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第29話 奇襲ですぅ 【に】

「この作者、何を言いたいのかわからん」

「まぁみき姉、そう言ってやるなよ」

 たららたったったぁー♪

 はい、というわけで今回も始まりました“どらすてぃっくごーすと”のお時間ですっ。

 えー、私、ロングヘアーの巨乳ロリっ子幽霊でお馴染みの桜井奈緒でぇーっす、よろしくお願いしまぁーす!!

 って言ってももうちょいしたら居なくなりますけど…。

 前回のあらすじ言って終わりですからね…。

 な、泣いてなんかいません!!

 ……ぐすん。

 さぁ早速、前回のあらすじです!!

 前回は祐介さんのお友達、小田切司さんがスタジオから帰っている最中に何者かに襲われてしまいました。話が進むにつれ、司さんを襲ったのはなんと、女子高生の幽霊だということが判明しました。

 きゃー怖いっ!!

 そして司さんが自分を襲った理由を聞くと、その女子高生の幽霊は司さんをキッと睨みつけて、

『あんたらが憎い』

 と静かに言ったのです。

 さぁー、これから司さんはどうなるのでしょうか!!

 そして女子高生の幽霊の襲った動機の真意は!!

 なぜ“あんたら”なのか!!

 これらの謎はこの後明らかになる――。


「祐介さーん、これでいいですかぁ?」

「バッチリだよ桜井さん」

 はい、それでは本編始まります。



「は?あんたらが憎い?」

『あぁ、あんたらが憎い。憎くて憎くてしょうがない』

 女子高生の幽霊は鋭い視線を逸らすことなくジッと俺を見据える。

 そんな中、睨まれてる俺はというと――。

『何キョロキョロしてんだ?』

 憎悪と憎しみの込められた眼差しを向けられているのをお構いなしにキョロキョロと周囲に目を配らせていた。

「あ、いや、“あんたら”って言ったからここに俺以外誰かいるのかなと思って」

 しかし周囲を確認しても俺以外誰もいないという結果に終わる。

「もしかして、お前みたいに人間には見えない“モノ”が…いるのか?」

 俺は恐る恐る女子高生の幽霊にそう聞いてみた。

 もしそうであれば警戒するのに越したことはない。現に俺は目の前に突っ立ってる所謂(いわゆる)“あちら側の人間”(死んでるのに人間とはこれいかに)に殺人鬼よろしく首を絞められているんだから。

 警戒をし過ぎてもし過ぎることはない。

「おい、どうなんだ」

 俺の問いに答えず、ただジッと俺を睨みつけている女子高生の幽霊にもう一度聞く。

 すると女子高生の幽霊はさらに鋭く、もはや視線だけで人を殺せるほどの殺気を放った眼差しを俺に向けてきた。

 それにはさすがに俺もゾッとした。

『あんたさぁ、あたしのこと舐めてる?マジで殺されたい?』

 体全体を覆うくらいに成長した殺気を身に纏い、女子高生の幽霊は俺の方へと一歩足を進めた。

「いや!!ちょ、ちょっと待て!!別に俺はそんなつもりで言ったんじゃない!!て言うか俺はマジでそう思ったんだって!!だってそうだろ!?辺りを見回してもここには俺しかいないのにあんたが“あんたら”って言うから俺には見えない“何か”がいるかもしれないと思うじゃないか!!」

 俺はそう必死に釈明する。しかし女子高生の幽霊はそれに対してまるで聞く耳を持たず、毅然とした様子で俺の所へと一歩ずつ近づいてくる。

 その間も俺はずっと叫び続けるが、やはり女子高生の幽霊は足を止めることなく進んでくる。

 やばい、マジで殺される。

 俺がそう思った時――。

『才能とかセンスとかそういうのがある人間の大部分はさぁ、自分でそれがあるという自覚がないとあたしは思うんだ』

 いよいよ俺の所にたどり着いた女子高生の幽霊は、突然そんなことを言い出して俺の顔の傍にしゃがみ込んだ。

 …パンツ見えそう。

 あ、いや何でもない…。

 て言うか。

 は?

 え?

 いきなりどうしたんだ?

 恐る恐る表情を伺ってみると先ほどよりは殺気が感じられず、初めに見た時の表情に戻っていた。

『そりゃあそうだよ、例えば絵が上手い人とかサッカーのプレイが凄い人とか、つまり“出来る人間”っていると思うけど…ん?“出来る”だと少しニュアンス違うな。“有能な”?んー、どっちだ?…まぁいいや。その『上手い』とか『凄い』とかって結局は本人ではなく他人の意見や感想であって、当の本人はただ自分のやりたいように好き勝手やってるだけなんだから。それが才能とかセンスがあるということの証明になってるって気付きもしないでさ。まぁ、中には自覚している人もいると思うけど』

「は?え?ちょ、ちょっと待て、お前いきなり何言ってんの?」

 才能?センス?

 何でいきなりそんなこと言い出すんだ?

