【第十二話】
ぼろんぼろんのリサとリュージ、それに対してぴかぴかの英雄勇者御一行様が合流するのは早かった。
リサが作った即席スープの匂いにつられて、一行が来たのだ。
「ほほ~う、ほうほう。英雄勇者であるこの俺様のために食事まで用意するとは出来た使用人や」
勇者が、がばっとリサに抱き着いた。
「ぎゃーっ!」
「ほらほら、勇者さまたる俺に給仕しろよ。使用人」
「いやーっ!」
嫌悪の表情でキッパリ拒絶しながらリサがもがく。だが、勇者はさらにぎゅうぎゅうとリサを抱きしめ、挙句キスをしようと迫る。
「ひぃぃ、やめてー!」
「こらぁ、なにしとんじゃ、ワレ!」
リサの危機を察したリュージの雷魔法が英雄を直撃し、英雄が痺れたところでリュージがリサを救出した。
「リュージ、ありがとう。えーん、キモかった……」
「嫌や、ゆーとるやろが! まったく……セクハラパワハラ野郎は許さへんで」
舌打ちしながらも、腹ペコであるらしい御一行様が厚かましくもスープ鍋を勝手にかき混ぜ始めたところで、リュージがいきなり、後ろを向いて叫んだ。
「背後から不意打ちは、なんぼなんでもあかんやろ」
英雄めがけて木陰から放たれた弓矢や槍を、リュージの防御魔法が弾く。さすがにぎょっとした表情の英雄が剣を構える。
ずっとつけてきていた怪しい団体から、武器を手にした人々が飛び出してくる。
「てやーっ! 死ねや、勇者!」
「ちっ、逆恨みもたいがいにせぇ……」
「勇者、村を焼かれた恨みや!」
「ウチは金の恨みや! 護衛の賃金と、お前庇って負傷した村人の治療費、はよ払え!」
「めんどくせぇ……」
英雄らしい派手な剣さばきで、それなりに英雄は襲撃者を倒して行く。が、襲撃する方は人数が多い。
勇者の仲間も加勢して迎え撃つが、恨みつらみの気持ちが大きいぶん、勢いは襲撃者の方が上だ。
「ああっ……」
「うっ」
「げぇぇ……」
ばたばたと倒れていく英雄御一行。ついに見かねたか、リサが動きだした。
「ええい、こっからはあたしに任せて。リュージ!」
「ほい」
シュンシュン、とバフがかかり、リサは剣を構えた。
「リュージ、あたしの剣に風の魔法かけられる?」
「うん」
「よし……いくよ。竜巻剣! いっけぇぇぇ!」
見事な大声と共にリサが駆け抜け、そのあとに竜巻が起こった。怪しげなる集団は、全員その竜巻に巻き込まれてどこかへと運ばれていく。方向的に、元の村だろう。
「リュージ、始末完了!」
「バフかけんでも、千人キャパ用の声が出るようになったんやな。大したもんや」
「え、褒めるとこそこ!?」
ええやんなんでも、と、二人してけらけら笑う。そんな二人の周りでは、英雄とその取り巻きがへたり込んでいる。
「あらら……ちょっと休憩が必要みたいやね」
「せやな……ってリサ、あれなんやろ?」
「ん? どれ?」
「あの箱……宝箱? 一人で動いてる、ような?」
リサは慌てた。この、いかにも異世界な世界で、『動く宝箱』が良いものである可能性がどのくらいあるだろうか。
むしろ――モンスターの可能性の方が高い。
そっと剣を抜いて、怪しげな宝箱に近づく。かたかた、と上下に揺れる。
ちらりと横目で見た英雄勇者御一行様は、リサお手製のスープを食べて悶絶している。
具材の、赤い果実を摘まんで泣いている。あれはリサがトマトだと思って入れたものだが、どうやら激辛植物だったらしい。
(リュージが食べなくて良かった……)
激辛スープと間抜けな勇者たちは放置して、リサはいよいよ動きが大きくなった箱に近づく。
「リサぁ、これ、何やと思う? びっくり箱的なやつかな?」
「なっ、何を暢気なことを……」
案の定、ジーっと無防備に『一人で動く宝箱』を見つめるリュージの顔面目掛けて、宝箱が吹っ飛んできた。
