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第31話 夢ですぅ

 夢というものは中途半端に現実味を帯びていて、また、中途半端に仮想的なものである。

 例えば、普段通っている学校で見たこともない人達と銃撃戦を繰り広げたり、行ったことも見たこともない場所でこれまた見たことも会ったこともない可愛い女の子とデートしたり。はたまた動物園で野放しにされているライオンに足を食われたり。

 到底というのは大袈裟かもしれないけれどそれでも現実では有り得ないようなことを、夢の世界では当たり前のように繰り広げられ、当の本人もそれが当たり前のことだと思い込んでいる。

 言うなれば自分の世界。

 地球上に生息している全人類が共有する現実世界でなく。

 唯一無二のオリジナルワールド。

 それが夢である。

 だから僕は正直、夢を見るのが好きだ。



「ふぁ~あ~」

 僕は大きな欠伸をしながらベッドから起き上がった。

「あ、祐介さんおはようございます」

 そう僕に朝の挨拶をするロングヘアーの巨乳ロリっ子幽霊こと桜井奈緒さん。

 僕より大分早く起きたのか、桜井さんの飲んでいる麦茶の氷がほとんど溶けている状態だった。

「おはよう桜井さん。テレビ見てたんだ」

 僕はうーんと伸びをしながら言った。

「はい。なんか今日はセミの鳴き声に起こされたと言いますか、やけにうるさく感じて。それで早く起きちゃったので麦茶を飲みながらテレビ見てました」

 いつもはぐっすりなんですけどねと言いながら桜井さんは窓の外の見る。

 網戸だけ閉まっているその窓の外から忙しなく鳴いているセミの鳴き声が僕の部屋の中まで響き渡っていた。

「確かにうるさいね」

 僕は一瞬窓を閉めようと思ったが、そうしてしまうと余計に部屋の中が暑くなりそうになるのでやめた。

 まぁ、実際は窓を開けてたとしても、入ってくるのは外の蒸し暑い風だけなので、窓を開けてようが開けてまいが変わらないんだけど。

「あ、祐介さんも麦茶飲みます?」

 僕は頷くと、桜井さんは台所の方へとたとた歩いて行った。

「ふぁ~あ~、今何時だ?」

 僕はまた大きな欠伸をすると、どうやら僕も今日は眠りが浅いんだなーと思いながら時計を見た。

「九時過ぎか…」

 前言撤回。

 結構寝てるじゃないか。

 確か僕は昨日十一時前には布団に入っていたはずだ。まぁ、実際にはベッドだけど。

 つまり単純計算で十時間寝てたことになる。

 十分過ぎるほど睡眠時間を取ってるじゃあないか。

 それで何が眠りが浅いだ。

 ならお前は一体何時間寝ればいいんだと、木下さんあたりに突っ込まれそうだな。

「多分それは逆に寝過ぎたから眠いんじゃないんですか?」

 はい、と桜井さんは僕の麦茶をテーブルの上に置いた。

「ありがとう」

 そう言って僕は麦茶を飲んだ。

「くーっ!!体に沁みるぅー!!」

「美味しいですか?」

「うん、冷たくてすごい美味しいよ」

 僕は麦茶を一気に飲み干し、空になったコップをテーブルに置いた。コトッという音と共に、カランと氷のぶつかる音が鳴る。

「お代わりいりますか?」

「あ、いや、自分でやるよ」

「まーまーそんなこと言わずに」

 そう言って桜井さんは僕の空になったコップに麦茶を注いだ。

「うむ、ありがとう」

「会社の上司ですか」

 そんなやり取りに僕と桜井さんは揃って笑った。



「あ、そう言えばですよ祐介さん、あたし夢見ましたよ」

 寝起きでぼーっとしていた頭も普通の状態に戻り、二人で何気ない会話をしていると、桜井さんは思い出したかのようにそう言った。

 夢か。

 そういや今日は僕、夢見てないな。

 まぁ自分では眠りが浅いと言っておきながらしっかりたっぷり十時間寝たんだ、そりゃあノンレム睡眠も発動するわ。

 そこらへんは正直わからないけど。

「どんな夢見たの?」

「あたしが人間になって、逆に祐介さんが幽霊になる夢です」

「今の状況と全く逆だね」

「そうですね、でも人間になったことに対して全く違和感がなくて、むしろ人間なのが当たり前のように感じてしまいまして。だから夢から覚めた時、少し懐かしい気持ちになり、ちょっと寂しくもなりましたね」

