第11話 飛びますぅ
「祐介さん祐介さん」
「どうしたの?」
四つん這いになって僕を手招きするストレートロングヘアーのロリっ子幽霊こと桜井奈緒さん。
何か上記みたいな書き方すると卑猥な感じがする…。
「今更ですけどこれ何ですか?」
僕も桜井さんに倣って、隣に四つん這いになる。
「あぁ、コンポね」
桜井さんが指差す先にあるものはコンポだった。
「こんぽ?梱包?」
ん?
「こんぽぉ~かんぽぉ~けんぽぉ~でアチョー!!」
おおっと!!
桜井さんどうした!?
「言葉が似てたんでつい…」
…あ、そう。
「桜井さんラジカセわかる?」
「わかりますよぉー」
「あれの進化形みたいなやつだよ」
と、僕は簡単に説明しながら、とりあえずCDをコンポに挿入する。
「うわっ!!薄っぺらいドーナツが吸い込まれました!!何でですか!?」
桜井さんはそう言いながら、怪訝な表情でCDの挿入口を指でなぞる。
「CDね。って言うか、DVDレコーダーで体験したじゃない」
ちなみにDVDレコーダーの時は、
『うおっ!!この機械、舌(トレイ)出してきましたよ!?え!?舌の上に薄っぺらいドーナツ(DVD)を乗っけるんですか!?食べられmあぁあああ!!!食べられました!!ドーナツ食べられましたよ祐介さん!!どうするんですか!?あわわっ!!た、助けないと!!祐介さんドーナツを助けないとぉおお!!!』
と、こんな感じにはしゃいでました。
て言うか、DVDレコーダーはともかく、ラジカセを知ってるんならそんなに驚かなくても…。
僕はそう思いながら、再生ボタンを押した。
「あ、音楽が鳴りましたね。これ誰の曲ですか?」
「これは“Fresh苺PanCake”(フレッシュいちごパンケーキ)って言う人たちの曲だよ」
「甘ったるい名前ですね。へぇ~、初めて聴きます」
そらそうだよね。
僕も中学時代のサッカー部の先輩から聞いて初めて知ったんだから。
この人たちマイナーだからな。
そう思いながら、僕と桜井さんはしばらくCDを聴いていました。
「祐介さん祐介さん」
「どうしたの?桜井さん」
「祐介さん、空飛びたいと思いませんか?」
ん?
空?
まぁ、思ったことはあるなぁ。
実際、僕は中二の頃本気で“鳥になりたい”と思ってたし。
はっ!!
僕のイタイ過去の一部を晒してしまった!!
…僕ちょっと死にたくなった。
「死んだらあたしと一緒ですねっ♪」
床にちょこんと座った桜井さんがニコッと笑う。
「う、うん…。そうだね…」
嬉しいんだか嬉しくないんだか。
僕が桜井さんの言葉に困惑してると、桜井さんは『よっと』と言ってぴょんと立ち上がる。
「祐介さん、ちょっと立ってもらって良いですか?」
続けて僕にそう言う桜井さん。
「立った!!」
「ひゃっ」
桜井さんは僕の大声に若干ビビった後、僕の両脇に手を掛けた。
「え!?ちょ、ちょっと桜井さん!?何してるの!?」
て言うか近い!!
顔が近い!!
てか桜井さん肌すごい綺麗だな…。
きれーだなぁー。
ヤバい。
照れる。
桜井さんの顔見れない。
ただでさえ可愛いのに。
ただでさえ綺麗なのに。
あー、僕もうダメだ。
興奮する。
「祐介さん、全部聞こえてますよぅ…」
桜井さんは僕の両脇に掛けた手を一旦離し、その手で顔を覆い隠す。
はっ!!!!
ま、またやってしまった!!
しかも今回は“興奮する”とはっきり言ってしまった。
いや、口には出してないんだけど。
いやいや!!
今はそんなことどうでも良い!!
とにかく桜井さんに対して失礼なことを言ってしまった!!
あ、謝らなければ…。
「そ、そんな『肌が綺麗で可愛くて美しい』なんて言われたら恥ずかしいですぅ…」
…あれ?
あ、そっち?
いやいや、桜井さん『きゃー!!』じゃなくて。
そう思われて恥ずかしかったの?
あら…、そう。
て言うか。
今まで僕結構そう思ってきてたよね?
う~ん。
「祐介さん、後ろ向いてくださいっ」
桜井さんは意気揚々と僕にそう言った。
後ろ?
僕は言われるがままに後ろを向いた。
「えいっ」
「うわっ!!ちょっと桜井さん!?何抱き付いてんの!?いやぁ、今日も理性が忙しいなぁあ!!あっはっはぁ!!」
僕はおおげさに笑う。
もうこれ拷問だよ。
だって背中には胸が…。
むぅぬぇがぁあああ!!!
「サービスですよ祐介さん」
僕の耳元で桜井さんが囁く。
そして、
「行っきますよぉお!!!」
その掛け声と共に、僕は桜井さんに抱かれたまま、窓から飛び出した。
「うわぁあああ!!!高ぇええええ!!!怖ぇええええ!!!」
僕は今、空を飛んでいます。
風が気持ち良いです。
僕の隣には僕と並行しながら飛んでいる小鳥さんたちがいます。
とても気持ち良さそうです。
「やべぇえええええ!!!怖ぇえええええ!!!桜井さぁぁあああん!!!手ぇええ離したらダメだからねぇええええええ!!!!」
とても清々しい気持ちです。
中二の頃の僕。
聞いてますか?
君は“鳥になりたい”って言ってたよね?
安心してください。
君は…、鳥になれる。
今の僕のように。
だからめげずに頑張ってください。
君は僕より強いんだから。
ありがとう。
「あっはっはぁー。祐介さんどうですか?気持ち良いですかぁー?」
「きぃいいいいもぉおおおおおちぃいいいいいねぇええええええ!!!!怖ぇええええええええ!!!」
「喜んでもらえて嬉しいですっ♪」
僕はこれを機に高いところが苦手になりました。