 さっぱり意味が分からない。

『分からない?分からないわけないよね?作詞出来て、作曲出来て、編曲まで出来る。そして曲を作ってバンドメンバーに聴かせる度に、ステージの上で演奏する度に『凄い』『格好いい』『センスある』と持て(はや)されるあんたが、あたしの言ってる意味が分からないわけがないよね?』

 俺を見る女子高生の幽霊の目が細くなる。

 まるで軽蔑しているかのように。

「いや、そういうことじゃなくて…、ってか何でお前、俺が曲作ってるって知ってんだ?俺お前に遭遇してから今の今まで曲作ってるなんて一言も言ってないぞ?しかも俺が持て囃されてるって何だよ!!そんなことされてねーわ!!」

 確かに凄いとかセンスあるとかは言われたことあるし、形上それが持て囃されてるように見えたとしても俺はそれで有頂天になっているつもりはない。

 ましてや自分にそういった才能とかセンスとかあるなんて思っていない。

『そりゃああんたは有頂天になっているつもりはないし、自分に才能やセンスがあるとも思っていない。だって自分の好きなように曲を作っているんだから。言っただろう?才能やセンスに恵まれている人間はそれに対して自覚がないって。でも事実、歌詞も秀逸だし、曲の構成も非常に上手いし面白い。演奏の技術だって申し分ないほどだ。つまりはあんたは自分で好きなようにやってるつもりでも、いつの間にか自分の無自覚ながらも持っている才能やセンスを無意識に、そして――無責任に発揮しているんだ』

「無責任…だと?」

 意味が分からない。

 さっきの『意味が分からない』はこのタイミングで才能がどうとかそういう話をし始めた女子高生の幽霊に向けた言葉だが、今回のは文字通り女子高生の幽霊の言っている話に向けての『意味が分からない』だ。

 何が無責任だ。

 万が一、億が一俺に曲作りの才能やセンスがあるとしても、そしてそれを無意識に発揮しているとしても、なぜそれが“無責任”なんだ。

 つか関係ないけど何で聴いたこともないのに『歌詞が秀逸~』とか言ってんの?

『意味が分からない?ははっ、あんたはどこまでもおめでたい奴だな、頭の中がお花畑で埋め尽くされているのか?もしそうだとしたらあんたはとんだハッピー野郎だな』

 女子高生の幽霊の罵声が乾いた嘲笑と共に響く。

『創作物というものは才能やセンスの塊だ、それは曲作りも例外ではない。つまりあんたの作った曲も同じことが言える。そんなあんたの作った曲をあんたのと同じような曲作りに励んでいる奴が聴いたらどう思う?同じ志を持った無能でナンセンスな“出来ない人間”が聴いたらどう思う?…んー、やっぱり“出来る”とか“出来ない”とかは何かニュアンス的にしっくり来ないな。ま、もうこの際どうでもいいや』

「………」

『ん?どうした?急でもないけど黙り込んで。あ、もしかしてあたしの質問に対する自分の考えを頭の中で、一面お花畑の頭の中で導こうとしてるのか?あーダメダメ、いくら考えを導こうとしても導かれるのは蜜を吸いに来たモンシロチョウだけだから』

 もしかしたらミツバチかもと、女子高生の幽霊は言う。

「俺の頭ん中はお花畑じゃねーよ!!」

 こいつ俺のこと馬鹿にしすぎだろ。

 黙って聞いてりゃあいい気になりやがって。

 さすがの俺でもそんな頭の中が花畑で溢れ返っているようなハッピー人間なんかじゃないわ。

『じゃあ、黙って聞くなよ。あたしはあんたに質問しているんだ、もしあんたの頭の中がお花畑で溢れ返っていないのならちゃんと答えろよ』

 俺はそんな威圧的に言葉を放つ女子高生の幽霊に、若干ムカついていた。

 さっきまでの俺だったら恐怖心を煽られていた。そりゃあそうだろう、さっきも言ったが、こいつは幽霊だし、俺に対して殺意を行動に移したのだから。殺されると思ったら怖くなるのは当たり前だろう。これで怖くならない奴はそれこそ頭の中がお花畑で埋め尽くされているハッピー人間か自殺志願者くらいだ。

