第51話 最期の言葉
その間に私とリュバンは外に出た。東の空が白みかかっている。夜明けは近い。
「リュバン! 魔法剣士になって戦うわ!」
「おやめください! 相手は黒魔術師なのですよ!」
「でもこのままではやられてしまうわ!」
そう話しているうちに前方に魔法陣が現れ、プリモ伯爵が姿を現した。チャオがそれを見てまた「ウーッワンワン!」と吠える。
「もう逃げられはせんぞ!」
私たちを見て不気味な笑みを浮かべながらゆっくり歩いてくる。チャオが我慢ならなくなって挑んでいった。だが杖をひと振りされて吹っ飛ばされてしまった。
「チャオ!」
チャオは苦し気にのたうち回っている。
「さあ、どうやって苦しめてやろうか? ふふふ・・・」
プリモ伯爵が杖をかまえながら近づいてくる。もう迷っている時間はない。変身して戦うだけだ。幸いなことに朝日が差してきた。
「プリモ伯爵! 覚悟しなさい!」
私はプリモ伯爵を指さして大声を上げた。彼はまだ笑っている。
「ふふふ。貴様に何ができる?」
「できるわ! 見ていなさい! シンデレラ降臨!」
短剣を抜いて変身した。だがプリモ伯爵は動じない。余裕綽々で眺めているだけだ。
「愛のために戦う一輪の花。魔法剣士シンデレラ!」
「そんなもので儂に勝てると思うのか?」
「やってみないとわからないわ!」
私は剣を突き出した。だがプリモ伯爵にさっとかわされてしまった。代わりに魔法に杖が打ち込まれる。
「バシツ!」
剣で受け止めると激しい衝撃が伝わる。でも吹っ飛ばされずに何とか止められている。だがプリモ伯爵はさらに連続して打ち込んでくる。
「ふふふ。いつまでもつかな?」
このまま受け続けることはできないだろう。この剣のモードを変えて反撃するしかない。私は距離をとった。
「ムチモード!」
剣は長くしなやかなムチになる。これを振り回してプリモ伯爵の杖に巻き付けると、思いっきり引っ張った。すると杖は彼の手から離れた。
「今よ!」
私はムチでプリモ伯爵を攻撃した。だが彼は結界を張って防いでいる。私は剣を破壊モードにした。接近してこれで結界を上から叩く。
「バーン!」
結界にひびが入った。もう少しで破壊できる。目の前のプリモ伯の表情に焦りの色が見て取れる。
「おのれ! こうなったら・・・」
結界が壊れて四散した。だが私の剣は空を斬っていた。前にいるはずのプリモ伯爵の姿は消えていたのだ。その代わりに・・・。
「ああっ!」
リュバンの悲鳴が後ろから聞こえた。プリモ伯爵が短距離転移魔法で彼女のそばに行き、短剣で差したのだ。胸からどくどくと血が流れ、彼女はその場に倒れ込んだ。
「リュバン!」
私はあわてて駆け寄った。プリモ伯爵は後ろに下がると魔法陣を出した。
「魔女が死ねば魔法は使えまい。これで儂の勝ちだ。おまえにはデザート公爵、いや王たちの公開処刑を見せてやるとしよう。何もできない自分を呪うがいい!」
プリモ伯爵はそう言って魔法陣に消えていった。
「リュバン! しっかりして!」
私はリュバンを抱き起した。顔色は真っ青で肩で息をしていた。
「私はもうだめなようです・・・」
「そんなことを言わないで。大丈夫よ!」
「私にはわかっております。しかし無念です。旦那様を助けられず、あの黒魔術師を止められず・・・それだけが心残りです・・・」
「私がお父様を助け出す。そしてプリモ伯爵も・・・」
「お嬢様。私が死ねば私の魔法は消えます。この力はなくなります」
そうなると私はどうやって父を助け出せばいいのか・・・。それを察したのか、リュバンが思わぬことを言った。
「一つだけ方法があります。あなたが魔女になるのです。そうなればあなたは魔法が使えます」
「えっ! 私が!」
これには驚いた。だが魔法なんて訓練したこともない。いきなり魔女になれるのかどうか・・・。
「お嬢様。あなたには黙っておりました。お伝えしたいことが・・・」
彼女は。最期の力を振り絞って私に伝えようとした。
「あなたの母は私の娘だったのです・・・」
この期に及んで全くの驚きだった。リュバンは私の祖母だったのか・・・。
「娘も魔女でした。森で旦那様と出会い、恋に落ちました。それであなたが生まれたのです。だがデザート公爵が命の尽きかけていたコクロに目をつけられた。娘は命懸けであなたと旦那様を守ったのです・・・」
私は母に助けられたのだった。その代償に母は死んだ。死にかけていた黒魔術師コクロはプリモ伯爵に取り付いたというわけだ。リュバンは私を守るために王都に来てデザート公爵家に乳母として仕えたのか・・・。
「あなたには魔女の血が流れています。きっと魔法が使えるはず」
「でも・・・」
「自分を信じてください! 魔法は信じる心に芽生えます・・・」
そこでリュバンはこと切れた。そこで私の変身も解けた。
「リュバン! いえ、おばあ様! おばあ様!」
だがリュバンが答えることはなかった。安らかな顔をしている。だがその遺体はそのままとどまらない。すべてが砂と化し、風に吹かれて空に舞い上がった。魔女の最後だった・・・。
「おばあ様・・・」
私は茫然としてその砂の行方を見守るしかなかった。
「逝ってしまった・・・」
リュバンは私にとってかけがえのない存在だった。いつも私のそばにいて守ってくれていた・・・。私には大きな喪失感が残された。
だが落ち込んでばかりもいられない。プリモ伯爵、いやコクロは王様や父を処刑してこの国の実権を握ろうとしている。必ず阻止しなければならない・・・私は強く心に誓った。




