第46話 いなくなったリュバン
決断の時が来た。私が王子様を救い出さねば・・・。
「私が王子様をお助けします!」
それにはソン護衛官は驚いたようだ。
「あなたが? いったいどうやって?」
魔法剣士になって・・・などとは言えない。これは秘密なのだ。
「いえ、それは・・・少しでもお力になりたいと・・それだけで・・・」
そう言ってごまかすしかない。ソン護衛官もそもそも私などに期待はしていないから突っ込んでこなかった。
「私はこれから知り合いを回り、仲間を増やすつもりです。王子様をお救いするために。世話になった。では」
ソン護衛官はそう言って家を出て行った。だがそんな簡単にはいかないだろう。もはやプリモ伯爵の手があちこちに回っているだろう。やはりここは私が出て行くしかない・・・。
「私、行くわ!」
私は立ち上がって自分に言い聞かせるように言った。だがリュバンが私の手をしっかり握りしめた。
「やめてください。お嬢様」
「リュバン。止めないで!」
「そんな体で何ができるというのです!」
確かに体はまだ完全に回復していない。でも魔法剣士になれば・・・。だが私の考えなどリュバンはお見通しだった。
「いくら魔法剣士でもその体力では力を発揮できません!」
「でも王子様が・・・」
「お嬢様。リュバンとお約束していただいたでしょう。王子さまのことはもう忘れると。もしお嬢様に何かあればこのリュバンは亡くなった奥様に顔向けできません。死んでお詫びするしかありません」
リュバンは涙を流して訴えていた。
「お嬢様。私からもお願いします。決してそんな無理をなさらないでください!」
ララも必死に私を止めた。こうなると私の決心は揺らぐ。
「お嬢様。お願いです。決して、決してそんな無茶はなさらないでください!」
リュバンはなんとか私を止めようとする。前回、私が死にかけたから当然かもしれない。必死に助けてくれたリュバンの頼みを無視するわけにもいかない。
「わかった。このことは私の頭から消すわ。どこにも行かない」
「よかった! お嬢様が言うことを聞いてくれて・・・」
リュバンとララはほっとしたようだった。私は断ち切れない思いを引きずりつつ、王子様の救出をあきらめることにした。
また平穏な日々が続く。私は何もやる気が起きず、ただため息をついてぼうっと窓の外を眺めていた。牧場では人も増えて活気のある声が響き渡る。
そんな姿をリュバンはすまなさそうに見ていた。私はそれを何となく気付いていた。だがリュバンに声をかけることもなく、うつろな日々を送っていた。
だが急にリュバンが家からいなくなった。ララに尋ねると、
「村の知り合いの家に手伝いに行くのだそうです。2,3日は帰ってこないとお嬢様にお伝えしてくれと・・・」
という答えが返ってきた。
(手伝い? そんなこともあるのかな・・・)
私はそんな軽い気持ちで聞いていた。だが3日を過ぎても帰ってこない。これはおかしいとララを問い詰めた。
「リュバンはどこに行ったの? 3日経ったけど帰ってこないのよ。おかしいでしょう? どこに行ったの?」
「お嬢様。ですから村の人のところに・・・」
「村の誰のところ? 行って確かめるわ!」
「それは・・・」
ララは答えに窮した。
「本当のことを言いなさい! リュバンはどこ?」
そう問い詰めているところにスピリットが窓から入ってきた。だが様子が変だ。ふらふらと飛んできて何とか私の手のひらに下りた。スピリットは翼にケガをしていた。必死の思いでここまで飛んできたのだろう。
「スピリット。どうしたのよ。そのケガは?」
【大変です。リュバンさんはプリモ伯爵にとらえられました。私はやっとのことで・・・】
「えっ! なんですって!」
私は驚いた。そんなことになっていたとは・・・。
「リュバンはどこにいるの?」
【それはわかりません】
リュバンの行方は分からない。ただ彼女は私の代わりに王子様を助けに行ったことは確かだ。私は傷ついたスピリットをそっと鳥かごに入れた。ララはそれをじっと見守っている。
「ララ。スピリットが『リュバンがプリモ伯爵にとらえられた』と言っているわ。本当に知らないの?」
するとララは嘆息して懐から手紙を差し出した。
「リュバンさんから口止めされていたのです。もし5日して帰ってこなかったらこれをお嬢様にお見せしなさいと」
私は急いで手紙を広げた。
『お嬢様。あなたがこれをお読みになっているときは私はもう死んでいるか、とらわれているかでしょう。もう会えることのないかもしれませんのでこの手紙でお伝えいたします』
手紙はその言葉で始まっていた。
『スピリットが王子様の居場所を伝えて参りました。本来ならお嬢様にお伝えするところですが、これを聞けばあなたは飛び出して行ってしまうでしょう。だから私の胸にとどめました。しかし王子様を失えばお嬢様はひどく悲しまれるでしょう。だから私が行動することにしました』
リュバンは単身で王子様を助けに行ったのだ。
『私は魔女です。魔法を駆使すれば必ずうまくいくはずです。でも私が帰らなくても気にしないでください。そして今まで通り、一切のことを忘れて牧場で楽しくお過ごしください。これが私の望みです リュバン』
私はいてもたってもいられなくなった。私のためにリュバンは危険を顧みずに王子様を助けに行ったのだから・・・。
「私、行くわ! スピリットをお願いね」
「お嬢様! おやめください! リュバンさんからもしもの場合は必ずお止めするように言いつかっているのです」
ララは私の腕をつかまえて止めようとする。だが私の心は決まっている。
「ララ。私はこれ以上、ここでじっとしていられない。私のためにリュバンまで・・・。それなのにここでのうのうと暮らしていけないわ!」
私はララの手を振りほどいて外に出た。するとそこには私の意を汲んでチャオが待っていた。私を見てワンと吠える。
【お嬢様。いつでも準備ができています】
「頼むわね。チャオ!」
私は短剣を抜いた。
「シンデレラ降臨!」
チャオも天馬に変わった。私はそれにまたがって王都のゴラク塔を目指すことにした。
「必ずリュバンと王子様を助け出すわ!」
私はそう心に誓っていた。