リサは「リュージ、危ない!」と叫びつつ飛び上がり、剣の腹で宝箱を受け止める。
それと同時にリュージの渾身の「なんでやねん!」が響いた。
――結果。
「あーっ!」
足元がぐにゃぐにゃになり、周囲の景色があっという間に歪む。
覚えのある感覚だ。慌ててリュージと手を繋いで、二人揃って投げ出された場所は。
「ここ、どこ!?」
てっきり、現代日本に戻ったのだと思ったが、リサは騎士の格好のままだし、リュージは魔法使いだ。
しかも、赤い絨毯が敷いてあり、見上げた天井にはシャンデリア。
「お城かな?」
リュージが首を傾げる。
「あっ、リュージ、あいつらは? 一緒に飛んできたかな?」
「勇者か! 忘れてきたかもしれへんな」
「放置して万が一のことがあったら……バイト代無くなる?」
「たぶん……」
二人揃って足早に部屋からでて城を探索してみる。出口は一体どこだろうか。
ふいに、外から歓声が聞こえてきた。思わず、リサとリュージは手近な窓際に走り寄る。
「……華々しく凱旋なさって……」
ヤな奴、と、リサは頬を膨らませ、リュージは半目になって、
「ふーん、いつもこうやって、大変なとこは人に押し付けて、美味しいとこだけ持って行くんか。とんでもない英雄サマやったな」
と、こき下ろす。
しかし、これで任務は完了だ。リュージが持っていたバイトの依頼票にも、完了の文字が浮かんだ。そして村に帰るためのワープポータルも出現した。
赤色に光る輪っかに入るだけで、元の村に戻れるらしい。流石異世界である。
「はよ村に戻って、バイト代受け取って、現代帰ろ」
「せやな。俺、なんや長らく舞台に立ってない気ぃするわ」
晴れ晴れとした気持ちでワープポータルに入り、村役場に戻った二人だが――。
「……おお! 騎士さまと魔法使いさま!」
「絶妙のタイミングやで」
「国王陛下がお会いになりたいそうで、これから城へお連れしようと相談してたんや」
見覚えのある制服と腕章をつけた男たちと村長が、にこにこ顔で二人を取り囲んでいる。
「え。あたしら、まだ帰られへんの……?」
「リサ、レアアイテムたっぷりだったから、これ換金したら大儲け……どうした?」
「次の依頼やって……」
「受けたらええやん。大儲けや」
いやや、なんでやねーん! とリサが叫んだ次の瞬間——。
ごろり。どさり。
「いたたたた……」
「うお、戻ってきた!?」
今回は、劇場の楽屋ではなく、なんとリュージの部屋。二人で慌ててスマホを見る。
「二人揃ってオフの日のお昼やな……だから俺の部屋に入り口が移動したんか……」
「あ、この日ならあたし、このあと急に矢代さんに呼ばれるはず」
「俺も一緒でええんかな?」
「うん、仕事のハナシやからね、一緒じゃないと」
せやな、とリュージが頷き、ポケットから札束を取り出す。
「とりあえず、さっきのバイト代。リサのぶんはこっち」
「ありがとう……って、これくらい、芸人として稼げたらええのになぁ……」
「とりあえず、ピザでも買いに行かへん?」
行く! と、リサが喜ぶ。二人並んでピザ屋へ向かうが――。
「ふあ……眠いなぁ……」
「リサ、しっかり……」
どっと押し寄せるとてつもない疲労、二人はふらふら体が揺れる。
どん、とぶつかりリュージが慌ててリサを支え、ふらふらと車道へはみ出しかけるリュージをリサが引き寄せる。
「あたしら……ふらふらして、昼間っから酔っ払いみたいやな」
「しゃーない。あっちでの冒険は、思いのほか、体に応えるってことやな」
ほどほどにせなあかんのかな、とリサが呟き、リュージが笑う。
「リサ、あっちの世界気に入ったか?」
「ん、まぁね。でもそれ、リュージと一緒だから楽しいんだと思う」
また行こうな、と、リュージがにっと笑い、リサがうんうん、と頷いた。




