【第六話】
「ゴブリン討伐の報告があんなウケるとは想定外やったな」
村の外れの畑の脇に置かれた丸太に、リサとリュージは並んで腰掛けていた。
「しかも……お城の親睦会?」
「うん……そこで、俺ら、余興するらしいで」
お城で、というからには、王都まで行かねばならない。リュージが、使者に渡された招待券と王国地図を広げる。
「……王都はここか。ここまで、俺らは歩きで行くんかな……」
「歩きたくないけど、あたしら、馬を用意されても困るやんか」
「せやな」
とはいえ、歩きで何日かかるのか、さっぱりわからない。自分たちが一日どころか、一時間で何キロ歩けるのかすらわからないのだ。
「リュージ、この村は、この国のどこらへんに位置してるん?」
「え、気にしたこともないで、そないなこと……。ただのバイト先でしかないねん」
「そ、そか……」
村は、驚くほど静かだった。
ゴブリン騒ぎが嘘のように、のんびりしている。村の子供たちが母と手を繋いで歩いている。
リサは、ふと空を見上げる。オレンジ色に染まった雲が、ゆっくり流れていく。
「……平和やなぁ」
「平和やね」
村人たちは、すっかり二人を受け入れてくれたらしい。
道を歩けば「女騎士さま」「魔法使いさん」と、当たり前のように声をかけられる。
とくに「魔法使いさん」は人気で、パンや果物を渡されることもある。それを笑顔で受け取って手をふってわかれる。
(……慣れてるんよね、魔法使いでいることに……)
これまでリュージは、いったいこの村で、どんなバイトをしてきたのだろうか。
リサは、横に座るリュージをちらりと見た。
村の子どもに声をかけられ自然に笑い返す相方の横顔。どてっ、と転んだ男の子の膝に向けて治癒魔法をかけてやる。
そう、この世界に、しっかりなじんでいる。
(こんな自然な笑顔、舞台じゃ久しく見てない気がするな……)
やはりリュージはこちらの世界が好きなのだろう
「なぁ、リサ」
「ん?」
リュージは空を見たまま言った。
「一回、日本戻らへん?」
「……え?」
「あっちの時間は止まったままやけど、俺ら漫才の途中でこっちに来てしもたから、不完全燃焼や。一本舞台立ってから、また戻ってくるんや」
軽い提案のつもりだったのだろう。声も、いつも通りだ。
「……なんで? なんでわざわざ今戻るの? 新しいバイトに繋がりそうなハナシも来たやん?」
リサが聞くと、リュージは少しだけ言葉を選んだ。
「もちろん金は欲しいけど、それ以上に、リサが危ない目に遭うんは嫌や」
その言葉に、リサの胸がちくりとした。
(……あたしのため、なんやろな)
わかっている。リュージはいつだってそうだ。
だからこそ。
「……じゃあさ」
リサは、わざと明るく言った。
「あたし、一人で帰るわ」
「……は?」
「現代日本。ちょっと舞台立って、戻ってくるわ」
「ちょ、待てや」
リュージが顔を向ける。
「なんで一人やねん」
「リュージは、こっち残ったらええやん」
リサは、笑った。
「村の人、あんたのこと気に入ってるし。それにさ……ここでバイトしたがってるの、わかるし」
リュージは一瞬、黙った。
図星だった。
この世界では、自分は必要とされる。魔法使いとして、交渉役として、補助役として。
「それに」
リサは、視線を逸らした。
「……あんたが、ここに馴染んでるの見るの、ちょっと寂しいし」
ぽろり、と本音が落ちた。
「リサ」
「なに?」
リュージは、本音を言いかけてやめた。
(俺は、リサが活躍するならどこでもええ)
それを今ここで言えば、また話がこじれる気がした。
「……一人で大丈夫か」
「大丈夫やって。元の世界やし」
そう言いながら、リサは立ち上がった。
「すぐ戻るから」
「……ほんまに?」
「うん」
「トリガーは『なんでやねん!』やぞ。あっちに戻ったらな、すぐにスマホで日時確認するんやで」
「はーい」
転移の準備をするリサの背中を、リュージは黙って見送る。
(……やっぱり、すれ違ってるな)
さっきのゴブリン戦のときは、息はピッタリだと思ったのに。いつからすれ違ってしまったのだろう。
「リサ……困ったら、いつでも俺を呼んでぇな」
「当たり前じゃん!」
じゃあね、と、リサはくるりと振り返ってリュージに手を振った。




