第55話 牧場に戻る
父は正式に許され、デザート公爵家は復活した。あの王都の屋敷にマーガレットやブルーメやレーヴ、そして使用人たちも帰ってきた。ほぼ元通りになり、また屋敷はにぎやかになった。
私と言えば、王都の屋敷に戻ったものの、やはり居心地が悪い。
「さあ、名家に嫁げるようにビシビシ鍛えますわよ!」
家庭教師をまたたくさんつけられ、花嫁修行のやり直しだ。マーガレットは相変わらず私を締め付ける。実の母から頼まれたとはいえ、これでは迷惑だ。
それにシスコンの兄弟だ。2人ともいい年だから恋人でも作ればいいのに、
「アミ! アミ!」
と私に付きまとう。相変わらずうっとうしい。だから言ってやった。
「お兄様はお嫁さんをもらったらいかがですか? ゆくゆくは一家をかまえるつもりでしょう?」
そう言われて2人ははっと思ったらしい。
「それもそうだ。アミの言うとおりだ」
「独立しないと一人前とは言えない」
などと考え直したのはいいが、
「そうだ。早く結婚してアミも一緒に暮らすようにしないとな」
「妻はアミと仲良くできる人を探そう。同居するしな」
などとのたまう。あきれ果てるほどのシスコンだ。
私はやはり牧場で暮らしたい。そこにはララたちがいるし、牛たちもかわいい。それにソワレの料理もある。そこである夜、父に頼んでみた。
「お父様。誠に勝手ですが、私は牧場で暮らしたいのです」
「どうしてなんだ? ここには家族がいる。やっと絆を取り戻したんだぞ」
「お父様をはじめお母様、お兄様が私を大事にしてくれるお気持ちは十分に感謝しています。しかし私にはこの王都暮らしが合わないのです。牧場の自然豊かな場所で過ごしたいのです。そこが私の居場所のように感じるのです・・・」
私は率直に気持ちを放した。父は少し考えてから私に問うた。
「もしかしてスピカ王子様のことか? おまえの気持ちはわかっているつもりだ。だが一度破談になった以上、もう結婚はできない。あの方から離れるためか? ここにいたら辛いのか?」
父はとんでもないことを言う。そんな気持ちは・・・考えもしなかった。
「そんなことではございません。牧場で生活してそこが気に入ったのです。それだけです」
父はしばらくしてから返事をくれた。
「わかった。アミの好きにすればいい。牧場までは遠くない。いつでも会いに行けるからな」
こうして私はまた楽しい牧場生活に戻った。
◇
かつての使用人も戻ってきて牧場はますます大きくなった。田からは多くのコメができるし、畑には様々な野菜が植えられている。果樹園も順調だ。甘い果物がいつも食べられる。
工場も建ててパンもチーズもワインも作り出す。それは近くの町の市場どころか、この国の様々なところに送られた。また羊毛からニット製品も作れるようになり、そこから始まって他の衣類なども作るようになった。コロ牧場を中心にして大きな町ができつつあった。
牧場の生活はやはり楽しい。すこしにぎやかになったものの、自然豊かなこの土地は心を癒してくれる。しかし以前に比べて何か大きなものが足りない。それはリュバンがいないからだ。気持ちにぽっかり穴が開いたかのように感じることがある。それに・・・それを埋めてくれるであろう、あの方にも会うこともできない・・・。私はそれを感じないように牧場の仕事を一生懸命に励んだ。
そんな時、あの方がまた訪ねてきたのだ。スピカ王子様、いやここではエース執行官として接しなければならない。相変わらず護衛官を2人だけ連れている。
「ようこそ」
「また来た。すまぬな。気が滅入っているとここに来たくなる」
王子様はほっとした表情になっていた。王宮にいると息が詰まるのだろう。それは私にもよくわかる。ただ今回は何か悩みを抱えているようだ。
牧場を見て回り、私の家で少しお茶を差し上げることにした。すると王子様は人払いをされた。何か重大な話があるようだ。
「そなたはこの靴の持ち主に心当たりはないか?」
王子様は左足の靴を出した。作業の時に履く靴だ。私も普段、これと同じ靴を履いている。だがよく見ると見覚えがある。これは「私の靴です」・・・と言う前に王子様が話し出した。
「これは私を救ってくれた女の魔法剣士が履いていたものだ。シンデレラと名乗っていた。それが仮面舞踏会の折、彼女はこの靴を残して谷川に落ちた。魔法が切れたのでこんな靴に変わっていた・・・」
あの時、なくした靴だった。右足の方は一応、取ってあるが・・・。
「シンデレラは様々な危機を救ってくれた。いや、命の恩人でもある。探し出そうとしたが、仮面で隠していたから素顔はわからない。この靴だけが彼女を見つける手がかりのなのだ」
今頃になってシンデレラを探すのはなぜだろう・・・そう思った私は聞いてみた。
「そのシンデレラを探すのはどうしてですか?」
「実はまた私の妃選びをすることになったようだ。また王宮に年頃の娘が集められるだろう。そういえばそなたもそうだったな。女官から詳しく聞いたところでは前回はそなたが妃になるはずだったらしいな」
そんなこともあった。宮殿での生活が遠い昔のことのように懐かしく感じる。
「あの時はすまなかった。そなたが望んだのに妃にできなくて。かわいそうなことをしてしまったと思っている」
なぜだか私はふられたことになっている。まあもうどうでもいいことだが・・・。
「またお妃選びをなさって、今度こそ本当に結婚なさるのですね」
「いや、私には決めた人がいる!」
王子様は私の目をじっと見て言った。これは・・・私は頬がパッと赤くなったのを感じた。もしかして・・・。




