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第43話 あの世

 ふと気づくと私は草原に立っていた。見渡す限り何もない。空は曇って日の光が見えず、辺りは薄暗い。


「行かなくちゃ・・・」


 なぜかそんな衝動が起こっていた。私は歩き続けた。すると大きな川が見えてきた。流れはゆっくりだ。このまま渡れそうだ。

 そのまま進もうとすると川の向こうに人の姿が見えた。それは次第にはっきりしてくる。白い服を着た若い女性だ。その顔には見覚えがあった・・・。


「ママ・・・」


 それは亡くなった実の母だった。彼女が笑顔で私を見つめていた。


「アミ。大きくなったわね」

「ママ。会いたかった」

「私もよ。アミ」

「いっぱいお話したかったのよ。それなのに・・・」

「ごめんね。つらい思いをさせて・・・」


 母は「よしよし」という風に何度もうなずいた。


「すぐにそっちに行くわ! 待っていて!」


 私は川を渡ろうとした。だが・・・


「アミ! ダメ! 来てはダメよ!」


 母がとめた。


「どうして? そっちに行っていっぱいお話するの」

「アミ。まだその時じゃない。あなたは生きるのよ!」

「生きる?」


 そこで私は思った。その川の向こうは死の世界だと・・・。


「こっちに来てはいけない。戻るのよ!」

「でも私は・・・」

「いい。アミ。あなたにはまだやることがある。それは運命なの。決められたことなの」

「ママ・・・」


 これが母との2度目の別れになるのかもしれない。そう思うと涙がこぼれそうになった。


「泣かないの。いずれ会える。でもあなたに会えてよかった。大きくなったアミの姿を見られてママはうれしいわ」


 母はそう言うと空に向かって大声を上げた。


「アミは戻ります! よろしくお願いします。ムッティ・・・」


 すると私は引き戻される感覚がした。


「さようなら。アミ。私の愛しい娘・・・」

「ママ・・・」


 私は急に鋭い痛みを感じて目を開けた。すると丸太小屋の天井が見えた。体を起こそうとしたがだるくて力が入らない。


「お嬢様! わかりますか? リュバンです!」


 リュバンが顔を出した。その顔はかなり疲れ切っている。


「リュ・・・バン・・・」

「そうです。リュバンです。よかった。目を覚まされて・・・」


 するとリュバンは気を失ったようでベッドの上で倒れた。


「リュバン! どうしたの?」


 するとララが顔を出した。


「リュバンさんは看病疲れの様です。魔法で傷をいやし、ずっと回復魔法をかけていましたから・・・。魔法の使い過ぎもあるのでしょう。隣の部屋で休んでもらいます」


 倒れたリュバンをキキ(?)たちが担いで隣室に連れて行った。ひとまず休ませれば何とかなるようだ。


「ねえ、私はどうなったの?」

「リュバンさんから聞きました。斬られて谷底に転落して・・・川の中に落ちたそうです」


 そんな状況でよく生きていたものだ・・・私は自分のことながらぞっとした。


「誰が助けてくれたの?」

「チャオが川に飛び込んで引っ張り上げたそうです。そこにスピリットから知らせを受けたリュバンさんも駆けつけて・・・。あわてて魔法でここに運んだというわけです」


 みんなが協力して助けてくれたのだ。


「私もお嬢様を見たとき、もうだめだと思ったのです。冷たくなって真っ青で血の気はないし、胸の傷は深いし・・・もう死んでいると思ったほどです。でもリュバンさんがあきらめずに魔法で蘇生させようと・・・」


 リュバンはありったけの魔法力を使って、死にかけた私を生かしてくれたのだ。彼女に大いに感謝しなければならない。


「ところで王子様は?」

「さあ? 何も聞いていませんが・・・」


 それどころではなかったから仕方がない。だが私は王子様のことが気にかかっていた。あの時、護衛官と兵士が来たから、いくらジョーカーでも王子様に向かって行くことはないだろう。

 だが王子様がプリモ伯爵に命を狙われているのは確かだ。今回はダメだったとしても次の手を打ってくるかもしれない・・・そう思うといてもたってもいられなくなった。とにかくベッドから出なければ・・・私は体を起こそうとした。


「い、痛い!」


 体に激痛が走った。


「お嬢様。寝ていてください。まだ起きるなんて無茶です」

「でも心配なのよ」


 痛みに耐えて起き上がろうとするが全く力が入らない。


「ララ。体を支えて」

「ダメです。せっかく目を覚まされたのにここで無理をすれば取り返しがつかないことになりますよ。お嬢様は寝ていてください」

「でも・・・」

「リュバンさんの看病を無駄にするのですか!」


 ララはいつになく厳しい口調で言った。確かにリュバンがここまでいてくれたのだ。無理をせずに体の回復を待つしかない。


「わかった。このまま寝ているわ」

「よかった。お嬢様が聞き分けてくださって・・・。ではこのままお休みください。私は近くにいますから用があれば声をかけてください」


 そう言ってララは部屋を出て行った。静かにしてゆっくり寝てもらおうと・・・。

 目をつぶるといろんなことが思い浮かんでくる。だが今はどうにもできない。焦る気持ちを抑えるしかないのだ。


(元気になれば・・・)


 私は寝て体の回復を待つことにした。



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