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第14話 アイス食べますぅ

「あっついなぁー」

「あっついですねぇー」


 部屋で暑さにやられてる僕と桜井さん。

「エアコン欲しいね」

 僕はうちわで扇ぎながらそう呟く。

 僕の住んでる学生寮はエアコンが備え付けられていない。

 学生寮とは言っても、実際はアパートみたいなもので、そこまで環境に恵まれているわけではないのだ。

 聞いた話によると、築二十年以上だとか。

 まぁ、高校の寮なんてそんなものだろう。

「えあこん?何ですかそれ。『ふぁみこん』みたいなものですか?」

 扇風機の生温い風を浴びながら、僕にそう問い返すストレートロングヘアーのロリっ子幽霊こと桜井奈緒さん。

「エアコンって言うのは、冷たい空気が流れる冷房機器だよ。夏には必需品なんだよ」

 て言うか『ふぁみこん』て。

 しかも平仮名表記。

 ファミコンみたいなエアコンてどんなのだろう。

「へぇー、それ良いですね。今から買いに行きましょうよ」

 あたしも付き合いますよと、桜井さんは言う。

「いや、僕たち学生の身分で買えるような代物じゃないし。て言うか、寮に勝手にエアコン付けても良いのかな?」

「あたしが許します。祐介さん是非付けましょう」

 桜井さんの許可も下りたし、付けるか。

 …とはならないよ。

「ちぇーですぅ」

 桜井さんは口を尖らせて『暑いですよぉー!!』と、手足をジタバタさせながら騒いでいた。


「本当夏は嫌になるね。窓開けても熱風しか入ってこないし、扇風機だって生温い風しかこない」

「年々気温も高くなってますからね。温暖化ですよ温暖化。その内あたしたち干からびて死ぬんじゃないですか?まぁ、あたしはもう死んでますけど」

 あっはっはーと桜井さんの心のこもっていない笑い声が木霊する。

「今思ったんだけど、桜井さんって暑さ感じるの?」

 幽霊だよね?

 魂だよね?

 一見本物の人間に見えるから、たまに桜井さんが幽霊だと言うことを忘れちゃう。

「…あ。そう言えばあたし幽霊でしたね。言われてみれば思ってるほど暑くないですね。と言うかむしろ常温ですぅー」

 桜井さんも自分が幽霊だって忘れてたの?

 さっき自分で『死んでますけど』って言ってたのに。

 はは、おちゃめだな。

「祐介さんのその暑さに悶えた顔を見たらあたしも暑く感じちゃったんですねー」

 僕暑さに悶えた顔してたんだ。

 ブサイクだっただろうな。

「いやぁ、何にしても夏は嫌だ」



 暑さに耐えきれなかった僕はせめて体内を冷やそうと思い、アイスを買ってくることにしました。


「桜井さん、アイス買ってくるけど食べる?」

「アイスですかっ!?食べますぅ!!」

 桜井さんは『アイス』と言う言葉に反応し、ガバッと起き上がる。

 …びっくりしたなぁ。

「何が良い?」

「抹茶アイスかあずきバーが食べたいですっ!!」

 …目がすっごいキラキラしてる。

 そんなに食べたいのかな?