 そう言う桜井さんは本当に少し寂しそうだった。

 やっぱり人間に対して未練があるんだろうな。

 しかしだからと言って桜井さんは人間に戻れるわけではないし、僕も人間に戻せるわけではない。

 僕のできることと言えば、桜井さんにこの世界を見せるしかできないんだ。

 魅せるのではなく。

 見せるしかできないんだ。

 何か僕もそんな自分の不甲斐なさが嫌になる。

「ところで幽霊になった僕はどうだった?足はあった?」

 とりあえず僕は夢の中の僕について聞いてみた。

「足ですか?そりゃあありますよ。幽霊には足がないなんて人間の作りだしたイメージでしかないですからね」

 あたしにも足はあるでしょと、桜井さんは僕に自分の足を見せた。

 白くて綺麗な足。

 何故か僕はその白くて綺麗な桜井さんの足を見て生唾を呑んでしまった。

「…舐めたいんですか?」

「良いの!?」

「はぁ、やっぱり更新に間が空くとキャラ設定もふわふわしますねぇ…」

 呆れ顔でメタ発言をする桜井さんを見ると僕はどうしようもなく自分の発言に死にたくなった。

 僕はいつからこんな積極的な変態になったのだろう。

「幽霊になっても祐介さんは祐介さんでしたね」

「何も変わってなかったと?」

「はい、ただあたしと祐介さんの立場と言いますか、この世界の位置付けと言いますか、まぁ、わかりやすく言ったら人間と幽霊が入れ替わっただけでそれ以外は何も変わりはなかったですよ」

 夢なのか現実なのか混乱するくらいいつも通りでしたと桜井さんは言う。

「そっかー、僕のことだから『やっべぇ!!空飛べるじゃん!!いやっほー!!』とか言ってハリーポッターよろしく勢いよく外に飛び出したりしてるのかなと思ったけど、そんなことなかったかー」

「祐介さんはあたしのせいで高い所が苦手になったじゃないですか」

 何を言ってるんですかと桜井さんはジト目で僕を見る。

「違うよ桜井さん、それは僕が空を飛べないからこそ感じる苦手意識であって、空を飛べるとなると高い所だろうが低い所だろうがそんなもの意味がないんだよ」

 空を飛べるんだから。

 空すらも僕のフィールドになるのだ!!

「そんなもんですか」

「そんなもんだよ」

 何故かその時窓の外から聞こえるセミの鳴き声が乾いているように聞こえたのは気のせいだろう。

 みぃーんみんみんみんみんみぃー…。

「祐介さんは今まで見た夢の中で一番印象に残ってるのってありますか?」

「今までの夢の中で?」

 んー、一番印象に残ってる夢か、なんだろう。

「何かあります?例えば祐介さんの好きなアイドルと付き合ってる夢とか、どっかの映画じゃあありませんが命懸けの鬼ごっこを繰り広げて最後にはあっけなく死んでしまった夢とか」

 そこは例え想像がつかなくても最後まで生き残ったと言ってほしかったな。

 僕ってそんなすぐ死ぬタイプに見えるのかなぁ。

 まぁ、何の取り得もない僕が最後まで生き残るわけがないんだけどさ。

「あ、そう言えば桜井さんがうちに来てすぐの頃、僕が学校に閉じ込められる夢を見たなー」

「あら、それは何とまぁ親近感の湧く夢を見ましたね」

 そりゃあ桜井さんからそんな話を聞いたからね、そんな夢も見ちゃうよ。

「でも見た目はうちの学校なんだけど、そして内装もうちの学校と同じなんだけど、今考えると学校というより何かの施設みたいだったね。何故か知らないけど風呂場とか寝るところとかあったし」

