最終話 シンデレラの行方
王子様はおもむろに口を開いた。
「それはシンデレラだ。彼女は何度も私の危機を救ってくれた。魔法で動けなくなった時も・・・」
期待は無残に打ち砕かれた。シンデレラはもう一人の私であって本当の私ではない。よりによってもう一人の私を好きになるとは・・・。
(王子様は恩義に感じて、よくわからない相手を好きになったのだろう)
と私はそう思ったのだが・・・。
「彼女は私に口づけをして魔法を解いてくれた。口づけまでしてしまった以上、男として責任を取らねばならない。彼女を妃として迎えなければ・・・」
そんな理由かい!・・・と突っ込みたくなったが、さすがは王子様だ。どんなふうに教えられてきたのか知らないが、世間ずれも甚だしい。口づけしただけで結婚していたら体がいくつもあっても足りないだろう。
「王子様。多分、その者は見つからないでしょう。顔を隠していたということは正体を知られたくないからです。その者のことはお忘れになった方が・・・」
私はそう言うしかなかった。王子様のことは好きだが、今更、お妃になりたいとも思わない。宮殿に行けば窮屈な生活が一生続くのだから・・・。
「そうか・・・。そうかもしれぬな。だが私はシンデレラにまた会いたい。これは偽らざる気持ちだ。そなたに話を聞いてもらって心のつかえがとれた気がする」
王子様の表情が明るくなった。だが王子様はこのままではいつまでもシンデレラを追い続けるだろう。やはり見切りをつけてあきらめていただけなければ・・・
(今度、シンデレラに変身して宮殿に忍び込んでみようか。そこで密かに王子様に会って「私のことはあきらめてください」とでも言った方がいいのかな。それで王子様の気持ちが吹っ切れるかしら・・・)
私はそんなことを考えていた。
「とにかく妃選びは延期だ。私の気持ちが落ち着くまで。ところでここへまた来てもよいか? ここへ来ると心が落ち着く。そなたといると・・・」
「はい。いつでも。お待ちしています」
私はそう答えた。王子様に来ていただくのは大歓迎だ。ここで気分転換していただければいい。私も王子様に来ていただくだけでうれしくなる。
王子様が帰ろうとして立ち上がった。その時、ララが部屋に入ってきた。来客が来ているとわからなかったらしく、ドアを開けてすぐに私に話しかけた。
「この靴、どうします・・・」
ララが持っていたのはあの片方だけになった右足の靴だった。非常にまずいタイミングだ。彼女は来客がいるのに気付いて、「失礼しました」とすぐに引っ込もうとする。
「待て! その靴は!」
王子様に見つかってしまった。私はあわててごまかした。
「捨てようとしている靴です。お気になさらずに」
だが王子様はララのそばに寄った。
「この靴でございますか?」
「ああ、その靴だ。見せてくれ!」
ララは王子様にその靴を渡してしまった。これはばれるかもしれない・・・。
「うむ。これは私が持ってきた靴の片一方だ。これがここにあるということは・・・」
もう完全にばれている・・・ここは腹をくくらねばならない・・・のか?
「そなたがシンデレラだな!」
王子様はララに向かってそう言った。彼女はいきなりのことで面食らって、あわてて否定した。
「いいえ、私は違います。絶対に・・・」
「いや、そうに違いない。その手に持っている靴が何よりの証拠だ!」
王子様の追及は続く。もちろんララは私がシンデレラと知っている。私は王子様に気付かれないように頭を横に振って「知らないふりをしてくれ」と彼女に合図を送った。
「私、知りません。そのシンデレラという人を・・・」
「ではその靴は何だ? どこで手に入れた?」
そこで私が横から口を出した。
「それは牧場に落ちていたものなんです。落とし物だから保管していたのですが、誰も引き取り手がなかったもので・・・そうでしょう。ララ」
「はい。お嬢様。処分をどうしようかと相談しようかと思いまして・・・」
ララは話を合わせてくれた。これでごまかせるかどうか・・・私は王子様の顔を見た。
「ふ~ん。そうか・・・」
王子様は一応、納得してくださったようだ。信じやすい人でよかった・・・。
「それではこの村に、いやこの近くにシンデレラがいるということだな」
「いや、それは・・・」
「そうに違いない。この靴をここで捨てたということはこの近くにシンデレラが住んでいるということだ」
王子様はそう考えている。話は思わぬ方向に進みそうだ。
「うむ。それならここへちょくちょく来て、シンデレラを探そう。これからここにしばしば来ることになろう。そなたにも厄介をかけることになる。心苦しいがシンデレラ探しに協力してくれぬか?」
「ええ、それはもう・・・」
私はそう答えるしかなかった。これで王子様がこの牧場によく来てくださる・・・うれしいような、困るような・・・。
(私がシンデレラだとばれたらどうしよう? まあ、その時はその時よ。開き直って本当のことを申し上げるだけ・・・。王子様も最初はエース執行官と偽っていたからおあいこだわ)
王都に帰る王子様を見送りながら私はそう思っていた。
◇
ベッドの上に日が差して私は目覚める。爽快な気分だ。私はぱっと起き上がると窓を開けた。そこには壮大で美しい景色が広がっている。私は軽く伸びをした。 いつものように忙しい牧場の一日が始まる。
「さあ、今日もがんばらなくちゃ!」
完




