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第20話 数じゃないですぅ

「ゆうすっけさぁーん、今日のお昼は何ですかぁー?」

 床におちゃんこ座りで台所にいる僕にニコニコしながらそう問い掛けてくるストレートロングヘアーのロリっ子幽霊こと桜井奈緒さん。

「今日のお昼は素麺にしようかなと思ったんだよね。桜井さん素麺で良い?」

「あぁ~、良いですね素麺っ!!この暑い夏の日にはうってつけですよねっ♪」

「そうだね。じゃあお昼は素麺で決定」

「けってーい♪」

 桜井さんは右手を上げてとびっきりの笑顔をしながら言った。

 嬉しそうだな。

 良かった良かった。



「うーまー♪」

 麺をちゅるりと口に滑らせ、頬っぺたに手を当てて幸せそうな表情を浮かべる桜井さん。

「そう?良かった」

 僕はそう言いながら麺を啜る。

「うん。さっぱりしてて美味しいね」

 正に夏ならではの食べ物だ。

 素麺GJ。

「はい!!しかも味や食感だけでなく、このガラスの器と言うところが更に爽快感を与えてくれますよね!!」

 桜井さんは素麺の入ったガラスの器を舐めるように眺め、箸でクルクル素麺を回し始めた。

 器の半分ほど水が入っており、更に氷が二、三個入っている。

 桜井さんの回す箸によって水の流れに身を任せた氷同士がぶつかり合い、カラカラと音を立てていた。

「桜井さん、食べ物で遊んじゃダメだよ」

 心の中ではそんなこと微塵も思ってないけど。

 何となく一応ね。

「ごめんなさいですぅ」

 そうは言ってもすぐには止めず少しの間、氷同士のぶつかる音を楽しむ桜井さん。

 カラカラカラカラ…

「良い音ですねっ♪」

 桜井さんは再度素麺をちゅるっと口に滑らせてニコッと笑った。

「何かお酒みたいだね」

「お酒ですか?」

「うん。ほら良くドラマとかでバーで飲んでるシーンってあるじゃんか。ウィスキーとかをロックで飲んでるシーン。あれって、こう、バーテンダーと会話してる時に何気なくグラス回してるでしょ?その時にカラカラ~ってなるじゃん。だから何かそれに似てるなって」

「なるほどです」

 桜井さんは箸で氷を突っつきながら言う。

 カランと氷が音を立てた。

「それは何か大人な雰囲気ですね。でも氷がお酒じゃなく、こうして素麺の器に入ってると、夏の雰囲気が出ますよね」

「確かにそれはあるね」

 素麺じゃないけど、氷の入った麦茶なんかは完璧夏の雰囲気を醸し出している。

 物は用途によって様々な雰囲気や光景を映し出すのである。

「こう言うのってあたし好きなんですよ」

 麺を口に滑らせてあむあむと食べる桜井さん。

「こう言うの?」

「夏には夏らしさを感じたり、冬には冬らしさを感じたりすることです。今は夏なのでこうやって素麺を食べたり、扇風機の風を浴びたりして夏を感じられることがあたしにとって幸せなんですよ」

 そう言って桜井さんは目を閉じる。

「セミの鳴き声も夏の風物詩ですよね」

 恐らく桜井さんが目を閉じたのは耳を澄ませてセミの鳴き声を聞くためだったのだろう。

 窓の外からはいつも通りのうるさいセミの鳴き声が鳴り響いている。

「そうだね。セミの鳴き声なんて夏にしか聞くことが出来ないからね」

 確かにセミの鳴き声はとてもうるさくて迷惑極まりないが、きっとセミの鳴き声がない夏は、物足りなく感じるだろう。 暑い日々の中にセミの鳴き声が響き渡るのが夏であるのだ。

 セミも夏には欠かせない風物詩。

 夏を知らせる先駆者。

 みーんみーんみーんみーん…

「桜井さん」

「何でしょうか?」

「今度風鈴でも買いに行こうか。僕の部屋には縁側がないからそこまで雰囲気は出ないけど」

「はぁあ…、良いですね風鈴!!買いに行きましょうよ風鈴!!」

 子供みたいにはしゃぐ桜井さん。

 目をキラキラ輝かせて嬉しそうに僕を見る。

「桜井さん子供みたい」

「ひゃっ」

 僕は桜井さんに手を伸ばし、頭を軽く撫でた。

「うぅ~、あたし子供じゃないですぅ~」

 僕が手を離すと、桜井さんは両手で自分の頭を抑えながら上目遣いで僕を見た。

 やばい、これは可愛いぞ桜井さん!!

