【第八話】
一方、異世界に残ったリュージは、村の中にある治療院と、併設されている孤児院へ向かった。
治療院には、医師がいない。看護師が一人いるだけなので、簡単な病気や怪我ならともかく、そうでないときには治療らしい治療ができない。
「あっ、魔法使いさん! ちょうどいいとこに! おばあちゃん、お腹が痛いって五日前から言うてはるんです」
看護師が、ちょっと困った顔で駆け寄ってきた。
「腹痛……ですか。五日、ちょっと長いな」
「胃痛に効く薬草煎じて飲んでもろたけど、あまり効いてないみたいで……毎日熱発でそろそろ体力も心配だし、治癒魔法、いけますか?」
「緩めがいいかな? 治癒魔法かけときますね。あー……三日くらいかけて、じわじわ治る方がいいんやったっけ」
そうです、と看護師が頷く。急な治癒は体にかえって負担をかけてしまうらしい。看護師の指導にしたがい、ゆっくり治癒魔法をかけていく。
「はい、終わり」
「おおきに」
老婆から、ちゃりん、とコインが手渡される。
それを懐にしまい、併設されている孤児院へ行く。
古びた扉を押し開け、素早く室内を見回す。
(しーんとしとるな……こらあかんわ)
火が消えている暖炉やランタンに向けて、炎属性魔法を放つ。
ぱっと室内が明るくなり、数人いる子どもたちの目が輝く。
「この炎は魔法の炎や、十日くらいは燃え続けるで」
そして、ぱちぱちと弾ける火の粉に擬人化魔法をかけて、喋ったり動いたりできるようにする。
「子どもらを笑わしたってや」
あいよ! と、炎の人形はコミカルに動き回る。表情が乏しい子どもたちが、あっという間に笑顔になる。
(笑いは大事や……生きる活力になるからな)
かつての俺がそうやったからな、とリュージは一つうなずく。
そして、孤児院に設置されている「募金箱」へ金貨を数枚放り込む。ちゃりんちゃりん、と良い音がする。これでこの子たちの食事は当分困らないはずだ。
「魔法使いさん、また来てな?」
「おう」
子どもたちに手を振り、今度は村役場にある『窓口』へと足を向けた。
「あっ、魔法使いさんや! いらっしゃいませ!」
顔なじみの受付嬢がにこりと笑顔を向けてくれる。
「仕事、何かある?」
「ございますよぉ~。冒険者ギルドから、A級冒険者のサポート依頼が一つ。それから、うちの村長からも一つ」
仕事内容が書かれた黒板を渡され、それを確認する。
「何でもやったるで。どれも報酬はそこそこやけど、稼がんとな」
「魔法使いさん、なんでそんなに稼ぐんですかぁ?」
「金はいくらあっても困らんからな。とはいえ、なんでこんなに貯蓄に励むのか、自分でもわからん」
ぽりぽり、とリュージは頬を掻いた。
そうこうしているうちに、リュージの横に、数人の冒険者がワープしてきた。
「魔法使いさん、よろしゅうに」
代表して男性剣士が握手を求めてくる。が、その剣士は、握手するなりぎろりとリュージを睨んだ。
「おめぇ……金と女目当ての流れ者の魔法使いやろ? 俺らの冒険の邪魔したら承知しねぇからな……それと、アイツ……女剣士は俺の女や。手ぇだしたら殺すぞ」
リュージの目が点になった。こっち――異世界の女性をどうこうしようと思ったことなど一度もない。
「はぁ……俺は金が稼げればなんでもええねん。はよ行こうや。目的地はどこや?」
剣士を軽く突き放して、リュージは明るく言う。
思えばリサはいつも「いいじゃん、いっぱい稼ごうね!」と言ってくれる。
(そういやリサにも、俺の少年時代の極貧生活は断片的にしか話してないな……)
「えーっと、すぐそばにある、洞窟でモンスター大量ハントしまーす!」
無邪気に、女性剣士が飛びはねながら宣言した。
「金のためとはいえ……こりゃキツイな……」
味方のパーティーメンバーに治癒魔法をかけながら、リュージはため息をついていた。
「もっと早めに治癒魔法かけてぇな!」
女性剣士が怒りながら喚くが、目の前に出現した大型モンスターに勝手に突撃して勝手に反撃されて勝手に負傷したのだ。
「はいはい」
「適当な返事してんじゃねぇぞ、コラぁ! 役立たず魔法使い」
男性剣士はいいところを見せようと、キャンキャンうるさい。
「……なに怒ってんだか……。彼女にいいとこ見せたいなら、しっかりついていけっちゅーねん!」
男性剣士の頭にピコピコハンマーをお見舞いし、すべての行動が三倍速で動く魔法をかける。パーティーメンバーが笑うやら慌てるやら。
(やれやれ……リサの動きなら舞台でも、ここでも、読めるんやけどなぁ……)
適当に返事をしながら、彼女らが拾い損ねたアイテムをせっせと回収する。その中には、きらきらと輝くレアアイテムがあった。
これだけでも、良い収入になる。
「……これを円に換金して、リサと一緒にピザでも食おうかな……」
高校で即席コンビを組んだ時から、二人で何か食べる時はピザが多いのだ。
アイテムをポケットにしまい、周囲を見渡したリュージは、舞台向けの声で叫んだ。
「おーい、目の前までモンスターが来てんで。倒さんでええんかー?」
一拍の空白の後、ぎゃああ、と冒険者にあるまじき悲鳴が轟いた。
「前衛なら、モンスターの居場所くらい常に見とけや……」
バリアを張ってやり、加速魔法をかけ――ようとするが、対象の前衛が思わぬ動きをするために魔法が空振りしてしまう。
「これが舞台やったら、ぐだぐだや。誰も笑われへん」
派手に弾き飛ばされた剣士を見ながらリュージは苦笑した。
「そろそろ……帰るか」
なんだかリサに会いたくなってきた。新しいネタを見せたいし、次の舞台の練習もしたい。
そんなことを思っていたら――。
「魔法使いさまぁ! 悪いんやけど、ちょっと帰るの待ってくれへんか?」
顔馴染みの神官が走ってきた。
「な、なんや?」
「今すぐリサさま、呼んでもらわな困るんですわ」
へ? とリュージは目を丸くした。神官は厳かに告げた。「命を狙われている面倒な……ごほん、英雄を王都まで送ってもらわんと、色々まずいことになりましてな」




