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第9話 魔法剣士

 数日してスピリットが帰って来た。時間がかかっただけあって、彼女(?)はいろんな情報を持ってきてくれた。リュバンがスピリットに耳を近づけて聞いてくれる。


「え、なになに・・・。王宮にはデザート公爵はいない・・・」


 やはり父は別の場所に移されていた。


「デザート公爵はゴラク塔に幽閉・・・」


 ゴラク塔とは王宮から少し離れた場所にある塔だ。以前は別宮とされていたが、今は使われていない。それはあの悲劇の場所であるからだ。

 かつて反逆の罪を着せられたある王子がゴラク塔に幽閉された。そこで無実を訴えながら非業の死を遂げたのだ。自死しただとも、病死だとも・・・もしかしたら毒殺されたのかもしれない。それは今になっても分かっていない。

 そんな不吉な場所に父を幽閉するとは・・・私はいてもたってもいられなくなった。


「リュバン。何とかならないの。このままでは・・・」

「落ち着いてください。お嬢様」

「こうなったらこちらも兵を動員してお父様を救い出しましょう。領地に、いえ、町で傭兵を集めれば・・・」

「そんなことをしたら反逆罪を認めるようなもの。殺さずに幽閉したということは敵も反逆となる証拠を探しているのかも・・・。こちらが動かぬ限り、旦那様は無事かと・・・」


 リュバンにそう言われて少し私は落ち着いた。だがスピリットがこうも伝えてきたのだ。


「なに・・・すべて片付けばデザート公爵には用はない。抹殺すると・・・そうプリモ伯爵は言ったのですね!」

「えっ! やっぱり父は・・・」


 私は絶句した。反対派を一掃したらもうプリモ伯爵に物を言える者は王様の家臣の中にはいない。それなら父を救えるのは私しかいない・・・。私はすっくと立ちあがった。


「お嬢様。どこへ?」

「王宮に行きます。王様に父の無実を訴えます!」

「お嬢様。それは無茶です。王様に拝謁できないどころか、みすみす敵に口実を与えるようなもの」


 それはリュバンに言われなくても私自身が一番よくわかっていた。だがどんなことをしても父を救い出したい・・・。私の必死な目を見てリュバンはため息をついた。


「お嬢様は無茶をされる。このリュバンにはわかっています。ですからお力をお貸しします。魔法の力を」

「本当に?」

「でもお嬢様自身が危険になります。それでもようございますか?」


 リュバンはそう聞くが私の答えは決まっていた。


「いいわ! 私のことなど・・・。だからお願い!」

「では夜までお待ちください。旦那様を救い出せるようにいたしますから・・・」


 リュバンはそう言って部屋を出て行った。


 ◇


 日が暮れて辺りは暗くなった。だが屋敷の外は監視する兵士たちがかがり火をたいて明るい。私がリュバンを待っているとようやく彼女が現れた。


「その恰好は?」


 リュバンはとんがったつば広の黒い帽子にだらんとした黒いドレスを着ていた。右手には小さな杖を持っている。


「魔女の正装です。久しぶりに大きな魔法を使うのですから・・・」


 リュバンは気合が入っているようだ。私は尋ねた


「どんな魔法なの?」

「お嬢様を魔法剣士に変身させます」

「魔法剣士?」


 いよいよファンタジーっぽくなってきた。魔女に魔法剣士とは・・・。ララの物語には常連のメンバーだ。


「そうです。お嬢様が魔法剣士になって旦那様を救いに行くのです。そのための装備と力、そして魔力も備わります」

「それなら父を救出できる?」

「多分・・・」

「じゃあ、お願い!」

「では詳しく説明して・・・」

「そんなのあとでいいわ。すぐにして!」

「わかりました」


 リュバンは呪文を唱えて大きく体を震わしながら杖を振った。すると杖から銀の粉のようにキラキラした粉が舞い上がり、私に巻き付いた。


「すごい!」


 私の姿はみるみる変わっていく。髪は明るい金髪になって巻き上がり、目には仮面舞踏会の時につけるような仮面がついている。服はふわっとした青いドレスでちょうちん袖だ。両手には肘までの白い手袋がはまっている。ドレスの丈は短く、太ももから下が出ている。それを覆うために長いストッキングと膝までの白いブーツを履いている。

 すぐに鏡で映してみた。赤い口紅が引かれている。大人っぽい・・・。仮面をつけているからこれでは私だとは思わないだろう。しかし脚を露出しなければならないのは恥ずかしい。


「このスカートの丈は?」

「動きやすいから、この方がいいでしょう。このコスチュームを着ればスピードもパワーも3倍以上になりますし、高くジャンプもできます」


 確かに歩いてみたがいつもよりかなり体が軽い。空でも飛べそうだ。


「あとはこれを」


 リュバンは鞘に入った短剣を渡してくれた。


「武器ね」


 私は抜いてみた。すると刃の部分が伸びて普通の剣の長さになった。


「すごいわ! まるで剣士になったよう」


 私はその剣を振り回してみた。


「剣ですけど切れないものです」

「切れないの?」

「ただし触れた人に衝撃を与えて気絶させます」


 それなら危なくなくていい。人を斬ってケガでもさせたら目覚めが悪い。


「剣と鞘は落としても念じればあなたの手に戻ってきます。思い通りに飛ばすこともできますよ」


 なかなか便利だ。一応、鞘には長く伸びるひもがついていて腰から下げられるが、何かの拍子で落としてしまうことがあるだろう。


「さあ、お嬢様。どうでしょう。これなら旦那様を救えると思いますが・・・」

「ええ、これならなんとかなりそう」


 これで圧倒的な力を手に入れたのだ。これなら父を助けに行ける。だが浮かれる私にリュバンは険しい顔をした。


「ただし、注意することが・・・」



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