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第2話 幽霊ですぅ

まだまだコメディー要素はありませんね

 ………ん…。

 …ふぁ…ぁ…。

 …はぁ…。

 …あ…れ…?

 自分の部屋…?

 い…っ!!

 体中が痛い…。

 あ、僕昨日幽霊見て…それで驚いて…階段から落ちたんだ…。

 でも何で僕ベッドで寝てたんだ?

 僕はそう思いながらズキズキ痛む体をゆっくり起こし、辺りを見回した。

 そして再び衝撃が走った。

 僕から見てベッドの右側に、昨日僕の部屋に現れた幽霊がうつ伏せになっていた。

 微かに寝息が聞こえるところ、恐らく寝ているのだろう。

 …?。

 …幽霊って寝るの?

 僕はそんな些細な疑問を抱いてしまった。

 もっと大きな疑問が目の前にあると言うのに。

 そして一度味わった恐怖が、再度僕を襲った。

「な、なん…で…、いる…の…?」

 また昨日のように恐怖で体が動かなくなってしまったが、何とかかすれる声を振り絞り、僕は言葉を発することが出来た。

 こんな些細なことでも僕にとっては大きなアドバンテージだった。

 声を出すことが出来るなら助けを呼ぶことが出来る!!

 幸い、部屋の窓が開いているし…。

 僕はそう思い、大声を出そうとした瞬間、モゾッとそれが動いた。

「…!」

 僕の中で一気に緊張感が最高潮になる。 

 些細な行動だろうが、大胆な行動だろうが“それ”が行動を起こす度に僕の行動に制限が掛かってしまう。

 さっきまであった僕のアドバンテージがものの見事に失われてしまった。

 口の中の水分が失われ、喉がカラカラになる。

 そしてそれに反比例して、汗が頬を伝って流れ落ちる。

 そんな状況の中、僕はただ“それ”を見つめることしか出来なかった。

 しかし次の瞬間、緊迫した雰囲気に不釣り合いな声が僕の耳に入り込んできた。

「ふわぁああ…、ん?あれ…?あたし寝ちゃってましたぁ?」

“それ”はムクッと体を起こし、ポリポリとボサボサ頭を掻きながら眠気眼でこちらを眺めていた。

「あ、おはようございます。体の方は大丈夫ですか?あんなとこで寝てたら風邪引いちゃうと思ってあたしがここまで連れてきたんですよぉー。感謝してください。えっへん」

「うわぁああああ!!喋った!!僕に喋った!!恐い!!怖い!!コワイ!!こわい!!KO・WA・I!!」

 僕はあっさりと取り乱してしまった。

“緊張”と言う氷属性の魔法を掛けられ凍り付けにされた後に、“喋る”と言う攻撃を受けて体が粉々に砕け散るように。

 そして粉々に打ち砕かれた僕の精神を繋ぎ止めるものはなく、僕は狼狽える。

 一刻も早く逃げ出したい…。

 その思いが僕の精神を復活させる唯一の術だった。

 僕は掛け布団を乱暴にふっ飛ばし、部屋から出ていこうとした。

「ま、待ってください!!逃げないでくださいよ!!」

 その時、僕のズボンの裾を“それ”が掴み、僕はバランスを崩してだらしなく転んでしまった。

「イテテッ…」

 僕は顔面を強打してしまった。

「ご、ごめんなさい!!だ、大丈夫ですか…?」

 僕は強打した顔面を擦りながらその場でうずくまっていると、“それ”が立ち上がって僕の方に歩み寄ってきた。

 僕はそこで初めて“それ”の顔をしっかり見た。

 ボサボサの長い黒髪に隠れていたその顔は、想像していたものとはまるで違い、少し幼さが残るとても可愛らしい顔立ちをした女の子だった。

 一番驚いたのが“目”である。

 昨日僕を睨み付ける目は明らかに狂気と憎悪に満ち溢れていた。

 目玉が飛び出るほどバッと見開かれたその目は、真っ赤に充血していて不気味――と言うより恐怖そのものだった。

 実際に僕、殺されると思ったし…。

 でも今僕の目に映るのは、若干つり目のパッチリとした大きくて綺麗な瞳だった。

「驚かせてごめんなさい…」

 その女の子は泣きそうな表情を浮かべながら申し訳なさそうに深々と頭を下げた。

「…え?あ、うん…」

 昨日とはまるで違う女の子の態度に戸惑いながらも僕はそう返した。

 何この謙遜っぷりは。

 一人で騒いでた僕が馬鹿みたいじゃないか。

 僕はそう思うことで無意識に少しずつ精神を構築する。

「あ、あたしは桜井(さくらい) 奈緒(なお)って言います。見ての通り…、幽霊です」

 その女の子の幽霊――桜井さんはそう小さく挨拶をする。

 良く見たら、申し訳なさそうな様子、と言うより少し照れているような感じだった。

「あ、あの、やっぱり…僕に憑いてきたの…?」

 僕は恐る恐る桜井さんにそう問い掛けた。

 昨日からの最大の疑問。

“何故僕の部屋にいるのか”。

 僕はそれを知りたかった。

 むしろ僕には知る権利がある!!

