第1話 何かいるですぅ
まだまだコメディー要素はありませんね。
あまり自己紹介と言うものは得意じゃないが、一応礼儀だから仕方ないよね。
僕は藤森 祐介。
この間高校に入学したばかりの高校一年生。
…うん、このくらいで良いだろう。
僕あまり自分のことベラベラ喋るのって苦手なんだよね。
それに誇れるものが一つもないし。
だから自己紹介終わりっ!!
と言うより、実際のところ自己紹介なんてしてる状況じゃないんだよ。
その説明をするために、ちょっと話を戻しますね。
高校生になって初めての夏休み。
僕は実家を離れ、学生寮に住んでいた。
実家から高校まで結構距離があり、また、交通機関も充実していないため(僕住んでるところ田舎だから)実家から通うのが難しいのである。
だから門限に縛られることなく、遊べるのだ!!
ごめんなさい。
まぁ、実際に僕は高校で仲良くなった友達数人と夜中遅くまで遊んでいたけどね。
そんな中、カラオケやボーリングなどで遊び尽くした僕たちが“次はどこ行くか?”と言う議題で話し合っていた時に、友達の一人がこんなことを提案してきた。
「心霊スポット行かねぇ?」
“心霊スポット”。
言ってしまえば夏の風物詩と言っても過言ではない。
夏の暑苦しい中、背筋の凍るような緊張感とスリルを味わうことの出来る心霊スポット。
遊びを主とする高校生にとってそれは打ってつけだった。
その提案に友達のほとんどが賛成。
もちろん反対する人もいたが、その場の雰囲気に流され、結局は行く羽目になる。
ちなみに僕はどっちでも良かった。確かに幽霊は怖いけど、僕は霊感とかそう言った類いのものは全く持ち合わせていない。
だからどうせ行ったって幽霊を見ることだってないし、大丈夫だろうと思っていた。
僕たちの住んでる所には心霊スポットは五、六個程あり、それぞれの知名度もそこそこあった。
しかし、それぞれの心霊スポットの場所が今僕たちがいる場所からすごく離れていて、最低でも車がないと行くことが出来ない。
もちろん僕たちは高校生だから車の免許なんて持っていない。
主に移動手段は自転車なのだ。
チャリ万歳。
さて、どうしたものかと僕たちは頭を悩ませていると、心霊スポットを提案した友達がこんなことを言った。
「俺らの高校出るらしいぞ」
そう静かに言ったのである。
その友達曰く、僕たちの高校が建っていた場所は、昔墓地だったらしい。それに僕たちの高校に通っていた先輩の中にも何人か“見た”と言う噂もあるんだとか。
まぁ、僕たちの高校なら自転車で行ける距離だし、実際に見た人がいるからこそ、そう言う噂が立つわけである。
信憑性は薄いが可能性はゼロではない。
正直近いと言うのが大きな理由になったのかもしれない。
僕たちは僕たちの高校に行くことにした。
とまぁ、こんな感じで高校に行ってきたんだけど、結果的には空振りだった。
時間ももう丑三つ時なんてとっくの昔に過ぎていたし、その後すぐ解散になった。
え?
後半の説明省き過ぎ?
だってもう良くない?
幽霊出なかったんだし、特にそんな面白いこともなかったし。
…飽きたし。
あ、いやいや!!
アレだよ!?説明ばっかりだったらつまんないでしょ!?
早く本題入ってほしいでしょ!?
こっちだって入りたいんだよ!?
…以上説明終わり。
いやぁ、しかし。
人間と言うものは本当に驚いた時や恐怖に陥った時、またその両方を兼ね備えた時には声が出ないと言うけれど、それはごもっともである。
僕は今、寮の二階の部屋、つまり僕の部屋のドアを開けたまま固まっていた。
本当に動けない。
言うなれば石像になってしまったかの如く、動けなかった。
“ある一点”だけを見つめて。
そして心底疑問に思う。
誰?
何?
何で僕見えてるの?
そんで何で僕の部屋にいるの?
どっから来たの?
高校?
え?
高校にいたの?
じゃあ憑いてきちゃったの?
NANDE?
“それ”は服なのか良くわからないボロボロの布のようなものを身に纏い、胸より少し下まで伸びたボサボサの髪がガックリと前に項垂れた頭を覆い尽くし、そのまま微動だにせず立ち尽くしている。
たったそれだけなのにも関わらず、負のオーラが僕の部屋を支配している。
恐い…。
存在感が半端じゃない。
僕は完全に圧倒されていた。
目の前の“それ”に。
ただ立っているだけの“それ”に。
目を逸らしたくても逸らせてくれない。
体を動かしたくても動かさせてくれない。
僕も部屋の一部のように“それ”の放つ負のオーラに支配されていた。
その時!!
項垂れていた頭が突然前を向き、僕を見た。
僕と…目が合う…。
髪で顔の大部分は覆われていたが、その隙間から垣間見られる目はジッと僕を睨み付けていた。
もう僕は限界だった…。
恐怖で押し潰されそうになっていたが、それももう限界だった…。
「うわぁああああああああああああ!!!!!」
真夜中に僕の大絶叫が木霊する。
そしてそれが引き金になったのか、全く動かなかった体がすんなり僕の命令に従い、その場から逃げるように飛び出した。
その時、一階に繋がる階段で足を踏み外してしまい、僕は文字通り転がるように一階まで落ちていった。
そこで僕の意識は途切れたのであった。