「閉じ込められたって言うよりそこで生活しているみたいですね」

 今考えたら絶対おかしいけど。

 あの執拗に魔法少女になる契約を持ち掛けてくる淫獣だって『こんなの絶対おかしいよ』って言っちゃうよ。

「でね、面白いのが夢に出てくる人全員がスタンド使いなんだ」

「スタンド使い?」

「ジョジョって漫画に出てくる、言っちゃえば物凄く強い守護霊みたいなものだよ」

「へぇー、守護霊なんですかー、何かまた親近感が湧きますねー」

 霊繋がりでと桜井さん。

 まぁ間違ってはいないかな?

 だって――。

「夢の中では桜井さんが僕のスタンドだったからね」

 きっとこれも桜井さんと出会ったのが原因なんだと思うけどね。

「うひゃー!!あたし祐介さんの守護霊だったんですか!?」

 それを聞いた途端に桜井さんは興奮しだした。

「え?うん、そうだったよ」

「きゃあー!!あたし祐介さんの守護霊だったんですね!!しかも物凄い強い守護霊だったんですね!!あ、何かそう思うと心なしか力が漲ってきました!!祐介さん、あたしはあなたのおかげで自分の役目に気付きました、ありがとうを伝えると共にこれからの身の安全を保障します!!」

 一息ついて。

「あなたを守ります」

 キリッと。

 少しドヤッと。

 桜井さんはそう決意表明をした。

 いや、それはあくまで夢の話だからね。

 桜井さんとは友達だからね。

「で、それからどうなったんですか?」

 桜井さんはどうやら自分が出演しているからか、僕に話の先を促す。

「それで何か他のクラスの人達と戦うみたいになってさ、ちょっとした戦争みたいな感じに」

「なるほど!!それで祐介さんもその戦場に自ら足を踏み入れるんですね!?この桜井奈緒という物凄く強い守護霊と共に!!」

 興奮する桜井さん。

 見てて何か可愛いなぁー。

「うん、まぁそうなるんだけど、何でか知んないけど僕の相手が司でさ、戦わないでそのままマックに行って駄弁ってたんだよね」

「司って、あの海に行った時にいたあの司さん?」

「そうだよ、友達の司」

「て言うか、学校に閉じ込められたのにマック行ったんですか?」

「それがさ、何と学校の中にマックがあったんだよ」

「学校にマックが?」

「学校にマックが」

「変な話ですねー」

 それを言ったら今まで言ってきたことの全てが変な話だけど、まぁ夢はご都合主義だからね。

 そう言えばあいつのスタンドは『コールド・プレイ』って金髪の女子高生の姿をしたのだったな。

「じゃあやっぱり祐介さんの言ったように戦わないで駄弁って終わりだったんですかー?」

 自分が活躍しないのがショックだったんだね桜井さん。

 そんな机に突っ伏しちゃって。

 何か…ごめん。

「いや、駄弁ってる最中にいきなりに、そして意味不明に司が逆上して結局殺されたよ。そこで目が覚めた」

「な…っ!!あ、あたしは何をやってたんですか!!祐介さんを守ると言っておきながら祐介さんが殺されるのを指を咥えて黙って見てたというんですか!!何を…っ!!あたしは……っ!!」

 半端ない!!

 たかだか夢の話なのにショックの受け方が半端ない!!

「もともと桜井さんは戦うってキャラじゃないからね、その僕のイメージが夢とリンクしたんじゃないかな」

 て言うか、もし現実にそう言う場面に遭遇したらきっと桜井さんは慌てふためくと思うし。

 むしろそっちの方がよっぽど桜井さんらしい。

「何を言ってるんですかぁー!!あたしだっていざという時はやりますよぉー!!」

 両手を振り上げて大声で叫ぶ桜井さんに、僕はやっぱり可愛いなーと思いました。

「ところで祐介さん、司さんのスタンドってどんな能力だったんですか?」

「ああ、これ作者が適当に考えたスタンドだから僕も知らない」

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