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第35話 試飲

 頃合いを見てジジ(?)がみんなに声をかけた。


「これで今日の作業は終わりです。みなさん、席の方に」


 いよいよ今日のお楽しみだ。去年、仕込んだワインをみんなで試飲しようというのだ。リュバンやララ、そしてソワレが席を用意してくれている。そこには牧場でできたチーズとワインに合う料理が並べられている。もちろんワインとグラスも・・・。

 みんなが席に座り、グラスにデカンタからワインを注いでいく。王子様も私の隣に座った。


「さあ、エース様も」

「おお、すまぬ」


 私は王子様のグラスにワインを注いだ。ルビー色の明るい色だ。去年、仕込んだもので飲み頃になっている。ソワレがすでに味見をしているから間違いないだろう。


「さあ、ご苦労さんでした。後はワインを楽しみましょう。乾杯!」


 ジジの乾杯の音頭でみんなが一斉にワインに口をつける。普段、私はあまりワインを飲まないが、この時ばかりはぐっと飲んでみる。


「おいしい!」


 フルーティーな香りが広がる。その底には力強さも感じる。去年のワインは大成功のようだ。


「これはうまい!」


 王子様も満足してくれている。すぐにグラスが空になり、私がついでいく。その後ろでは護衛官がうらやましそうに見ている。


「あなたたちもどうですか?」

「いや、務めを果たさねばならないので・・・」


 すると王子様が2人の護衛官に言った。


「よいではないか。ここは安全だ。おまえたちも飲め。特別に許す」

「それならば少しだけ・・・」


 お許しをいただいて護衛官は早速グラスを手に持った。私がワインを注ぐとぐっと飲み干す。ずっとがまんしていたようだ。


「うまい!」

「そうでしょう。今日はワインを楽しんでください」


 私はさらについでいく。


「そなたももっと飲め!」


 王子様が自らデカンタをもって私に勧めてくる。これは恐れ多くて断れない。ありがたくいただくことにした。それも何杯も・・・。すると次第に体が熱くほてってくる。気分も高揚してきた。


「さあ、エース様。どんどん・・・どんどん飲んでください! まだいっぱい・・・いっぱいありますから・・・」

「そなた酔ってきたな」

「酔ってなど・・・酔ってなどおりません。ヒクッ」


 ろれつが回りにくくなっている。だがそんなことは気にしない。楽しい気分でいっぱいなのだから・・・



 私は幸せな気分だった。雲に乗って漂っているような・・・。だが「コケコッコー!」と鶏の大きな鳴き声がする。せっかく気分がいいのにぶち壊しだ・・・。

 目を開けると朝日が私の顔をまぶしく照らしていた。私は部屋のベッドで寝ていた。


「朝なの・・・」


 体を起こすと頭が痛い。のどもカラカラだ。まったくひどい状態だ。


「お嬢様。ご気分はどうですか?」


 リュバンがお盆をもって部屋に入ってきた。


「最悪。頭がガンガンする」

「さあ、お水ですよ。二日酔いの薬草も用意しました」

「ありがとう」


 それを飲んでようやくほっとする。思い返してみるとワインを飲んで・・・それからの記憶がない。


「リュバン。私、あれからどうしたの?」

「ひどく酔っていらっしゃって大変でしたわ。お隣の執行官様に絡んでおられますし・・・」

「えっ! 本当なの!」

「本当ですもの。執行官様は困っておられましたわ」


 それを聞いて私はガクッとうなだれた。


(またやってしまった。酔っていたとはいえ、またご無礼を・・・。これじゃ、嫌われてしまったな・・・)


「ところで執行官様は?」

「ご機嫌に酔っていらっしゃって、客室の丸太小屋にお泊りでしたよ。お嬢様をわざわざここまでお運びになってくださって・・・。お嬢様が一緒に泊まろうとおっしゃるものですから。さすがに同じ部屋というわけにはいきませんから・・・」


 リュバンはあきれたようにそう言った。


(危ないところだった。もし・・・一緒に寝て変なことになっていたら・・・)


「ところで執行官様は?」

「朝食をお召し上がりになり、ついさっきお付きの方と帰られました。お嬢様に『楽しかった。また来る』とお伝えするようにと」

「えっ! そうなの!」


 私は上着を羽織ってすぐに外に出て行った。昨日の醜態を謝らなければならない。さすがに心の広い王子様もあきれられただろう。すると遠くに馬に乗った王子様一行が見えた。


「エース様! 昨日は申し訳ありませんでした! ごめんなさい!」


 私は大声で叫んだ。すると馬上の王子様は手を振ってくれていた。その表情には笑顔が浮かんでいるようでほっとした。嫌われてはいないようだ。


「エース様! またいらっしゃってください! またお待ちしています!」


 私はその姿が見えなくまるまで見送った。さみしい気分を感じながら・・・。


「ああ、行ってしまった・・・。でもまた会える・・・必ず来てくださる」


 私はそう願っていた。次は今までの失態を挽回して・・・。いや、また単純にお会いしたい・・・。お会いしてお話しするたびに王子様を思う心が強くなってきている気がした。


 だが王子様はそれから来られなくなった。それはあの事件が王都に起こったからだ。 


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