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【第十話】

「なんや……洞窟の入り口が三つ?」

 突如目の前に現れた大きな洞窟、その前で一同は困惑していた。

 入り口にある立て看板によると、王都に繋がる道は一つ、あとは行き止まりになっているらしい。

 しかも、ぱっと見ただけではどこが当たりでどこがハズレかはわからない仕組みであるらしい。

「めんどくせぇな……おーい、使用人、当たりを探れ」

 英雄は、そう叫ぶなり近くの倒木に腰を下ろし、煙草をふかし始めた。

「使用人、はよせぇ」

 誰が使用人や! お前が行けばええやん! とリサが怒号を放てば、近くにいて様子を窺っていた小さなモンスターたちが飛び上がって逃げていく。

「うるせぇ女やな。この英雄サマを怒鳴りつけるとか有り得へーん。せや! 女、お前、一人で行けや!」

「自分で自分にサマ付けるなアホ!」

 なんやと!? といきり立つ英雄と、わざと煽りまくるリサの相性は、お世辞にも良いとは言えない。

 リュージは、ぽんぽん、とリサの肩を軽く叩いた。ヒートアップしすぎたリサに、落ち着け、という時の合図だ。

「リュージ……」

「この調子なら、久しぶりの舞台に立っても声が出ぇへん、なんてことはなさそうやな」

「当たり前や!」

 芸人は声が命やからな、と二人の声が重なり、けらけらと笑う。

「それに俺らは見た目も大事。怪我したらあかん」

 だから俺が行く、と、リュージが魔法の帽子を被りなおしながら洞窟の前に立った。

「待って、リュージ! だから、の意味がわからん」

「俺は魔法使いや。たぶんやけど……。ぱっと思いつく、洞窟における危険や罠を回避するのは、接近戦のリサよりも魔法使いの俺が良いと思う」

 そうかなぁ、と首を傾げるリサの向こうで、

「使用人、はよせぇや。王都到着に時間かかったら、英雄としての俺のイメージ悪いわ」

「い、イメージぃ!?」

「せやで。こんなん、ぱぱーっと行って、正解言うてくれたらええがな。はよ行けや、ボケぇ!」

 と、英雄が、不機嫌さを隠しもせずに喚く。

 今にも切りかかりそうなリサの肩を叩いてから、はいはい、と歩き出したリュージは、一番左の入り口へと進んでいった。

「えーっと……灯りがいる……かな?」

 自分の足すら見えない、真っ暗闇。

 魔法の杖の先に、光を灯す。ぱっと明るくなるが、すぐにそれを小さくした。

 光に、モンスターたちが引き寄せられてきた。見たことの無いモンスターだが、上半身が人間で下半身が蛇だ。

 剣や槍を持ち、群れで襲ってくる。

 前衛のリサがいない今、リュージ一人で倒すのは難儀する。

 こいつらをここで倒すか、引き連れたまま入り口に戻ってリサを呼んでくるか。

「とりあえず、自分にバフかけて……調査魔法で弱点探って……」

 斬りかかってくる剣は、杖で防ぐ。が、いちいち衝撃が重たくて、リュージの体力が減っていく。

「弱点は……炎魔法やな! よっしゃ、燃えろや!」

 最大火力の炎を放ち、モンスターを一掃する。ドロップアイテムもきっりち回収し、先へと進む。

 次もまた、同じモンスターの群れに遭遇、炎を放って一掃するが、MP回復が間に合わない。

「ちょっと休憩するか……」

 壁に寄りかかって、ずるずると座り込む。

 態度の悪い英雄と、リサのことが気にかかる。

「あ……英雄がくつろいでいるとわかると、あの露骨な刺客が襲い掛かるかもしれへんな……」

 そうなった時、刺客に応対するのはきっと、リサだ。リサの運動神経ならバフなしでなんとかなるだろうが、怪我でもしては大変だ。

「はよ帰らなあかんな」

 中規模の炎で敵を薙ぎ払い、生き残りを杖で殴りつつ先を急ぐリュージは、かちり、という小さな音を聞いた。

