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第4話 お妃候補?

 いよいよ宮殿に上がる日になった。いくつかの馬車に荷物を満載して私は宮殿に向かった。もちろん父やマーガレット、そして2人の兄も馬車に乗る。生まれたからずっと過ごした屋敷が遠くになっていく。あんなに窮屈な生活をしてきた屋敷すら名残惜しく見える。もうここに帰ってくることがないと思うと・・・。

 馬車の中で私は不安しかなかった。知らない場所でやっていけるのかどうか・・・。宮殿内での頼りは付いて来てくれるリュバンとララだけだ。


 やがて馬車が門の前についた。ここからは私とお付きの者しか入れない。


「がんばってくるんだ。私は王宮にいることが多い。また会えることもある」

「お父様・・・」


 私は父と抱き合った。


「アミさん。あなたは将来、この国の王妃になるのよ。しっかりね」

「俺たちも応援している」

「また王宮で会える日もあるだろう」


 マーガレットとブルーメ、レーヴも言葉をかけてくれた。みんなに励まされ、私の不安は吹き飛んだ。


「では行ってきます」


 私は背筋を伸ばして宮殿の門をくぐった。これでしばらくは外に出られない・・・私は覚悟を固めた。


 ◇


 宮殿ではマーサ女官長が迎えてくれた。


「よくお越しになられました。女官長のマーサでございます」

「アメリア・デザートです。よろしくおねがいします」

「ではアメリア様。荷物は女官に運ばせます。お付きの方もお部屋の方にご案内いたします。アメリア様はこちらに」


 私だけマーサ女官長に連れられて別室に案内された。そこはやや大きな部屋で私より少し年上の女性が10人ほど座っていた。いずれも美しい衣装を着ており、貴族の令嬢のようだ。


「皆さん。お待たせいたしました。これで全員揃いました」


 私もそこにいっしょに座らされた。一体、何が始まろうというのか・・・。


「よく宮殿にお越しになられました。これから1年にわたり、ご指導いたします女官長のマーサです。皆様は王子様のお妃候補でございます・・・」


 それを聞いて私はぶっとんだ。王子様のお妃になるのが決まっていたわけではなかったのだ。お妃はこの11名から選ばれるらしい。私は候補者の一人に過ぎなかったのだ。


「さてこれから王妃様に拝謁いたします。部屋でお着替えになり・・・」


 マーサ女官長は説明していたが、私はあまりのショックで耳に入らない。あれほど覚悟を決めてここに来たのに・・・。

 部屋に戻るとリュバンとララが待っていた。私はそのことを話した。


「・・・・ということなの。私は候補者の一人に過ぎないの」

「それはそれは・・・大変でございますね」


 リュバンは驚いた様子を見せない。ララは相変わらずぼうっとしているだけだ。


「驚かないの? このままお妃になるわけじゃないのよ」

「ええ。お嬢様はそれを望んでおられないのでしょう? お妃になれなければ屋敷に帰るだけですよ」


 そう言われて私ははっとした。別にどうでもいいんだと・・・それで気が少し楽になった。


「そうね。その通りだわ。これから着替えて王妃様に拝謁するの。準備して」

「ええ。でもくれぐれも王妃様には失礼のないように・・・。公爵家の対面もありますから」

「わかっているわ」


 私は着替えてまたあの部屋に集まった。そこからマーサ女官長に連れられて王妃様に拝謁する。

 そこは宮殿の奥まった場所だった。部屋に入ると正面の椅子に王妃様がお座りになっていた。


「王子様のお相手の候補者です。まずはランカス侯爵家のマリー様。次はジロン伯爵家のリリア様・・・・。最後にデザート公爵家のアメリア様」


 呼ばれて一礼する。王妃様は表情を崩さず、一人一人じっと観察しているようだ。少し冷たい感じのする人・・・そんな印象だった。プリモ伯爵の姪であり、先の王妃様の亡き後、最近になって王妃になられた。だからスピラ王子は先の王妃様のお子で自分の子ではない。だが王妃として役目をしっかり果たそうとしているのを感じた。


「みな、ご苦労である。王子のお妃になるということは将来、王妃として王様を支えることになる。その役目は非常に大きい。生半可な覚悟では務まらぬ。皆にはこれから王子のお妃候補としてまず宮中での礼儀作法などを学んでもらう。しっかり頼むぞ」


 それで拝謁は終わった。これからはマーサ女官長たちについてみっちり「花嫁修業」をしなければならない。ここで手を抜いて失格して屋敷に帰る・・・ということも考えたが、デザート公爵家の看板を背負っている以上、おかしなことはできない。やるだけやって屋敷に帰ろう・・・そう思っていた。

 それにしても周囲から殺気にも似た雰囲気を感じる。皆が必死にお妃を目指しており、他の者は邪魔な競争相手ライバルに過ぎないのだ。



 修行が始まった。朝から教養を高めるために講義が続く。さらに王室についての歴史やこの国の成り立ちや地理なども学ぶ。午後からは礼儀作法やダンスだ。手本の女官通りにすべてを行わねばならない。下品な仕草どころか、型に合っていない礼は徹底的に矯正される。候補者たちの多くはすでに社交界にデビューした強者たちだ。一通りのことはできるはずだが、それでも音を上げる者がかなりいた。


(屋敷にいた時よりはましか・・・)


 屋敷にいた時はマーガレットによって徹底的にしごかれた。それに比べればやや緩いからあまり困らない。だが窮屈なことには変わりはない。


(苦しまないだけいいか・・・。少しはマーガレットに感謝しないと・・・)


 しかし人より出来ていると妬みが生じる・・・それはよくわかった。私のドレスや靴などが隠されたり、壊されたり、汚されたりすることがあった。それに私だけ誤ったことが伝えられることがあった。集合時間など・・・。それでマーサ女官長から叱責されることもあった。

 多分、マリーやリリアだ。彼女たちが陰で私の悪口をみんなに言っていることはわかっている。


「アメリアさんはドレスが汚れていたり、靴を忘れたりしてダメね。集合時間にも遅れてくるんだから。実家での最低限の教育がなっていないのよ。お妃候補としては失格ね」


 それはララが聞いてきた。私が「ダメな候補者である」ことがすでにうわさとして宮殿内に広がっているようだ。それで私に火がついた。


「そちらがそうなら・・・必ず勝ってみせる! この戦いに・・・」


 変な競争意識が芽生えてきていた。あれほどお妃になるのを嫌がっていたのに・・・。


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