【第四話】
「ええかー! これから行くでー」
「……どこへ?」
「ゴブリンの森」
ゴブリン……とはきっと、小鬼のようなあのファンタジーでお馴染みのモンスターのことだろうが、なんだかげっそりしたリサとは対照的に、リュージはるんるんと今にもスキップしそうな勢いだ。
「……リュージ、えらい楽しそうやな」
「ふふん、そらもう……がっぽり、やからな」
地面に転がり出たあと、スッと立ったリュージは、駆け寄ってきた老人を捕まえるなり、「ギャラ……ちゃうな、報酬はどんくらいや?」といきなり値段交渉を始めた。
「かの有名な女騎士リサ様をやな、こんなやっすい報酬でこき使うとかないわーありえへん」
「……ほんならな、リュージさまがご自分の取り分から、いくらかわけたったらよろしいやんか」
「ケチやなー」
「どっちが?」
リサはツッコミを入れたくて仕方がなかった。なぜ異世界の住人が、揃いも揃ってコテコテの関西弁なのか。
そのせいで、リュージと神官の本来なら深刻なはずの報酬交渉が、コントに聞こえてしまう。
(まぁ、それにしても……ローブに杖に……見た目だけはいいのよね……)
そう、ビジュアルだけはいいのだ。
ルックスだけ芸人と言われるだけあって、イケメン芸人ランキングや男前ランキングとなると、とたんに常連になる。
「……もっとリュージがボケやすいネタを考えても良いと思うんだけどねぇ……」
目の前にぽこん、と現れたスライムを無造作に斬る。ぱっかり割れたそれは、あろうことかそれぞれがスライムとなって再生した。
「げっ、増えた……」
すぱんすぱん、とそれらも斬る。
「……うそやん……」
ぽこんぽこん、とスライムは増える。斬っても斬っても増える。それでも斬らざるを得ない。
「……ええ加減にせんかい!」
イライラが募り思わず叫んだ瞬間、剣が光った。その光が、窒息しそうなほどに増殖していたスライムを一掃した。
「はぁ……テンプレ展開すぎん?」
しかし拍手も、リュージの賞賛も聞こえない。そちらを見れば、神官と額を突き合わせて何か話し込んでいる。
握りしめていた剣を鞘に納め、リサは神官と相方の元へ走った。
「リュージ、どう?」
「まとまらへん」
「どゆこと?」
二人の会話を聞いてはみたが、リュージはボケ、神官もどうやらボケ。ボケとボケが話すので、もどかしくてたまらない。
ついにリサは、両者をベシッ! と、叩いた。
「あんまボケるな! 話をちゃんと進めて!」
そしてリュージの交渉の結果、今日は「ゴブリン狩り」と決まった。
増えすぎたゴブリンが群れとなって村を襲い、農作物や家畜が根こそぎ奪われてしまうらしい。
そこで、ゴブリンたちを根こそぎ駆除し、出来ればボスゴブリンを倒してほしいとのことである。
「俺一人やったら、絶対うけへんバイトや」
「なんで?」
「俺は見てのとおり魔法使い、ソロで戦うには火力不足。リサの剣が頼りやな」
ふーん、とリサは剣を掲げる。こちらに来た時、なぜ自分が剣を持たされたのか不思議だったが、リュージと一緒にいるとその理由がわかる。
「敵を倒すのはあたしに任せとき!」
「サポートは俺の役割や」
そのまま渡された地図を頼りに歩くこと十五分。平地にいきなり、こんもりした森が出現した。その森のすぐそばには村があり、そこから人が逃げ出している。
「リサ、あの茶色い物体がゴブリンや!」
え、とリサの目が点になった。ぎこちなく、リュージを見る。
「あり得ないくらいの人数がいるけど……あり得ないくらいの力持ちみたいよ? ほら、小さいゴブリンが牛を担いで走ってる」
「……帰ろか……」
リサも同意しかけた瞬間、その牛が飛んできた。確認するまでもないが、ゴブリンが投げたのである。
「ひゃああ!」
「リサ、危ない……鉄壁のガード!」
リュージの持つ杖が光り、リサを守る防御シールドが展開された。それが完成するとほぼ同時に牛がリサにぶつかり、地面に落ちた。
まさに危機一髪。
「おおお……リュージ、ありがと。あんたカッコいいなぁ……」
「美女芸人常連のリサは顔も体も全部が武器や……傷一つつけることは許されへんのや」
「それはリュージもおんなじや。自分にもバリア張っときぃ」
言いながらリサは、剣を構えて走り出した。
もう行くんか!? と、リュージの慌てた声がする。
「あたしは正義の女騎士リサさまやぞー! どりゃーっ!」
ゴブリンがすぱっ! すぱっ! と斬られていく。
「えええ!? 何で増えんねん!」
「リサ、仲間が斬られて怒ってるみたいや。続々と……」
「さっさと村から退散しろーっ!」
リサが剣を大きく振り回した。ばたばた、とゴブリンが倒れる。しかし仲間の死骸を乗り越えて、ゴブリンは押し寄せてくる。
「何で逃げへんのかな? あたしに立ち向かう勇気はどっから来るんかな?」
「俺に聞くなっ! 前、前見てーっ!」
「任せろっ!」
一振りごとに、リサがあれこれ叫ぶ。いちいち必殺技のような叫びではあるが、
「リサ、繰り出す技は、全部同じやんか……」
「剣握ったのはじめてやもん、仕方ないやんか」
リサの剣が水平に煌めき、ゴブリンが宙を舞う。
その傍らでリュージは、ゴブリンがドロップするアイテムをせっせと回収する。これはあとで換金できる貴重な収入源なのだ。
(舞台でもここでも、同じや……リサが前に出るなら俺はしっかり支えるからな……)
「そこ! あたしの話を聞けぇ!」
「……話を聞け、て、言い終わった時には殺してもうてるやん……」
「二度と村を襲うなボケェェェ!」
「おーおー……声張っちゃって……ツッコミは今日も絶好調……」
相手が俺ではなくゴブリンなのがおもろない、と独り言ちるのも忘れない。
「リサ、張り切りすぎ。ほい、疲労回復魔法」
「すごーい! ありがとー!」
ふとリュージは、リサが「なんでやねん!」と叫ぶたびに近くにいるゴブリンがびくっと反応することに気が付いた。
「よっしょ、リサ、そこまで声張らんでもええでー。ほい、キャパ1000人想定や」
直後、リサの「なんでやねん、そんな臨場感いらんわ!」という声が森中に響き渡った。
ゴブリンが一斉に動きを止めたのみならず、村人も、空を飛ぶ鳥も、足元のアリも動きを止める。
「リサ、今や! ツッコミ……いや、必殺技を叩きこむタイミングは今や! 補助魔法連続でかけるで!」
「うわ!? 加速とパワーと……なんやこれ!?」
「どうとでも動けるで。どや、どーんと受けること間違いなしや!」
「そんなわけあるか! 滑り倒すに決まってるわ! こんなん……必殺、回転斬りぃ!」
リュージは腹を抱えて大笑いした。ゲームの主人公が使うような見事な「必殺技」をリサが繰り出したのだ。
「よしっ、雑魚の駆逐完了……リュージ笑いすぎ!」
涙を流して笑うリュージを、リサはちょっと得意げに見た。
(やっぱ、リュージを思いっきり笑わせられるんは、あたしだけやな!)