「……なんや?」

 次の瞬間、リュージの体が宙に放り出されていた。かつて、バラエティー番組で体験したことのあるコレは……。

「落とし穴や!」

 やっぱり俺で正解やったな、と笑ったリュージは、「特殊魔法、飛行!」と叫んだ。

 ふわり、リュージの体が浮かび上がる。

 あっさり穴の入り口までたどり着き、そのまま宙を飛びながら前進する。

 モンスターたちの頭上も飛び越えた先に、壁が出現した。残念、ハズレです。他の道をどうぞ、と大きく書いてある。

「……よし、戻るで……」

 MPが枯渇するまで宙を飛び続け、洞窟の入り口が見えてきたあたりで、地面を歩く。

 行きと同じ種類のモンスターに襲われるが、これは、杖で滅多打ちにしてなんとか、倒す。

「やっべぇ……体力も魔法も、限界だ……」

 ふらふらと洞窟から出てきたリュージの元へ走ってきたリサは、なぜか顔に傷がついている。

「リサ、どうしたんやその傷!」

「ん、ちょっとね。やっちゃったー」

「何をやねん!?」

 えへー、と笑うリサの後ろでは、英雄が地面に伸びていて、仲間が周りでオロオロしている。

 回復魔法をかけようとしたリュージだが、魔法はまだまだ使えない。

「……しゃーない。アレが気絶してる間に、次の道、行っとこうや」

「せやね」

 真ん中の道を、二人で進む。

「リュージ、ここが、当たりなんやない?」

「せやろな……」

 道は綺麗に舗装され、モンスターも全く出てこない。

「はずれの方は、モンスターおったし、道も悪かったわ」

「念のため、もう一個の道も行ってみよう」

 入口に引き返し、三つ目の入り口にリサが飛び込んだ。

「あ、リサ! まぁ、ええか……なんとかするやろ」

 大丈夫、と、叫んだリサは、ほどなくして戻ってきた。

 その手には、何やらドロップアイテムが握られ、ふらふらと体が揺れている。 

「リサ、どないしたんや!」

「うえぇ……地面がずっと、トランポリンみたいに跳ねるんや」

「うげぇ……」

「モンスターも襲ってくるから、ぴょんぴょん飛びはねながら、なんとか叩きのめしてきた」

 はい、とドロップアイテムを渡され、リュージは思わず笑った。とんでもないレアアイテムがしっかり出ているではないか。

「リサ、これ換金したら、6万キンカやで。こんなすごいの、俺も初めて見るわ」

「え!? じゃあ、日本円で6万円? すごいね!」

「あっち戻ったら、何か美味いもん食いに行こうか」

「いいね! あたしピザがいいなー」

「いつもピザやないかい! たまには、もっとええもん食おうや」

「えー? じゃあ、お好み焼きとか?」

「そこは、焼き肉って言うて欲しかったなぁ」

 あはは、と、リサの明るい笑い声が響く。

 そのころになって、ようやく英雄がのそりと体を起こした。

「は、ようやくお目覚め? ボケ英雄……ふがっ!」

 煽ろうとしたリサの口を、リュージが慌てて掌で塞いだ。

「正解の道がわかったで。真ん中や」

「よーっし。ほな、行こかー!」

 はーい、と取り巻きたちが、元気よく叫ぶ。

 リュージに羽交い絞めにされたリサが、ふがー、んがー! と叫ぶが、リュージは絶対にリサを解放しない。

「リサ、落ち着け。やつらをさっさと王都へ連れて行って、おさらばするのが一番や」

「……ふがーっ!」

「リサの怒りはようわかるで? けどな、ここはぐっと我慢や、我慢」

 むすっとしたリサが、ようやく唸るのをやめた。

「……リュージがそう言うなら、あたしはそれについていく」

「うん、おおきに」

 ほないこか、と、リュージが飄々と歩き出し、リサはその背中を追いかけた。

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