【第九話】
神官にバイトの依頼をされたリュージは、一度村に帰り、村長室で改めて詳しい説明を受けた直後に叫んでしまった。
「なんでやねん! なんでやねん、なぁ? なんで俺らがそんな、胸糞案件の英雄勇者を守ったらなあかんのじゃー! 命狙われるのも自業自得やん」
「その根性悪はそれとして、どうであってもやはり英雄は守られるべきや、と、英雄認定会からの依頼」
村長が涼しい顔で言い終わらないうちにリュージが頭を抱えて「なんでやねん」とまた叫んだ。
このリュージの三度目の「なんでやねん!」が強すぎた。
ぴかっと地面が光ったかと思うと、あっさりリサが召喚された。
「リサさまやー!」
と、神官と村長が小躍りする。
「……あれ? あたし、水着でグラビア撮影の打ち合わせしとったはずなんやけど……これ、甲冑やねぇ……」
「みっ、水着!? グラビア!? 大丈夫なんか? 布面積ちっちゃーい、エロじじい喜ばすような際どいヤツやったら俺が断ったる」
「健全や! しかもリュージも一緒やで」
「おっ、俺も!?」
「ええやん、沖縄か国内の温泉街で、二泊くらいしての撮影やって」
リサが水着になることの是非について考え込んでしまったリュージを見て、慌ててリサは話題を切り替える。
「で? なんであたし呼ばれたん?」
一方、村の食堂で無銭飲食暴飲暴食を続けている英雄は、リサとリュージを見た瞬間、ぴゅーと口笛を吹いて手をバンバン叩いた。
「こりゃあ美男美女。素晴らしいやん」
実に品のない英雄である。リサが露骨に顔をしかめるのを、リュージがそっとたしなめる。
「俺様くらいの英雄勇者には、美男美女の従者がおらなサマにならんねんからな。けぇど……残念やなぁ、せっかくのデカい乳なのに、甲冑着とるから揉めへ……ぶへぁっ!」
厭らしい手つきでリサににじり寄った英雄は、リュージの鉄拳を喰らって床に転がった。
「……リュージ!」
「すまんすまん、つい口より先に手が出てもうたわ。リサを困らす奴は誰であっても俺が排除する、リサを笑わすのは俺やって決めとんのや」
リサの脳裏に、矢代が言った「お前の相方がいつもさらっとやっとることや。なんや今日は姿が見えんから、代わりをしただけや。ええ相方持ったな」がふっと蘇った。
(矢代さんは……このことを言ってたんだ……)
リュージの覚悟が垣間見えた気がして、リサの胸が一瞬詰まった。
「あたしかて、リュージ困らす奴は許さへん。さぁて、見たとこ、セクハラパワハラ英雄みたいやけど……どうする?」
「こんなやつ村に置いておいたら大損害や。とっとと、王都へ送ろう」
「王都へ送ろう」
二人の語尾が被った。思わず顔を見合わせて笑う。
「そういや被ることなんて、久しくなかったな」
「昔はあたしらよく被って、二人で突っ込んで二人でボケて二人で笑うから……どっちがボケでどっちがツッコミかわからん、言われたな」
「懐かしいな」
二人がけらけらと笑う。すると、勝手に疎外感を覚えたらしい英雄が、イライラと喚き散らした。
「あーあーあーあー! 国民的英雄を仲間外れにするとか、ありえへーん! 罰としてぇ。女騎士さんはぁ……俺にキッスしてもらおっかなぁ?」
リサに無遠慮に伸ばされた手を、がしっ! と掴んだのはリュージだった。そのままぎりぎりと捻りあげる。
「セクハラはお断りや。そんなキスして欲しいんなら、俺がなんぼでもしたるで」
剣士がぎょっとしたようにリュージとリサを交互に見る。
「ええか、キス芸っていってな、由緒正しい芸事なんやで――」
それを聞いて慌てたのはリサだ。
「うわわ、リュージ、こんなヤツにタダで芸を見せんでもええねん!」
リュージの手から剣士をぐいっと引き剥した――はずだが、勢いが良すぎて、剣士は軽々と数メートル吹っ飛んでしまった。
「え? あれぇ?」
「あ、前回のゴブリン戦のバフがまだ残ってるんちゃうか?」
それなら、とリサは軽く助走をつけて剣士に肉迫した。ひぃぃ、と英雄は真っ青になる。
「失礼ね、大人しくしてれば何もしないわよ。ほら、さっさと出発しましょ」
首根っこをひょいと掴んで立たせて、背中をばしっと叩く。
「王都目指して出発!」
最初は威勢が良かったリサではあるが、村を出てすぐに、毛を逆立てて激怒することになった。
「ちょっとぉ! なんやの、あんたら! なんであたしらが荷物持ちせなあかんの!」
「え? 荷物持つのは使用人の仕事、つまりアンタらの仕事やろ?」
女性剣士に言われ、リサの目が点になる。
「ちゃうで。あたしら使用人じゃないねん。ただの道案内、護衛やねん」
自分の荷物は自分で持ってな、とニコニコしながらそれぞれに荷物を手渡す。
不満そうにそれを受け取る英雄一行は、重たいだの邪魔だの、使えない使用人だと文句ばかり言う。
「この調子で、いろんな人を怒らせたんやろな」
と、苦笑いするリュージに、リサも同意する。
「英雄の命を狙ってる人ってきっと、後ろをついてきてる怪しい団体……だよね?」
ちらりと振り返ったリュージが、思わず笑った。
「わっかりやすい刺客やな」
「でもきっちり守らないと報酬減っちゃうから、がんばろ!」
おー、とリュージが拳を突き上げた。




