第40話 仮面舞踏会
もうすっかり日が沈んだ。バークレイ城がかがり火で明るく照らし出されている。貴族を乗せた馬車が次々に城に入って行くのが遠くに見えた。私は準備をしていたために時間にかなり遅れてしまったようだ。
しばらくして私の馬車もようやく城内に入った。表玄関に着くと馬車を降りて招待状を見せる。
「レイア・アレックス様ですね。ようこそいらっしゃいました。どうぞ奥へ・・・」
私は疑われることなく、舞踏会が行われる奥の広間に前に来た。すでに楽団が演奏をして若い男女が躍っている。出席者は貴族の家のものだが、若い女性が圧倒的に多い。王子様主催の仮面舞踏会なので玉の輿目当ての方も多いのだろう。
(もしかしてマリーやリリアもいるかな。でもここで会ったらまずい・・・)
私は王都追放の身だ。正体がばれたら即アウトだ。だがそうは言っていられない。幸い仮面で顔を隠している。コソコソしていたら怪しい。ここは堂々と出て行くしかない。私は思い切って大広間に入った。
「まあ、お美しい。どこの方かしら?」
「さあ、お見かけしなけど・・・」
「どこかの国のお姫様かしら?」
注目をかなり浴びている。まずまずは成功のようだ。
「どうか私とダンスを・・・」
誘ってくる男性もいる。だがここは丁寧に断る。私は王子様狙いなのだ。
周囲を見渡すと、少し離れたところに人だかりができていた。多分、そこに王子様がいるのだろう。その場所にゆっくり近づく。やはりその中心に一人の男性がいた。目の辺りは仮面で隠れているが顔の下半分は見える。その雰囲気はまじめで誠実な感じだ。
(やっぱりムッツ・・・、いえ、王子様だわ!)
すると王子様もこちらに気付いたようだ。話しかけられている相手を放っておいてこちらに近づいてくる。
「ようこそ。私と踊っていただけますか?」
「ええ」
私は王子様の申し出を受けてダンスを踊った。その距離は近い。
「素晴らしいダンスですね」
「それほどでも・・・」
宮殿でみっちり鍛えられたのだ。うまくて当然だ。
「今日はどちらから? お名前を・・・」
王子様は積極的に聞いてくる。私と知らずに・・・。
「仮面舞踏会ですのよ。名前を聞くなんて野暮ですわ」
私はそう返してはぐらかす。ここで正体をばらすわけにいかない。
「それはそうですね。しかしそなたのことが知りたい。もう少しあちらでお話を・・・」
どうも王子様はこの場所でかなり息抜きをしに来ているようだ。命がねらわれているのも知らずに・・・。そこでダンスで体が接近した時に耳元でささやいた。
「王子様。あなたは命を狙われています」
「なにっ!」
王子様は驚いてダンスをやめようとする。だが私は彼を放さずに小さな声で言った。
「そのまま続けてください。怪しまれます」
「あ、ああ。でもそなたは一体、何者だ?」
「あなたの味方とだけ伝えましょう」
私はそう答えたが、はたして王子様が信用してくれるか・・・。王子様は仮面の奥の私の目をじっと見た。
「わかった。信用しよう。嘘をつく目ではない」
だまされやすいのか、本当に目を見てわかったのかは私にはわからないが、とにかく私の言うことを信用してくれるようだ。
「その方法まではつかめていません。しかし何か仕掛けてくるはずです。気を抜かずに・・・」
「わかった」
王子様はそのままダンスを続けた。だが目で周囲をうかがっている。その緊張感は私にも伝わってくる。
「ダンスが終わっても私がそばにいてお守りします。他の方とはダンスをなされないように」
「うむ」
気が付くとスピリットが天井に泊まっていた。上から怪しい動きがないか、見張ってくれているようだ。それに外にはチャオとネズミたちもいる。リュバンから言い含められているから怪しい動きに警戒しているはずだ。
ダンスの曲が激しくなり、いきなりバーンと太鼓の音が不自然に鳴り響いた。すると急に照明の光が消えた。辺りが暗闇に包まれた。
「きゃあ!」
恐怖にかられた女性たちの悲鳴が上がる。辺りは騒然として暗い中で人々が右往左往しているがわかる。 一方、王子様は
「来たか!」
と身構えていた。そして落ち着いて辺りの様子を探ろうとしていた。
「王子様! ここは危のうございます。外に脱出しましょう!」
私は王子様の耳元でささやくとそのまま彼の手を取って大広間の外に出た。近くに殺気をいくつも感じたからだ。敵はこの暗闇に乗じて王子様を葬ろうとしたのだろう。
大広間を抜けて玄関から外に出た。そこには誰もおらず、すでに逃げてしまったようだ。かがり火が消されずに焚かれており、辺りを明るくしている。振り返っても追ってくる者は誰もいない。
「ここまでくれば大丈夫だな」
王子様はそう言うがまだ危機が過ぎ去っていないことは私にはわかる。玄関に逃げてくることなど敵も承知しているはずだ。
(次はどんな手を打ってくるのか・・・)
私は辺りを見渡した。すると外の暗闇から2つの影が浮かび上がった。それが近づいてくる。私は刺客の出現に身がまえていた。




