【第十一話】
洞窟を抜けた先には、鬱蒼とした森がいきなり出現した。
「うわぁ、いかにも異世界やな」
リサが苦笑まじりに呟く。
一方、英雄一行は森の雰囲気に圧倒され足がすくんだらしい。
「使用人、確か……護衛やっちゅーことやったな。前、歩きぃや」
リサとリュージを先に行かせて、自分たちは団子になってこわごわ歩いている。
しかし、道がきちんと整備され街灯もあり、王都はこちら、と木の看板が出ている親切設計だ。リサも、リュージも、まったく抵抗を覚えることなく歩く。
「この森は……王族が狩りの練習に使う森やから、実は王家に管理されとるんや」
リュージがそっと教えてくれる。
「じゃあモンスターは? あんま出ない?」
「全体に少ないな。まったく出ぇへんこともあるし。中級冒険者の支援で来ることが多いんやけど、この戦い無理や、とか、全滅や、とか思たことないねん」
「あたし、初心者やけど、大丈夫かな?」
思わずリュージの足が止まった。
「リサ、お前初心者?」
「うん、だってステータス画面の、レベル38の横に初心者マークついてんで」
「まてまて……上限がレベル99、そのレベル38は初心者とは言わへん。中級や」
こっちに来て日が浅いのに恐ろしいレベルの上がり方であるが、あれだけボスをぽんぽん倒せば、そうなるのも当然である。
「……異世界に馴染むのはやいなぁ……」
「何言うてんの、あたしよりよっぽど馴染んでる人が」
ケラケラとリサは笑う。それにつられてリュージも笑う。
「……おい、使用人! 歩き疲れた! 日も落ちてきたし、ここらで夜営だ」
ふいに後ろから、横柄な声が飛んできた。振り返って確認するまでもない、英雄だ。
だが、リサが珍しく困惑の表情でリュージのローブの袖をくいくいっと引いた。
「……リュージ、夜営の用意なんてしてきた?」
「してへん」
「あたしも……」
「困ったな」
だが、英雄一行は荷物から、テントや食材、鍋などを次々と取り出す。
「おーい、使用人! 焚火に使う薪、集めてこーい」
「薪?」
「夜通し火を焚き続けるから、結構な量が必要やでぇ」
「それって、木の枝でいいの?」
「おう、火付けの道具はあるし、なんなら魔法で着火すればええからな、燃えるもんなら何でもかまへんで」
頷いたリサが、すらりと剣を構える。すると女剣士が慌てて、
「ちょっと、まさかその剣で木を切るって言うんじゃないでしょうね? 騎士に、伐採スキルなんてないでしょ!?」
しかし、回転斬り! と、大声で叫んだリサが、剣を水平にぶんぶん振り回した。
すると、マンガのように薪がばらばらと落ちてくる。あっという間に巨木が一本、薪と化してしまった。
それをリュージと女剣士が慌てて集める。
「わー……流石異世界……いや、どうかな? 足りそう? 足りないようなら、大技もう一発……」
いえもうこれで結構です、と、化け物を見る目つきになった女剣士が言う。
「よーし、やっと役に立ったな、使用人ども」
「なんやて!? アンタ、お礼くらい言ったらどうなの!」
リサの怒号が響き渡った瞬間——ぐあああ! と聞き覚えのある声がした。
リュージとリサ、そして英雄の三人が、とっさに空を見る。
「ドラゴンやぁ!」
と、英雄が叫ぶ。
「あいつ……あたしが最初に倒したドラゴンかな?」
「せやな」
真っ赤なドラゴンが、ゆったりと地上へ降りてきた。金色の目をぴたりとリサに向ける。そして、口を大きく開いた。
リサはとっさに盾を構え、リュージは全員に防御魔法と、リサに体力とパワー増強の魔法をかける。
「あたし……あたしたちが相手よ、来なさいっ!」
にやっ、とリュージが笑った。
「好きなように動いたらええで、リサ」
「サポートは頼んだわよ、リュージ!」
「任せとき!」
逃げ回る英雄は無視し、リサは剣を抜いて右へ左へと動き回る。気合と共に前足を斬りつけては左に飛び、ドラゴンの怒りの咆哮を盾で防ぐ。
「おっ、リサ、ドラゴンが空飛ぶで」
「あたしも飛びたい」
「せやろ、俺のホウキに乗ったらええで」
リュージが、魔法陣で召喚した箒にまたがり、ふわりと飛び上がる。片手をあげたリサを掬い上げて後ろにのせる。
ドラゴンが二人を叩き落とそうと追いかけてくる。長い尻尾や炎を、リュージは巧みにかわす。だが、リサの体力もリュージのMPも無限ではない。
リサの剣が、何度もドラゴンの鱗にはじき返される。
「アカン! あたし一人の攻撃力じゃ、退治までは無理や」
「俺の魔法も、そろそろ限界……」
ふと地上を見れば、勇者御一行様は一か所に固まって震えている。英雄たちは全然戦おうとしない。鎧は泥一つ付いておらず、武器すら手にしていないことに、リサの怒りが頂点に達した。
(あ、これは渾身のツッコミ……いや、必殺技が出るな……!)
リュージは咄嗟に、己のありったけのMPを使って、特殊な魔法を使う選択をした。リサが振り回す剣に、己の魔法をのせる。騎士と魔法使いが揃って初めて使える、魔法剣という特殊技だ。
リサのツッコミに合わせて魔法を発動、リサの剣が青白い光を放つ。一拍の呼吸の後、ドラゴンの腹部に光の玉が直撃した。
「やったか?」
「退治はできなかったけど……追い払えた、と、思う……」
「ほな、地上戻るで……」
「うん」
「地上へ戻るのは……一瞬や」
「へ?」
魔法がもうもたへん! とリュージが叫び――二人はそのまま、森へと落下した。
「ぶはぁ……リュージ、落ちた先が湖でよかった……え?! リュージ!? まさか泳げへんの!?」
あっぷあっぷするリュージをなんとか抱えたリサは、這う這うの体で湖から這い上がった。
そのまま、湖畔で服を乾かし休息をとることにした二人だが――。
「お腹空いたねぇ……」
「どうやって寝る? というかここどこや……」
とんでもない道中になった、と、思わず二人で嘆く。しかも、ちょこちょこ小さなモンスターが出てくるので、それを倒す必要すらある。
ただ、リュージのわずかに回復した魔法で真夜中になる前に火が熾せたのと、近くにあった木や石で最低限の簡易小屋が建てられたのは幸いだった。
「クラフトゲームを二人してやりこんでいたのが、こんなところで役に立つとはね」
「ホンマになぁ……。日が昇るころには俺のMPも全回復するから、空から森を見てみようと思う」
「ぽんこつ英雄たちの居場所と、王都の方角がわかればそれでいいもんね」
「せやな」
ぱちぱちと火の爆ぜる音を聞きながら、いつのまにか二人は眠り込んでしまった。