 でもいきなり、突然に、前触れもなく、また突拍子もなく才能やセンスがどうのこうのと訳の分からない弁舌を振るい、俺を見下し、軽蔑し、挙句の果てに馬鹿にする始末。

 ましてやこの幽霊とはそれこそついさっき出会ったのだ。そんな出会ったばかりの奴に馬鹿にされてムカつかない奴だって当然いないだろう。

 でも俺を苛立たせてくれたおかげでお前の求めている答えが分かったよ。

 おかしい話だよな、よく『怒りで周りがよく見えない』と言われるけど、俺はそのおかげで“お前のことがよく見えた”ようだ。

 いや、“思い出させてくれた”と言った方が正しいのかな。

 だから。

 俺から恐怖を取り除いて、怒りを植え付けさせてくれて――ありがとうと。

 そんな感謝の意を込めて。

 俺は言った。

「どう思うって?そんなこと“知らねぇよ”」

 ニヤリと笑って――馬鹿にした。

『あー、あたしは幽霊だからあんたの思っていることが分かるからそういう風に言われるって分かってたけど、いざ言われるとやっぱり腹が立つな』

 女子高生の幽霊は頭を掻きながら顔をしかめる。

「腹が立ったか、そりゃあ良かった。つまりお前もハッピー人間ではなかったことが証明されたわけだ。おめでとう」

『あんた、殺されたい?』

 女子高生の幽霊はギロリと俺を睨む。

 もうこの幽霊に何度睨まれたか分からないが、しかし俺にはもうその目に屈する恐怖心は生憎持ち合わせていないぜ。

「幽霊はもう人間じゃないから法律に縛られることなく人を殺せるんだもんなー。羨ましいなー。あ、いや、別に人を殺せることが羨ましいんじゃないぞ?法律に縛られないで好きなことが出来るってのが羨ましいんだからな?勘違いすんなよ?」

 そして俺は一呼吸置いて――。

「羨ましい羨ましい、幽霊すげぇ羨ましいなー。もう“嫉妬”しちゃうぜ」

 思えばこいつに襲われる前に俺はそんな言葉を耳にしていたんだよな。

 幽霊に、しかも襲われるなんて人生の中で今の一度もなかったから恐怖でそんなこともすっかり頭の中から旅立ってたよ。

 ちょっと冷静になって考えたらこいつの求める答えなんて――最初にこいつ自ら提示していたじゃあないか。

 全く。

 幽霊は怖いな。

「嫉妬だろ?嫉妬するって言いたいんだろ?いや、言わせたいんだろ?お前は。才能やセンスがあると思ってる俺にその言葉を言わせたかったんだろ?」

『…そう言えばあんたがどんなことを歌おうかと考えてる時にあたしは“嫉妬”という言葉を発していたな。まぁ、そんなことはどうでもいいや。とりあえず正解だ、正解正解だーいせーかーい。そうだよ、あたしはあんたにそう言わせたかったんだよ』

 正解とか言いながら何その心のこもっていない言い方は。

 まぁ、いいか。

 心のこもっていないということは不本意だったということだ。

 つまり馬鹿にされたという自覚があったということだ。

 ははっ、これでおあいこだ。

『おあいことか馬鹿じゃない?こんな小さな反撃とも言えない、まるでデコピンのような皮肉で満足するするとか。あんた、人間としても小さいね』

 確かに腹が立ったのは事実だし、シラケたのも事実だけど、単にそれだけだと。

 女子高生の幽霊は無表情でそう言った。

「小さい…ね。まぁ、お前がそんなことで俺のことを小さい人間と思うなら、俺は小さい人間なのかもな。人の価値観や考え方って人それぞれ違うし、他人がそれをどうこう言えるものでもない。でも――」

 そして俺は続けて言う。

「あえて俺という他人がお前の考え方に口を挟むとしたら、自分より遥かに上回る才能を見せ付けられて嫉妬しか湧き上がってこないお前も小さいよ」

 ビシッと。

 右手の人差し指を女子高生の幽霊に突き付けて。

 まるで探偵が犯人を当てるように。

 俺は言った。

『あ?』

 女子高生の幽霊は俺の言葉にあからさまに不機嫌になった。

「お前も言った通り、創作物は才能やセンスの塊だ、そして自分より上回るものを見せ付けられて嫉妬だってする。それは否定しない。だけど創作物は才能やセンスだけか?そして感じるものは嫉妬以外にまだあるだろ?そうやって物事を自分の都合良くしか考えられないお前は小さいって言ってんだよ」

 小さな人間。

 不完全な人間。

 人間の成れの果て。

 つまり――幽霊。

『何だそれは。もしかしてあれか、あんたは『努力に勝る天才なし』とでも言いたいのか?何事も一生懸命努力すればその成果はやがて実を結ぶと、そんな陳腐なセリフをこれみよがしにあたしに言っているのか?』

「ああ、そうだ。才能やセンスなんて、努力次第でどうにでもなる」

『はっ、やっぱりあんたの頭の中は一面お花畑のハッピー人間だ。というよりあんたという人間自体ハッピーセットだな』

 マックに帰んな。

 女子高生の幽霊はそう言って、尚も続ける。

『確かに努力は大事だ。創作活動だけじゃなく、人生においても必要不可欠だ。というより人生そのものが努力と言っても過言ではない。それはあたしにも理解できる。でもさぁ、努力するということは基本であって当たり前のことなんだよ。呼吸するのと同じさ。だから日々生活している中で努力してない奴なんていないし、努力しない奴はもう人として終わってる』

「だからお前は――幽霊なんだろ?」

 俺は間髪を入れずそう言った。

 というか。

 気付いた時にはもう言葉を発していた。

 反応的でなく、反射的に。

 脳を経由せずに。

 しかし。

 そんな脳を経由しないながらも咄嗟に発せられた薄っぺらな自分の言葉に。

 俺は全てを理解したのだった。


「えー!?前回のあらすじで“この後、全てが明らかになる”って言ったくせに中途半端に終わるんですかー!?どうなってんですか!!」

いや、思ったより長くなりs

「自分の言葉に責任持ってください」

…言ったのあなたでしょ。

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