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第31話 踏み込む

 私は短剣をもって魔法剣士に変身した。これで怖いものなしだ。その姿でジャンプして塀を軽々と越える。すると荷馬車が蔵の前につけられていた。そこに男たちが集まっている。


「ご苦労だった」

「ちょろいもんですぜ。まだまだ小麦を奪えそうで」

「妨害する奴がいたのだろう?」

「まあ、いましたがたいしたことはありませんぜ。他から奪えばいいんですから」


 盗賊とマドイ商会の者との会話が聞こえてくる。


「王都にコメなどというものを持ち込み、炊いて配っている者がおる」

「我らを邪魔する者たちですな」

「そうだ! それで小麦を運ぶついでにお前たちを呼んだ」

「そこを襲えってことですな」


 このままでは私たちの宿営地が襲われる。それは必ず阻止しなければならない。盗賊たちが「いくぞ!」と武器をもって裏門を出ようとしていた。


「待ちなさい!」


 私は大声を上げて彼らの前に出た。


「そんなことはさせないわ!」

「なんだ! 貴様は!」

「愛のために戦う一輪の花。魔法剣士シンデレラ!」


 私は堂々と名乗った。この状況では恥ずかしさなど微塵もない。


「貴様! 我らの話を聞いていたな!」

「あなたたちね! 小麦の荷馬車を襲ったのは! それもこのマドイ商会と結託して!」


 すると盗賊の後ろにいた中年男がニヤニヤ笑いながら言った。


「奪った小麦はこうして私の店で売ってみんなの口に入るんだよ。同じことだよ。少々高くなるがね。ははは」


 それはマドイ商会の主人のようだった。なかなかあくどい顔をしている。


「許せないわ! どれだけの人が苦しんでいるか・・・」

「ははは。だからどうしようというのかね。我らには後ろ盾がいる。捕まえようとしても無駄だ!」

「なんですって!」

「そのお方のために我らは働いている。そこまで話したからにはお前を返すわけにはいかないね。やれ!」


 主人は盗賊に命じた。


「悪いがここで死んでもらうぜ!」


 盗賊の一人が剣を振り上げて私に向かってきた。私は剣を引き抜くと、襲ってくる盗賊に叩きつけて気絶させた。それを見て他の盗賊たちがいきり立った。


「やりやがったな! こいつめ!」


 盗賊たちは次々に私に襲い掛かって来た。


「容赦しないわよ!」


 私は剣を振るって盗賊たちを次々に倒していく。魔法剣士の私に敵うはずはない。このままでは全滅だ・・・そう思った主人がその場からそっと抜け出そうとしていた。


「逃がさないわよ!」


 私は剣を投げた。それは主人の前の地面に突き刺さった。


「ひえっ!」


 主人は恐怖でその場に座り込んだ。私は素早くその前に飛び、剣を地面から引き抜いて主人に向けた。


「あなたも叩きのめされたい?」

「お、お許しを・・・」

「じゃあ、罪を認めなさい」

「は、はい、私が悪うございました」

「小麦をみんなに無料ただで配りなさい。それから・・・」


 そう言いかけた時、私に異変が起こった。魔法剣士の魔法が解けそうになっていたのだ。


(しまった! 12時だ!)


 元に戻ればどうにもならない。私はあわてて暗がりに逃げた。


「あっ! 追え! 追え!」


 主人もこちらの異変を感じたようだ。残っている盗賊たちに私を追わせた。完全に形勢逆転だ。魔法の解けた私は無力だ。逃げようとしても塀は越えられない。ただマドイ商会の庭を走り回るしかない。

 盗賊たちは松明を手に持って私を追ってくる。そしてついに追い詰められてしまった。


(このままでは盗賊に殺される!)


 私は死を覚悟した。その時だった。裏門が「バン!」と破られ、役人と兵士が踏み込んで来た。


「おとなしくしろ! 盗賊団め! 刃向かいすれば斬るぞ!」


 チャオが宮殿に私の手紙を届け、無事にエース執行官の手に渡ったようだ。彼が早速、手を回してくれたのだろう。だがここで私がつかまってしまうと厄介なことになる。盗賊と役人が戦っているどさくさに紛れて外に出ることができた。


「ふうっ。危なかった・・・」


 これでマドイ商会と盗賊団は捕まり、小麦は王都の人たちの手に渡り、食糧問題は解決するだろう。そうなれば私たちは牧場に帰れる。元の平穏な日常に戻るだろう。


「久しぶりの王都だったけど・・・もう来ることもないな・・・」


 私は「はあっ」と息をついた。その時、少し離れたところにそれを見た。馬に乗ったエース執行官がマドイ商会の方をじっと見ていたのだ。その周囲には剣士や兵士たちが固めている。高官の彼が盗賊たちの捕縛に立ち会おうとしてここまで駆けつけてきたのであった。その姿は昼間に見た時よりはるかに凛々しかった。


(不思議な人だな。頼りなげで世間知らずなお坊ちゃんという感じだったのに、あの姿は頼もしくて勇敢な人に見える・・・)


 私の頬がポッと赤らんでいるのを感じていた。胸もドキドキしている。


(いやいや、おかしい。こんなに心がときめくはずがないわ。今日の私は何かおかしい・・・)


 気が付くとチャオがそばに来ていた。


「ありがとう! よくやってくれたわ! おかげで助かったわ!」


 チャオはうれしそうにワンと吠えた。


「さあ、みんなのところに帰るわよ。今日のことは秘密だからね」


 私はチャオとともに宿営地へ夜道を歩いて帰った。


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