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第37話 下手人

 私は牧場に戻った。落ち着いて頭を整理してみる。


(王子様が辻斬り? そんなことはありえない。きっと間違いよ。大体、最初の辻斬りの夜は牧場にいたはず・・・)


 だがその夜、私は酔いつぶれてしまって王子様の姿を見ていない。王子様も酔って早々に丸太小屋で休まれており、朝までその姿を見ていない。だからその夜に王子様がここを抜け出して王都にいることは時間的には可能だ。だから完全に否定はできないのだ


(やはり現場を押さえるしかない。それで犯人がはっきりする)


 そうなれば決定的だ。白黒がはっきりする。だがもし犯人が王子様だったら・・・もう逃れられないだろう。


(そんなことは絶対ない!)


 私はそんな考えを振り払った。


(私は王子様を信じる。なにがあろうと・・・)



 私は次の夜も魔法剣士になり、天馬とともに王都の町に出た。見回りの役人の目を避けながら、犯行現場を抑えねばならない。それには空からスピリットに監視してもらうのが一番だ。

 それから数日は空振りが続いた。魔法の関係でここにいられるのは11時30分が限界だから、時間が来たら早々に引き上げねばならない。幸い、その時間のあとで事件は起こらなかった。


 この日も11時30分近くになっていた。


(今日も空振りか・・・)


 そう思っているとスピリットが知らせてきた。


【剣を持った怪しい男がいます。向こうです!】

「わかった!」


 私はスピリットが示した方向に天馬を走らせた。すると少し先に男の背中が見えた。確かに王族が着るような衣類をつけている。その男は走りながら剣を振り上げており、その先には頭から布をかぶった若い女性が歩いている。


「危ない! 逃げて!」


 私は大声を上げた。男の剣が振り下ろされてその女性の背中を斬りつけた。


「カーン!」


 金属音が響き渡った。男の剣がはね返されたのだ。斬りつけられそうになった女性がかぶっていた布を取った。


「辻斬りはおまえだな!」


 それは剣を持った王子様だった。女性に化けて犯人をおびき寄せていたのだ。


「見られたからには仕方ない! おまえも斬る!」


 男が剣を振り回して王子様に襲い掛かってくる。なかなかの剣の腕前のようだが、王子様も負けていない。自らの剣で受けて跳ね返していく。


「王子様! お助けいたします!」


 私は天馬を降りてその場に駆け付けた。男は私に気付いて王子様から離れて距離を取った。王子様が私に問うた。


「そなたは?」

「あなたのお味方です。ここは私におまかせを!」


 私は剣を抜いて構えた。


「貴様、何者だ!」


 男が私に剣を向けた。


「愛のために戦う一輪の花。魔法剣士シンデレラ!」


 私は名乗りを上げてやった。それを聞いて男の顔に侮蔑の色が浮かんだ。


「女か! なめたことを言う」

「馬鹿にしないで! あなたには負けないわ!」

「それなら俺の剣を受けてみろ!」


 男は剣を振りまわして襲ってくる。私はそれを剣で何度もはね返して受け止めた。男は鍔元でぐっと押してくるが、力負けせずにそれをしっかり止めている。


「なかなかやるな!」

「何のためにこんなことをするのよ!」

「ふふふ。冥土の土産に教えてやろう。スピカ王子を辻斬りの下手人に仕立るためだ。さる方に頼まれてな」


 男は急に剣を横にビューッと払った。私はあわてて後方に下がった。


「誰に頼まれたのよ!」

「それは言えねえな。知ったところでお前は死ぬのだからな」


 男はさらに剣を打ち込んでくる。こうなったら気絶させて捕えてから口を割らせるしかない。私は男の剣をかいくぐって懐に飛び込んだ。そうなればこっちのものだ。剣で軽くついてやる。それで男は気を失ってその場にばったり倒れた。


 私は「ふうっ!」と息を吐いた。強敵だったが倒せない相手でもない。この男が辻斬りの犯人だったのだ。


「見事だった!」


 王子様が声をかけてくださった。


「王子様、お怪我はございませんか?」

「ありがとう。シンデレラだったな。助かった」

「どうしてこんな無茶を?」

「私は無残に民を殺す者を許せなかった。それに私自身が疑われていてな。それには自分で疑いを晴らすしかなかった」

「では5日前も?」

「ああ、そうだ。悲鳴を聞いて駆け付けたらすでに下手人の姿はなく、殺された女が倒れていた。そこに誰かが馬で駆けつけてきたからすぐにそこから去った。あれはそなただったようだな」


 これで疑問が解けた。あの時、王子様は駆けつけただけだったのだ。そしてもう一つの疑問も尋ねなければならない。


「王子様。最初の辻斬りの時、別の場所にいらっしゃったはずです。どうしてそれをおっしゃらなかったのですか。それなら疑いがすぐに解けたのに」

「それはできなかった。その日、私がいたところに私にとって大事な者がいるからだ。その者のことを言えば危険にさらしてしまうかもしれぬ・・・」


 王子様は「大事な者」とおっしゃって下さった・・・私は顔がポッと赤くなっているのを感じた。


「もうすぐ役人が来よう。こやつを引き渡せば黒幕がはっきりする」


 王子様がそう言ったとき、暗闇からビューッと矢が飛んできた。


「王子様、危ない!」


 私は王子様におおいかぶさった。だがその矢は私の方に飛んで来ず、倒れていた男の背中を貫いた。


「ぐえ!」


 男は心臓を貫かれて即死した。口封じをされてしまったのだ。しばらくそのままで様子を見たがもう矢が飛んでくる様子はない。


「シンデレラ・・・」


 王子様が声をかけてきた。それで私ははっとした。私は王子様におおいかぶさったままになっていたのだ。


「これはご無礼を・・・」


 私はすぐに離れた。恥ずかしさでさらに顔が赤くなっているのを感じた。


「いや、よい。しかし下手人が殺されてしまったな・・・」


 やがて役人が駆けつけてきた。ここにいると厄介なことになる。


「ではまた・・・」


 私は天馬にまたがってそこを離れて行った。王子様はいつまでも私を見送ってくれていた。


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