー。

 だからそんな熱く語られても困るというもんだ。

「ま、別に三人でも良いじゃんかかみやん、むしろ三人もいれば十分楽しめるよー」

 そう言って三上は笑いながら亮平の肩を叩いた。

「おい三上、“かみやん”ってなんだよ」

 俺は二人の会話に口を挟んだ――否、口を挟まずにはいられなかった。

「いや、怜よ、そんなこと問わずともわかるであろう」

 (うん、確かにそうなんだよみき姉、そんなこと聞かなくてもわかることなんだ――でも、聞かずにはいられなかったんだよ)

「条件反射みたいなものだな」

 (そういうことだ)

 みき姉との脳内会話が終わると、三上は口を開いた。

「神谷亮平くんのことです」

 真顔で。

「僕のことです」

 お前も真顔で言うな亮平。

「いや、そんなことは知ってんだよ。俺が聞いてるのはそのあだ名はどうなのってことだよ」

 さすがに“かみやん”はないだろ。

 何その安直なあだ名は。

「良いじゃんかかみやん。最後に『ん』を付け加えることで何ともチャーミングな呼び名に変わり、より一層親しみやすくなる。最後に『ん』を付け加えるだけで。ほら、“さとしん”も今まで以上にかみやんとの距離が縮まった感じがするでしょ?最後に『ん』を付け加えるだけで」

「でしょ?」

 お前ら何だその一体感は。

 そして亮平、貴様の『でしょ?』は受け入れがたいものがある。

 率直に言ってキモい。

「てか“さとしん”ってなんだよ!!」

 いや、俺のことだって言うのはわかってるんだけど、何故俺も同じようなあだ名なんだよ!!

 何か俺も亮平と同レベルみたいじゃないか。

 亮平はともかく、俺にまでそんな低能なあだ名を付けるな。

「出番についてなら同レベルじゃないか怜」

 (うるさいぞ高飛車気取りの更年期幽霊)

「怜、世の中には言っていい冗談とそうでない冗談がある、そしてお前は今間違いなく言ってはいけない冗談を言った。それはつまりお前がどうなってもいいと――そういうことだな?」

 (みき姉、冷蔵庫の奥の方にミルクプリンの超ビッグカップがあるから帰ったら食べていいよ。むしろ今食べに帰ってもいいんだよ)

「むっ、本当か。……今すぐ帰ってミルクプリンを食べるのも良いが、しかしそうするともったいないというか、食べる楽しみというものがあっさりと得られてしまう。それはやぶさかではない、やはり楽しみというものは何事も時間をかけて自分の欲を自らで制すからこそそれを得た時の喜びは格別なものなのだ。ということで私は怜が帰るまで帰らんぞ」

 みき姉はちょろいぜっ!!

「おーい、さとしーん」

「おーい、シトシーン」

「おい、俺をさとしんって呼ぶな三上。そして亮平、俺は核酸を構成する5種類の主な塩基のうちのひとつじゃあない。せめて人間として扱ってくれ」

「お、ちゃんと起きてた」

「そら起きてるわ」

 俺は別に立って寝れるという生きていく上で何の役にも立たない芸当は残念ながら持ち合わせていないぞ。

「なぁなぁ“みかみん”、これからどうすんだ?」

「どうしようか、“かみやん”は何かどっか行きたいところあるの?」

 いい加減なんなの。

 最後に『ん』を付けるのが巷で流行ってんのか――いや、間違いなくこいつらの中でしか流行ってないな。

 実にバカである。

「んー、そう聞かれるとぶっちゃけない」

「実際そうだよねー」

 今更だがさすが類は友を呼ぶと言いますか、こいつらバカ同士気が合ってるじゃないか。

 しかしここでグダるのも正直面倒くさいなー。

「それならカラオケかボーリングでいいんじゃない?」

 と言うか、大体遊ぶとなったらこれくらいしかないだろう。駅前はそれこそ何でもあるようだけど、大半はデパートや居酒屋などが多く、俺らみたいな高校生が遊べるところは案外少ないからな。まぁ別にデパートは高校生とか関係ないけど、遊ぶとなるとちょっと違うし。

「そうだね、じゃあとりあえずカラオケでも行こうか」

 その三上の言葉を合図に俺らはカラオケに向かった。



 そう言えば以前、奈緒ちゃんが『実は幽霊ってそこら辺にわんさかいる』と言っていたけど、改めてそうだと思う。しかも一目見て幽霊だとわかる幽霊もいるけど、中には自分が死んだことに気付かず、そして自分が幽霊だと気付かず“人間として生きている”と錯覚している幽霊もいるので、正直俺も気付かないことがある。

 つまり何が言いたいのかというと――俺は気付かなかったんだ。

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