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第32話 案内

 王都の小麦問題は解決した。マドイ商会が盗賊を使って小麦の荷馬車を襲わせて、小麦不足を加速させて値を吊り上げていたのだ。関係者はすべて捕縛され、罪に問われることになった。

 これを機に小麦の値は落ち着いていった。マドイ商会の大きな蔵からは大量の小麦が発見され、市中に出回るようになったからだ。小麦は不作だったが備蓄の分がかなりあり、本当はそんな深刻なことではなかったのだ。

 これで一件落着・・・となったのだが、私は腑に落ちなかった。


(マドイ商会の主人が言っていた。後ろ盾があると・・・。それはかなりの高官に違いない。それは誰だったのか? その者が黒幕ではなかったのか?)


 だがそんな黒幕がいたということを聞かない。調査はそこまで及ばなかった。いや、途中で打ち切られたのかもしれない・・・。でも必ずいるのだ。そうでなければマドイ商会だけであんなことができるはずがない・・・私の中で何かもやもやしていた。


 とにかく私たちはコメを王都に運び、食糧不足の王都の人たちを救うことができた。その功績でアックス村長は子爵に叙せられ、勲章を授与された。彼は村に帰ってもうれしそうに勲章をつけてふんぞり返って歩いている。

 私はというと・・・何もいただくことはなかった。やはり王都追放の身の罪人だ。王様から栄誉をいただくことはできない・・・。


 でもそんなことはどうでもよかった。王都をはじめ世間ではコメが認識されてきたのだ。おいしい穀物であると・・・。それで田を作るところも多くなってきたと聞く。それでもし小麦の病気が発生しても食料に困ることはなくなるだろう。


 村に帰ってからまた平穏な日常に戻った。自然豊かな場所でおいしい食事をして、仕事もほどほどで動物たちと触れ合い、夜は星を眺めながら物語を聞いて寝る。少し退屈なこともあるが、まずます満足できる。だがふと心には浮かんでくる。


(お父様を助け出してデザート公爵家を再興する!)


 このことは忘れていない。


 ◇


 それからしばらくしてあの人が牧場を訪れたのだ。それはエース執行官だった。やはり護衛の剣士を2人連れている。


「執行官様。ようこそ」

「そなたはあの時の娘だな」

「はい。アメリアと申します。こちらにはどんなご用ですか?」

「いや、気になってな。あの事件の後、そなたたちは村に帰ったから」


 私たちはあの後5日して村に帰った。コメがなくなってきたのもあるが、小麦が王都の人たちに渡りそうだったので・・・。


「そなたが通報してくれたのだな。礼を言いに来た」

「そんな・・・それほどのことでも。しかし執行官様が動いていただいたおかげで事件が解決してよかったと思います」


 それが偽らざる私の気持ちだった。


「そなたには褒美が与えられるべきだった。しかしそなたは・・・」


 彼は私のことを調べたようだった。


「はい。私は反逆の罪で投獄されたデザート公爵の娘です。王都追放の罪人です。そのような栄誉は受けられる者ではありません」

「すまなかった。しかし私にできることなら何でもするつもりだ」


 彼は義理堅く、そのためにここに来てくれたのだ。それが私にはうれしかった。


「お心だけでうれしゅうございます。ところで執行官様はこのあとすぐに戻られるのですか?」

「急ぎではないが・・・」

「それならこの牧場をご案内いたします」


 それを聞いて彼は喜んだ。


「それはよい。ぜひ頼む。そなたからコメの話を聞いて興味が出たのだ。それに牧場というのはどういうところか見たくてな」


 彼は興味津々だった。王都の高官、多分、貴族の子弟だからこんなところに来たことがないのだろう。ここのすべてが見新しいはずだ。それは以前の私と同じだから・・・。


「ではこちらに・・・」


 私は彼を案内した。


 まずは乳搾りの小屋から。牛たちを集めて乳搾りを実際にやって見せた。


「このようにすると乳が出ます。さあ、どうぞ」


 搾りたての牛乳を差し出した。彼は恐る恐る口をつけた。


「うまい! うまいぞ!」

「しぼりたてだからおいしいのです。さあ、次は畑の方に・・・」


 今度は田や畑の方に案内した。水田にコメが大きく育っている。彼は物珍しそうに眺めていた。


「多くの作物は畑なのですが、コメだけはこんなに水を張って栽培します」

「うむ。これがコメか。栽培法は特殊だが、我が国に広がるといいな。味は素晴らしかった・・・」


 すると彼のお腹が「きゅーん」と鳴った。


「空腹になっておられませんか?」

「ああ。そうだな。腹が減ってきた」

「それならばいいところに案内いたしましょう。そこでコメが食べられます」


 私は彼をソワレ食堂に案内した。客はいたが、いつもの私の特等席は取ってもらっている。そこで私と彼、そして2人の剣士が腰をかけた。


「ソワレ! お客さんを連れてきたわ! 今日のランチは?」

「ハンバーグにサラダ。ご飯にミソスープです」

「いいわ! 4人前お願いね」


 すぐにランチが運ばれてきた。料理からはいいにおいがして湯気が立っている。


「うまそうだな」

「はい。これはコメを炊いたご飯というものです。そして汁は大豆を発酵させた調味料をといて野菜を入れたもの。ハンバーグは牛と豚の肉をミンチにして焼いて特製ソースをかけたもの、サラダは・・・」


 私は料理を説明した。だが彼は待ちかねてスプーンでご飯を口に運んだ。


「うむ。うまいぞ。あのおにぎりもうまかったが、温かいご飯もよいな。それに料理も・・・。うむ。このご飯によく合う。いくらでも食べられそうだ・・・」


 彼はうれしそうに食べていた。護衛の剣士たちも最初は遠慮がちに口をつけたが、そのうまさに目を剥いて大口を開けて食べていた。


「よかった。お口に合って・・・」

「いや、このような料理、宮殿でも食べられぬ。よいコックがいるものだな。この国のコックの中で5本の指に入ろう」


 執行官様の誉め言葉を聞いてソワレはうれしくて頭をかいていた。それから執行官は舌鼓を打って何倍もご飯を平らげていった。その姿はまるで少年のようだ。

 私は執行官様のそんな様子を見て不思議な感じがした。


(世間ずれしているけど純粋で誠実な人だわ。貴族の子弟でもこんな人はいなかった。一体、どういう人なんだろう?)


 私は彼のことが知りたくなっていた。



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