第50話 ギース館
真夜中で辺りは暗闇に包まれている。私とブルーメとレーヴはギース館に向かうことにした。だがここからでは歩くには距離がある。乗り物が必要だ。うまいことにゴラク塔を出たところには鞍をつけた馬が数頭つながれていた。これを拝借するつもりだ。
元兄たちは私が馬に乗れることを知らない。2人は近くの馬に飛び乗り、右手を差し出した。
「アミ! 馬で行こう! 俺の後ろに乗せてやる!」
「いや、俺の方が安心だ! さあ、こっちに!」
「俺の方においで!」
「こっちだ! アミ!」
2人はこの場に及んでも私の取り合いをしている。それを横目に私は別の馬にさっと飛び乗った。
「行きますわよ! お兄様! 遅れないで! ハイヤッ!」
私は馬を走らせた。その後を「意外だ」という顔をした2人の元兄を乗せた馬が続く。そしてその後にはチャオが・・・。
ギース館はかなり古い洋館だ。以前、様々な兵器の実験場だったと聞く。そこをプリモ伯爵が買い取ったのだ。
ここにはいろんなうわさが付きまとっている。兵器の事故で多くの者が亡くなったとか、狂った者を集めて恐るべき人体実験が行われたとか・・・その中でも異端者、つまり魔女や黒魔術師を閉じ込めて抹殺したことは知られている。その真偽は別として多くの者の恨みや執念が集まっているような場所なのだ。
月明かりに建物の姿が浮かび上がっている。
「見るからに不気味・・・」
そんな印象をまず受けた。どこからともなく過去の亡霊が現れそうな・・・。だが今はそんなことを言っておられない。ここにはお父様とリュバンが捕らわれているのだ。
私は馬を降りて門のそばに来た。鍵はかかっていない。押せば簡単に開いた。元兄たちも馬を降りて私のそばに来た。
「アミ! 行ってみよう!」
「はい! でもどこにいるのかが・・・」
するとチャオが走ってきた。敷地に入って鼻を地面につけて、「ワンワン!」と吠えて私たちの方を見た。私たちを案内してくれるのかもしれない。
「わかった! 頼むわ! チャオ!」
私の意思が通じたのか、チャオは屋敷の中に入って行った。そのあとを私たちが追う。
中は真っ暗だ。レーヴがろうそく台を見つけ出して火をつけてくれた。それ中がうっすら明るくなる。チャオはどんどん廊下を走っていき、奥のドアの前で立ち止まった。鼻でにおいをかいで「ワンワン!」と吠えた。
「ここなのね!」
私は追いついてドアを開けた。するとそこは真っ暗だった。だが人の気配はした。
「誰かいるの?」
「その声はお嬢様ですね! リュバンです!」
「リュバン! リュバンなのね! 助けに来たわ!」
レーヴがろうそくで中を照らした。すると鉄格子のはまった奥にリュバンがいた。ブレーメがそのそばに寄った。
「リュバン。そこをどいてくれ!」
リュバン鉄格子から離れるとブルーメが剣を抜いて振り下ろした。すると鉄格子の何本かが切断され、リュバンは外に出ることができた。
「ありがとうございます。お嬢様。ブルーメ様、レーヴ様」
「ここにお父様がとらわれているようなの。リュバン、何か知らない?」
「私にもはっきりわかりません。どこかには監禁されていらっしゃるとは思いますが・・・。お探しする手はありますから、今はとにかくここを出ましょう。プリモ伯爵は黒魔術師です。どこに現れるかわかりません」
プリモ伯爵は魔法を使っていたが、それは禁忌とされる黒魔術だったのだ。ブルーメが尋ねた。
「どうして伯爵が黒魔術を?」
「コクロという黒魔術師が死ぬ前にプリモ伯爵に取り付いたようです。それで少しずつ体と心を支配し、やがて乗っ取りました。あいつはこうしてずっと生き延びているのです。今は完全に覚醒して完全な黒魔術師となりました。もう怖いものなどないはずです」
恐ろしい話だった。その黒魔術師が今度はこの国を乗っ取ろうとしている。何とかしなければならないが・・・今はお父様を助け出してここを脱出するのが先決だ。
「とにかくここを出ましょう。伯爵に見つかる前に」
私たちは部屋を出ようとした。すると壁にあの魔法陣が浮かび上がった。もう見つかってしまったのだ。プリモ伯爵がゆっくり姿を現す。そばにいたチャオが「ウーッワンワン!」と吠えて威嚇した。
「生きていたようだな。だがここで儂が息の根を止めてくれる!」
プリモ伯爵は私たちをにらみつけた。それはこの世のものとは思えない恐ろしい形相だった。
「ここは俺たちに任せろ!」
「早くリュバンを連れて逃げるんだ!」
ブルーメとレーヴが剣を抜いてプリモ伯爵に斬りかかった。魔法を使う間を与えまいと連続攻撃をかける。プリモ伯爵はなんとか魔法で杖を取り出し、それで応戦している。武術もなかなかの腕前のようだ。
ここは元兄たちに任せることにした。私にはまだ戦うことができないから・・・
「リュバン、逃げるのよ!」
足元のふらつくリュバンを抱えて私は部屋の外に出た。チャオも心配そうについてくる。
「ここからは逃がさん!」
私たちの動きに気付いたプリモ伯爵は杖を振り回しながら追ってきた。その前に元兄たちが立ちふさがる。
「お前の相手は俺たちだ!」
「邪魔なハエどもめ!」
プリモ伯爵は杖でブルーメとレーヴに打ちかかってきた。だが今度は様子が違う。杖に魔法がこめられている。その威力にブルーメもレーヴもはね飛ばされて壁にたたきつけられた。
「ううっ!」
2人は気を失って倒れたままだ。それを見てプリモ伯爵がニヤリと笑った。
「この2人はまだまだ使える。後で服従魔法をしっかりかけなおしてやる! それより奴らを・・・」
プリモ伯爵はそう言い捨てると私たちを追うために魔法陣の中に消えた。




