第49話 味方
だがいつまで待っても斬られることはなかった。そっと目を開けると私を拘束している縄が断ち切られていた。2人は私を自由にしてくれたのだ。ほっとした私はその場に座り込んだ。
ブルーメとレ―ヴは私をかばうようにプリモ伯爵の前に出た。
「アミを斬ることはできない!」
「大切な妹を守る!」
それでもプリモ伯爵はあわてない。呪文を唱えて左手を出した。服従魔法をまたかけようとした。
「さあ、殺せ! その女を殺せ!」
プリモ伯爵はあらためて命令した。だが2人の元兄たちは聞こうとしない。
「いやだ! アミを傷つけることはできない!」
「そうだ! 妹を害する者は俺たちが許さん!」
恐るべきシスコンだ。服従魔法などはね返している。さすがにこれはプリモ伯爵には想定外だったようだ。
「ならばまとめて殺してくれる!」
プリモ伯爵は左手を伸ばして魔法で私たちを攻撃しようとした。
「そんなことはさせない!」
呪文を唱える暇を与えず、2人は剣を振り上げて向かって行った。私を守るために・・・。
「おのれ!」
プリモ伯爵はあわてて結界を張って剣を防いだ。だが勢い込んだ2人の剣の威力はすさまじい。今にも結界を破りそうだ。形勢不利と見て、プリモ伯爵は呪文を唱えて魔法陣を発生させた。
「こうなったら外の剣士と兵におまえたちを始末させる! 大事な妹とともに死ね!」
プリモ伯爵は魔法陣とともに消えていった。すると同時に部屋に剣士と兵士が踏み込んできた。いずれも目がうつろだ。彼らも服従魔法にかかっているのだろう。かなりの人数だ。だがここを離れて逃げるわけにはいかない。私たちの後ろには動かなくなった王子様がいるのだから・・・。2人の元兄たちが剣を振るって剣士と兵士を外に押し出した。
「ここは任せろ!」
「アミは下がっていろ!」
2人の元兄たちは剣で戦ってくれている。変身が解けた私はただ見ているしかない。2人は息の合った連携で部屋に入って来ようとする剣士や兵士を斬り倒していた。
(さすがは元兄たち。日頃、だてに鍛えていないわ)
私も2人と戦ったことがあるからわかる。2人の強さは本物だ。
「がんばって! お兄様!」
何もできない私はそう声をかける。
「おう! おまえのために!」
「がんばるぜ!」
私の声援に勇気百倍だ。2人は私に笑顔を向けてさらに気張って戦おうとする。なかなか頼りになる元兄たちだ。
だが押し寄せてくる兵士の数は多い。斬っても斬ってもきりがない。元兄たちは「はあっ、はあっ」と少しずつ息が切れてきていた。かなりつらそうだ。
「お兄様! 敵はあと少しよ!」
私もそう声援を送るが、元兄たちの体力は限界に近付いている。
(まずい! お兄様たちはもうもたないわ・・・)
いくら考えても私にはこの状況を打開する方法が浮かばなかった。となると後は神頼みしかない。
(神様! お願いします! お助け下さい!)
すると外で怒号がしていた。下を見ると松明を手に持った大勢の兵士たちが押し寄せてきていた。
「我らはスピカ王子様をお助けする軍だ! 逆らうものは容赦なく斬る! おとなしく投降しろ!」
声が響き割った。それはあのソン護衛官のものだった。彼が兵を率いて救出に来たのだ。その声で襲いかかってきた剣士や兵士は戦意をなくしてしまった。剣を捨てて次々に投稿していく。やがて戦いは終わった。
しばらくして最上階にソン護衛官が上がってきた。私が彼を出迎えた。
「護衛官様。助かりました」
「そなただったのか! 王子様は?」
「あちらに・・・」
私は王子様の方を見た。プリモ伯爵の魔法で蝋人形のように動かないままだ。
「王子様はどうされたのだ!」
「魔法で動けなくされています」
「おお、おいたわしや。王子様」
ソン護衛官は王子様の前に来てひざまずいた。
「必ずや。元にお戻しいたします。この命に変えましても・・・」
王子様は魔法でこのようにされてしまった。これを解くにはプリモ伯爵をとらえるしかない。私は彼を追わねばならない。
「護衛官様。王子様をお願いします」
「わかった。必ずお守りする。ところであなたは? 一緒に来ないのか?」
「いいえ。私には行くところがあります」
私は元兄たちの声をかけた
「お兄様! 行きましょう!」
「どこに?」
「プリモ伯爵を追うのです!」
「でもどこに? 魔法でここから消えてしまった」
確かにどこを探せばいいのかわからない。しかし私は確信があった。
「多分、ギース館です! 伯爵はうっかり口を滑らせたのです。そこに父がいると。リュバンもとらわれています。伯爵はそこを根拠地にしているに違いありません」
プリモ伯爵は裏の仕事にギース館を使っているのだろう・・・私はそう見ていた。
「なに! お父様は生きておられたのか!」
「それは本当か!」
2人はそのことをプリモ伯爵から知らされていなかったようだ。
「本当です」
「そうか。やはりお父様は生きておられたか。助けに行くぞ!」
「よかった! そのために我らは伯爵のもとに身を寄せていたのだ! 今こそお父様を取り戻そう!」
元兄たちはそう言った。2人は裏切ったわけではなく、向こう側に取り入ることで父の行方を捜してくれていた。私には2人の味方がいたのだ。
「では行きましょう! こんな事態になったと知ったら伯爵は何をするかわかりませんから」
私と2人の元兄たちは急いでゴラク塔を出た。