「あたし甘い物大大だぁ~い好きなんですよぉー。きゃはっ、嬉しいなっ、楽しみだなっ♪」

 桜井さんは『アイス~♪アイス~♪』と上半身を振り子のように揺らしながらニコニコしている。


 桜井さんが可愛すぎて生きるのが辛い…。


「抹茶アイスかあずきバーね。わかった」

 僕は桜井さんにそう確認してから、部屋を出た。


 コンビニに向かう途中、見慣れた人物と遭遇した。

「お、藤森か」

 早くも登場、木下さんです。

 この暑い中、汗一つかいていないその綺麗に整っている顔立ちは健在です。

 まぁ、幽霊だから暑いわけないんだろうけど。

「あれ?今日は怜と一緒じゃないんですか?」

 どうやら木下さん一人のようだ。

「あいつと一緒にいると言うのはヘドロの海でバタフライすることと同意語だからな。私はこうして一人で散歩をしてるのだ」

 …懲りてねぇなこいつ。

「貴様、今何か言ったか?」

 木下さんは着物の袖に腕を通しながら僕をギロリと睨む。

「いいえ、何も言ってません。ところで木下さん暇ですか?良かったらコンビニまで一緒に行きません?アイスご馳走しますよ」

「む、本当か?」

 袖に通した腕を引き抜き、木下さんは僕にそう言った。

 お、反応あり。

 木下さんもアイス好きなのかな。

「はい。僕もアイス買いに行きますし、せっかくなんで」

 それに木下さんだって桜井さんと同じ幽霊だ。

 何が現世に思い残したことがあるのだろう。

 だったら些細なことでも体験してもらいたい。

 まぁ、既に大概のことは体験してると思うけど。

「驚いたぞ藤森」

「え?何がですか?」

「お前は稀に見る優しい人間だ」

 僕が?

 僕別に優しくなんかないぞ?

 ただ単純にそう思っただけだぃ!!

「無意識にそう思うと言うことは、お前が優しい心を持っていると言うことだ。優しさこそ全てではないが、自分の損得に捕らわれず、純粋に他人の気持ちを考えられるその心を私は素晴らしく思うぞ」

 僕にそう言ってくれた木下さんの表情に、僕は驚きを隠せなかった。

 今まで僕が感じた冷酷さや非情さと言ったものがなく、それこそ優しくて暖かい、まるで女神のような表情だった。


 やっぱりこの人、すごい綺麗だ…。


 桜井さんの言葉もあながち間違いではないのかもしれない。

「お前とは上手くやっていけそうだ。さて、コンビニ行こうか」


 コンビニに着いたぞ。

 えーっと、桜井さんが食べたいのは…。

 あった。

 抹茶アイスとあずきバー。

 多いのに越したことはないし、二つ買おうか。

「木下さんは何にしますか?」

 僕の隣でフワフワ浮いている木下さんに聞いた。

「うーん、ガリガリ君も良いが、ピノも捨てがたい…。さてどうしたものか」

「何だったら二つ買いましょうか?」

「いや、幽霊とは言えど、一応女だ。あまり甘いものを食べ過ぎるのは何となく良くない気がする」

 何となくですか。

「うぅ~ん、悩む、悩むぞ藤森!!私はどうすれば良いのだ!!」

 うおっ!!

 木下さんが頭を抱えて叫びだした。

「木下さん落ち着いてください!!とりあえず今何に迷ってるんですか?」

「ガリガリ君かピノかスイカバー」

 あれ?

 増えてる。

「それとガリガリ君」

 それさっき聞いたよ。

「三つか…。じゃあとりあえず二つに絞りましょう」

「うぅ~、じゃあ雪見だいふくとスーパーカップ」

 あれ?

 候補外の二品?

 まぁ、良いや。

「じゃあジャンケンして僕が買ったら雪見だいふく、木下さんが買ったらスーパーカップにしましょう」

 我ながらナイスアイディア。

「わ、わかった」

「よし、それじゃあ行きますよー。最初はグー、ジャンケン……」



「ただいま桜井さん」

「奈緒よ、邪魔するぞ」

「あぁー、みきちゃんですぅー!!」

 桜井さんはパタパタと僕と木下さんの方に駆け寄ってきた。


 あの後、僕はせっかくなんでと、木下さんを僕の部屋へと誘った。

 桜井さんと久々に再会したとは言え、まだ話し足りないこともあるだろうし、きっと桜井さんも会いたいだろうと思って。

 案の定、桜井さんは『会いたかったですぅー!!』と言いながら、木下さんに抱き付いてるし。

 木下さん連れてきて良かったな。


「あ、はいアイス」

 僕はコンビニ袋から抹茶アイスとあずきバーを取り出して桜井さんに渡した。

「二つ買ってきてくれたんですかっ!?きゃー!!やったですっ!!嬉しいですぅー!!」

 そんなに喜んでもらえると僕も嬉しくなるな。

「良かったな、奈緒」

 木下さんも優しく微笑む。

 しかしアレだよな。

 何か木下さんと桜井さんて姉妹みたいだよな。

 何か、良いな。

 こう言うの。

 そう思いつつ、僕は自分のアイスを取り出し、

「それじゃあみんなで食べようか」

 と、二人に向かってそう言った。

「はいっ♪」

「いただくとしようか」


 こうして僕たちはアイスを食べながら楽しい一時を過ごしました。



「しかし美味いな、モナ王は」

 ちなみに木下さんが選んだのはモナ王でした。

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