 フンスッ!!

「はい…。あなたが昨日来た学校から憑いてきました…」

 チラチラとこちらの様子を伺いながら桜井さんはそう言った。

「…何で?」

 続いて動機。

「え!?あ…、それは…」

 桜井さんは僕の問い掛けに突然口ごもる。

 何だ?

 どうして口ごもる?

 何か後ろめたいことでもあるのか?

 …まさか!?

「もしかして…、僕を呪いに来たの…?」

 僕は意を決して桜井さんにそう問い掛けた。

 ぜ、絶対そうだ!!

 だって夜の学校は出ると言う噂があった。

 言わば心霊スポット!!

 そんな幽霊たちが集う聖地に僕たちは土足で足を踏み入れてしまったんだ。

 当然幽霊たちは怒るだろう。

 当然幽霊たちは呪うだろう。

 これは当然の結果なんだ…。

 こいつは僕を呪いに来たんだ!!

「あたし、そんなことしませんよ。あなたを呪うわけないじゃないですか」

 ブルブルと震えながらうずくまる僕に対して、桜井さんは優しく頭を撫でる。

 ひんやりとした感触が頭を包み込む。

「あたしはただ、あそこにずっといることに飽きただけです」

 は?

 飽きた?

 だから僕に憑いてきた?

 WHY?

「あなた方をあの時間、つまり丑三つ時に見つけたのは本当に運が良かったです」


 あ、この事説明してなかったね。

 僕たちがあの学校を出た頃が大体二時過ぎだったんだ。

 補足終了。


 桜井さんは更に続ける。

「正直あたしも詳しくはわからないんですが、夜中の午前一時から三時までの間のことを丑の刻と言い、その中でも午前二時から二時半の間を丑三つ時と言います。これを方角で表すと東北になるんです。その方角には鬼門と言うものがあり、そこは鬼や魔物、幽霊などが現れたり、また黄泉の国や霊界の門が開くと言われています。つまり丑三つ時はあたしたち幽霊にとって活動の幅が広がる…みたいな感じに捉えてもらって結構です」

「は、はぁ…」

 僕は桜井さんの突然の謎の説明に混乱しながらも耳を傾けていた。

「あの学校の玄関はちょうど鬼門の位置にあるんですが、どうもあたしたち幽霊はあの玄関に触ることが出来ないのです。これはあたしにも理由がわからないんですけど」

「つまり君たち幽霊は人間の手によってあの玄関が開けられない限り、あの学校から出れないと?」

 良くわからないけど。

「はい。あの学校に残ってる幽霊たちにとって、鬼門の方角にある学校の玄関は、言わばこっちの世界とあっちの世界を繋ぐ玄関みたいなものですからね」

 桜井さんは頭をポリポリと掻きながらそう言った。

 頭痒いのかな?

 まぁ、幽霊だし、お風呂なんか入れるわけないもんな。

 いやいや、今はそんなことどうでも良い!!

 まだ肝心の答えを聞いていない!!

「じゃあ運良くその時間帯に僕たちが玄関を開けて、君はその隙に出たわけだよね?」

「はい、そうです」

「じゃあ何で成仏してないの?」

 もし桜井さんの言うことを信じるなら、学校を出た時点で黄泉の国だか霊界だか知らないけれど、とりあえずそこへ行ける筈なのだ。

 つまり成仏出来るのだ。

 なのにも関わらず、桜井さんは今、僕の目の前にいる。

 成仏せずに。

 僕の目の前にいる。

 正直可愛い…。

 頭ボサボサだけど。

「そ、それは…」

 桜井さんは再び口ごもる。

「やっぱり僕を呪うため?」

「違います!!」

「じゃあ何で?」

 僕はなかなか話そうとしない桜井さんをジッと見つめて返答を待った。

「その…、あんまり見られると恥ずかしいですぅ」

 そう言いながら桜井さんは俯いてしまった。

 それによって髪で顔が見えなくなる。

「…友達になりたくて」

 桜井さんは聞こえるか聞こえないかと言うくらい小さな声でボソッと呟く。

 まぁ、僕にははっきり聞こえたけど。

 て言うか。

 え?

 いやいや、ちょっと待って。

 僕たち何も接点ない。

 会ったのだって昨日が初めて。

 会話なんてついさっきしたばっかりだよ。

 友達になりたい?

 何言ってんだこの幽霊は?

 て言うか。

 本当今更だけど、僕って霊感あるんだね。

 てへっ。

「は?」

 とりあえず僕は文字通り一言声を発した。

「あたしと友達になってください!!」

 桜井さんはバッとこっちを向いてはっきりとそう言った。



「えぇえええええええええ!!?」


 何か僕叫んでばっかりだなぁ。

あれ?

夜中に学校の玄関開いてるって…。

僕の高校セキュリティー面どうなの?

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