 …写メに撮ろう。

「桜井さんその表情のままちょっと待ってて!!」

 僕はベッドの上にあるケータイをバッと掴み取り、カメラを起動した。

「えっ?えぇっ?えぇぇ!?」

「桜井さん動いちゃダメ!!」

 しどろもどろになる桜井さんに向かって僕は一言そう言い放つ。

 さっきの表情は見事に崩れたけど、慌ててる桜井さんもこれはなかなか乙なものだ。

「えぇぇ!?ちょっと祐介さん!?何撮ろうとしてるんですか!?」

 …そう言いながら何ポーズをとってるんですか桜井さん。

 桜井さんは素麺の器を両手で持って笑顔で静止していた。

「……………」

「何してるんですか?早く撮ってください」

 パシャッと。

 不本意ではあるけど。

 可愛いから良いか。

「可愛く撮れましたかっ♪」

「……うん。あ、ちょっと待って、メール来た」

 とりあえず僕はその写メを保存し、メールボタンを押す。

「ん?マイミク申請だ。誰だろう?」

 僕はそう呟き、メールにあるURLを押した。

「三上だ、珍しいな。あんまり仲良くないのに」

 まぁ、別に良いやと言うことでマイミク承認っと。

「どうしたんですか?」

 桜井さんは素麺を食べ終わって、僕の隣にやって来た。

「あぁ、何か同じクラスの奴からマイミク申請が来たんだよ」

「マイミクって言ったら……………………あ、『みくしぃ』内での友達のことでしたよねっ♪」

「正解」

「やったですぅ♪」

 うん。

 僕は皆さんの知らないところでもちゃんと桜井さんにいろいろ教えてるんですよ。

 偉いでしょ。

「で、誰から友達になろうって来たんですか?」

 そう言いながら桜井さんはケータイの画面を覗き込む。

 きっと見ても理解できてないと思うけど。

「同じクラスの三上(みかみ) 麻衣子(まいこ)って奴だよ」

「女の子なんですか?祐介さんモテモテですね!!」

 いや、それは断じて無い。

 僕がモテモテだったら既に彼女出来てると思うし。

 僕がモテモテだったら三股四股なんか普通だし。

 僕がモテモテだったらとっくに童貞捨ててるし。

 …くっそ、泣きてぇ。

「いや、多分ただ僕のことを見つけたから何となくマイミク申請したんだよ」

 現実はそんなものだよ桜井さん。

「ふーん、そう言うもんですか」

「そう言うもんだよ」



 お昼を食べ終わり、二人揃ってまったり中。

「で、その三上麻衣子さんて言うのはどんな方なんですか?」

 ベッドにちょこんと座る桜井さんが、台所で洗い物をしている僕にそう訪ねてきた。

 うーん、あんまり仲良くないからなぁ…。

「とりあえず良く喋るね。高校で初めて会ったけど、いろんな人に話し掛けてたよ。僕もその中の一人だったし。すごい社交的な奴だね」

 このくらいしか印象が無いと言う…。

「へぇー、そうなんですか」

「うん。だから友達すごい多いらしいよ。マイミクの数も三桁越えてたし」

「ちなみに祐介さん何人なんですか?」

 …僕に聞く?

 桜井さんも人が悪いなぁ。

 どうせニヤニヤしながら僕に聞いたんだろうなぁ。

 僕、あんまり友達いないの知ってるのに。

 と、思いながら僕は桜井さんを見た。

 真顔!!

 悪意の欠片もない!!

 なるほど。

 悪意の欠片もない純粋な質問だったんだね。

 …タチ悪いなぁ。

「僕は…15人くらい」

「十分多いじゃないですかっ♪」

 それも無意識に馬鹿にしてるのかな。

「違いますよ祐介さん、友達は数じゃないんですよ」

 グッと。

 右手の親指を立てて僕に突き出す桜井さん。

「数が少ないからこそ、何度も遊び、交流を重ねることで、友達との親睦が深まるんですよ。だからむしろ多くなくて良いんですよっ♪」

「…そうだね!!そうだよ!!友達は数じゃないんだ!!」

 そうだ。

 友達は数じゃない。

 大事なのは絆の深さだ。

 多かろうと少なかろうと、どれだけ友達と深い絆で結ばれてるかが大事なんだ。

 何かそう思うと自然に清々しい気持ちになる。

 …何て僕は単純なんだろう。

「ふふっ、単純ですね♪」

 桜井さんは口に手を当ててそう微笑む。

 うん。

 自分で言うのは良いんだけど、他人から言われるのはちょっと悲しいな。


「さて、桜井さん」

「何でしょう?」

「やることもないし、甲の所にでも遊びに行こうか」

「そうですね。甲ちゃんに会いに行きましょうか♪」

「行く途中で麦茶でも買っていってあげようか」

「あぁー、あたしも欲しいですぅー」

「わかってるよ。ちゃんと桜井さんの分も買ってあげるよ」

「わーい、やったですぅー」

 そう言って僕と桜井さんは甲に会いに、外へ出た。

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