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第54話 とっておきの魔法

 ようやく戦いは終わった。マーガレットが真っ先に私のそばに駆け寄ってきた。


「よくやったわ! あなたならできると思っていた」


 彼女は私をしっかり抱きしめてくれた。続いてブルーメとレーヴに連れられて父もそばに来た。


「お父様!」

「よくがんばってくれた」


 私は父と抱き合った。ブルーメとレーヴは笑顔で見守ってくれている。


「みんな無事でよかった」


 家族全員で抱き合った。これで家族の絆を取り戻すことができた。本当の絆を・・・。それを広場に戻ってきたソワレやララたちが温かい目で見守ってくれていた。


 プリモ伯爵を倒したから服従魔法は消えた。兵士たちは元に戻ったようだ。悪い夢から覚めたかのような顔をして大広場に戻ってくる。人々も大広場に集まり、王様が無事だということを知ってうれしそうに騒いでいる。まるでお祭りのようだ。


 すべてが終わったようだが、私にはまだやることがあった。それは王子様のことだ。プリモ伯爵の魔法で動けなくされている。完全魔法らしいから伯爵が死んでもその魔法は解けないだろう。


「私、行くわ! 王子様のところに」 


 私は父たちにそう言い残してチャオを呼んだ。すでに分かっているらしく天馬の姿で私に駆け寄ってきた。私はそれにまたがって走らせた。向かうはゴラク塔・・・。


 そこは火が消えたように静かだった。入り口には誰もいない。戦いで死んだ兵士たちの亡骸があるだけだ。私は辺りを警戒しながらゆっくり階段を上って行った。すると最上階の部屋の前にソン護衛官とわずかな兵士が座り込んでいた。ここで何度も激闘があったのだろう。かなり疲れ切っているようだ。


「何者だ?」


 私に気付いたソン護衛官が立ち上がって問うた。


「シンデレラです。王子様の味方です」

「そうか。あなたがシンデレラか。王子様から話を聞いている。数々の危機を救ってくれたとか」

「プリモ伯爵を誅殺しました。これでここも安全です。王子様のところに・・・」

「そうだったのか。あなたならなんとかできるのだな。どうぞこちらに・・・」


 部屋の中には王子様が立っていた。あの時のまま動かない状態で・・・。


「ここにもプリモ伯爵の手の者は来たが撃退した。こうして王子様を守ることができたのだが・・・」


 ソン護衛官は悲しそうに言った。プリモ伯爵は王子様に動かなくなる永久魔法をかけた。伯爵が死んでもこの魔法は残る。伯爵がいない今、これをどうやって解くのかがわからない。ただ私にできることをするしかない。私は魔法の指輪をかざした。


「魔法の指輪よ! 王子様を元に戻して!」


 しばらく待ってみた・・・・。だが何も起こらない。


「動いて! 魔法解除! 魔法取り消し! 静止魔法解除! ストップ解除・・・」


 様々な言葉を唱えてみたり、王子様の体をゆすったりもした。だが魔法が解除されることはない。


「あなたでもダメですか・・・」


 見ていたソン護衛官はため息をついてうなだれていた。


(王子様を元に戻せない。ずっとこのままなの・・・)


 私にはどうすることもできないのだ。悲しい気持ちのまま私はここを去るしかない。私の頭の中では王子様との楽しい思い出が駆け巡っていた。牧場を案内したこと、たらいのブドウを踏み潰したこと、ワインを楽しんだこと・・・。


「王子様。ずっとお慕いしていました。いつの日か、魔法を解いてさしあげます」


 私は気持ちがいっぱいになり、おもいきって王子様に口づけした。これが永遠のお別れになるような気がして・・・。そしてその場を去ろうとした。すると・・・。


「待て! シンデレラ!」


 ふいに後ろから声をかけられた。


(まさかそんなことはないわ。物語じゃあるまいし、口づけで魔法が解除されるなんて・・・。空耳だわ)


 だが気になった私は振り返った。すると驚くべきことに王子様が動きだしていた。口づけで魔法が解除されたのだ。


「王子様!」


 うれしさのあまり、私は思わず王子様に抱きついていた。


「私はどうしたのだ? プリモ伯爵が現れて・・・そこまでしか覚えていないが・・・」


 王子様は困惑して辺りを見渡している。


「王子様は魔法で動けなくされていたのです」

「そうか。それよりもう放してくれぬか」


 私ははっとして王子様から離れた。王子様もいきなり抱きつかれて、訳が分からず困っていたのだろう。


「ご無礼いたしました。王子様。ご安心ください。プリモ伯爵は死にました。これで王宮に平和が訪れます」

「そなたが私を、いやこの国を救ってくれたのだな」

「いいえ、私だけではありません。王様や王子様を慕う多くの人たちが救ったのです」


 私がそう言うと王子様は私の手を取ってしっかりと握った。


「いや、そなたのおかげだ。そなたに何度も命を救われた」

「いえ・・・」


 王子様に見つめられ、私はドキドキしていた。


「そなたにずっとそばにいて欲しい。これからもずっと・・・」


 私は頬を赤らめていた。


(えっ! プロポーズ? こんなところで・・・)


 だがそれはいきなり中断された。ソン護衛官が間に入って私たちを引き離したからだ。


「王子様! 行きましょう! 王様がお待ちのはずです。すぐに駆け付けないといけません!」

「いや、ソン。これから・・・」

「いけません! 行きますぞ」


 ソン護衛官は王子様を無理やり引っ張っていってしまった。


「もう、こんなところで・・・それどころではないのに・・・」


 ソン護衛官がぶつぶつ言うのが聞こえる。確かにそれはそうなのだが・・・。水を差されて私は少し冷めていた。


(もう! いいところだったのに・・・。まあ、いいわ。王子様は元に戻ったし、いろいろと解決したし・・・。私はまた牧場生活を楽しむとしよう。王子様。さようなら!)


 一人残された私は嘆息して部屋を出てゆっくり階段を下りて行った。



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