第12話 クールビューティー登場ですぅ 【いち】
「祐介さん祐介さん」
「何?桜井さん」
「今日は何の本買いに行くんですか?」
そう言いながら僕の隣でフワフワ浮いているストレートロングヘアーのロリっ子幽霊こと桜井奈緒さん。
今日は桜井さんと一緒に駅前にある本屋に行くことになりました。
まぁ、“なりました”と言っても、提案したのは僕だけど。
「特に決めてないよ。何か面白そうなマンガあったら買おうかなって感じ」
ぶっちゃけ暇つぶし程度だよねー。
「あ、そうなんですか?」
「まぁね。それにせっかく桜井さんが現世に残っているのにずっと家にいるのもアレでしょ?だから今日はとりあえず本屋に行こうと思って」
何となく『本屋』って決めちゃったけど。
でも家にいるよりは桜井さんも退屈はしないだろう。
それに桜井さんにいろんなものを見せてあげたいからね。
僕は出来るだけ桜井さんに協力したいと思ってるから。
「祐介さん」
「ん?」
「ありがとうございます」
…いいよ。
さて、本屋に着きましたよ。
「うわぁー、たくさん本がありますねー」
桜井さんは店内を眺めながらそう言った。
「う~ん、とりあえず本屋に着いたけど、ぶっちゃけ何を買うか決めてないからなぁ」
どうしようかな。
「桜井さん、とりあえず店内を見て回ろうか」
「はい♪」
そう言って、僕が歩き出した時、突然僕の中で警戒心が働く。
…どうしたんだ僕。
何に警戒してるんだ?
何を“意識して”警戒してるんだ?
僕はこのなんとも言えない感覚に戸惑い、店内をキョロキョロと見回す。
そして見つけた。
警戒する対象を。
“意識する対象”を。
「よぉ祐介、お前も本屋に来てたのか」
僕の視線の先にいる人物が僕にそう言ってきた。
「あ、あぁ…怜」
その人物の名前は大沢 怜。
夜中に高校に行った友達の一人である。
坊主頭が印象的で、一見ひょろっとしているが、意外と筋肉質な体をしている。
霊感に関しては強い方で、良く見えるらしく、たまに僕や友達に自分の体験した心霊現象についていろいろ話をしてくる。
ちなみに、高校に行こうと提案した張本人。
そして怜の隣で――桜井さん同様に浮いているもの。
それこそ僕の“意識の対象”だった。
「あれぇー!?みきちゃんじゃないですか!!」
突然桜井さんが大声をあげた。
僕はびっくりして咄嗟に桜井さんの方を見た。
…興奮してる。
でもこれではっきりした。
“こいつも幽霊”だということが。
浮いているのを見た時点で確信していたけど。
そして桜井さんが興奮してることで“確信”から“決定”に変わった。
「奈緒か、久しぶりだな」
「久しぶりですねぇ!!あ、祐介さん、こちら木下 美喜子ちゃんです。通称“みきちゃん”ですぅー♪」
桜井さんに紹介された木下美喜子と言う女の幽霊。
ロングヘアーの桜井さんと対称的な短い髪のショートボブで目が隠れるほど長い前髪を右に流している。
右目は前髪によって隠れているが、あらわになっているつり上がった細い左目の鋭さと言ったら、幽霊でなくても警戒に値するほどである。
そして彼女――木下さんの着ている旅館の女将のような着物。
紫の帯を締め、ピンクや水色などといった多彩な花柄の黒い着物を着たその姿は、和風ならではの美しさを放っていた。
実にクールビューティー。
実に和風美人。
まさに完璧なる大人の女性であった。
「お前、私が見えるのか?」
木下さんが僕に話し掛けてきた。
木下さんの鋭い視線が僕に突き刺さる。
うわっ。
マジで緊張する。
この人綺麗だけどすごい怖い。
視線だけで殺されるよ…。
「え?あ、はい…」
僕は恐る恐るそう答えた。
「祐介、さっきから気になってたんだが…」
あ。
怜のことすっかり忘れてた。
「お前みき姉が見えるのか?」
怜は若干驚きを見せながら言った。
「ああ…、見える」
僕は完全に木下さんに圧倒されながらも、小さくそう答えた。
「へぇー、お前も霊感あったんだな」
怜は笑いながら僕の肩を叩く。
「あ、自己紹介が遅れました。俺、大沢怜と言います。よろしくね」
そして怜は僕から視線をずらし、桜井さんに向けて軽く挨拶をした。
「あなたも見えるんですね。あたし桜井奈緒です。よろしくお願いしますっ」
桜井さんもいつも通りの笑顔で元気に挨拶をする。
「奈緒、あまりこいつと親しくすると痛い目に遭うぞ。気を付けろ」
そんな桜井さんに木下さんは一言注意を促す。
「大丈夫ですよみきちゃん、あたしはみきちゃんが憑いてる人を盗ったりしませんからぁ♪」
「いや、そう言うことではなくてだな…」
「みなまで言うなです♪」
うぅ~と唸っている木下さんに対してニコニコと笑って楽しそうにしている桜井さん。
完全に桜井さんペースだな。
て言うか。
桜井さんすごい…。
「お前に憑いてる幽霊すげぇな…。あのドSのみき姉を手玉に取ってる」
怜は苦笑しながら僕の耳元でそう囁いた。
「おい貴様、今なんて言った?」
木下さんは目をギロリと光らせ、怜を睨み付けた。
怖ぇええええ。
あの目もうレーザービームでるんじゃないの?
木下さん袂から何か出そうとしてる…。
絶対刃物だ。
絶対刃物だ!!
「えっ?い、いや、何も言ってないよ?」
怜…。
そんな震えながら汗たくさんかいて…。
君も苦労してるんだな。
「ねぇねぇみきちゃん」
「お、どうした奈緒よ」
桜井さんGJ!!
木下さんも袂から何も取り出さずに着物の袖から腕を引き抜いている。
桜井さんGJ!!
「怜、あとで桜井さんにお礼言っておきなよ」
「ああ…」
怜は大きく深呼吸をして心を落ち着かせた。
「これから一緒に遊びに行きましょー!!」
そう言って桜井さんは高らかに右手を上げたのでした。