第30話 張り込み
日が暮れておにぎり配りは終わった。かなりの人におにぎりがいきわたったようだ。コメはまだたくさんある。しかもカスケさんのところも余っているコメを出してくれるようだ。しばらくは王都の人は飢えることはない。
だがこの状態をずっと続けるわけにはいかない。いつかはコメがなくなってしまう。その前に十分な量の小麦が王都にいきわたらねばならない。
王都の宿営地で休んでいるとスピリットが飛んできた。盗賊や小麦について何かわかったのかもしれない。
私は誰にも見つからないように宿営地を出た。小鳥と話しているところを誰にも見られないように・・・。
「スピリット。ご苦労さん。何かわかった?」
【ええ。逃げた盗賊のあとをつけました。奴らは王都近くのヤスダ山に隠れ家を構えています】
「そこに小麦があるの?」
【はい、一部は。大部分はどこかに運んでいるようです。その隠れ家にマドイ商会が出入りしているのを見ました。多分、その店の蔵に運んでいるのかも・・・】
やはり裏に商人がいた。マドイ商会なら誰でも知っている。多くの農作物を扱う王都一の大きな商会だ。ここが盗賊に襲わせて小麦の値を吊り上げようとしているのだろう。
「こんな悪い奴を何とかしないとね。でも乗り込むにしても証拠はないし・・・」
スピリットには引き続き、盗賊たちの監視をしてもらうことにした。私はまずマドイ商会を探ることにした。おにぎり配りの方は村の人たちがやってくれるから私一人いなくても大丈夫だ。
マドイ商会は大通りに面した一等地に店を構えていた。中では小麦が飛び切り高値で売られている。町の人に聞くと他の店で小麦が売り切れでもここにはいつもあるという。
(やはりあやしい・・・)
だが外から見る分では何もわからない。悪事の尻尾を捕まえるためにはスピリットからの情報が必要だ。
そう思っていると私と同じようにマドイ商会の店をうかがう人がいた。それはあの青年だった。護衛の剣士を連れているから目立って仕方がない。あれではマドイ商会に警戒されてしまうだろう。私は後ろからそっと彼のそばに寄った。
「こんにちは!」
「あっ!」
その青年はひどく驚いて振り返った。声をかけたのが私だとわかってほっとしていた。
「そなたか?」
「ここで何をされているのですか?」
「そなたが商人が怪しいと言っただろう。ここで見張っているのだ」
その後ろで護衛の剣士が(かなわん)という風に首を横に振っている。世間知らずの主人に振り回されているのだろう。だが物好きにもほどがある。
「どうしてあなたがそんなことを? 役人でもないのに」
「いや、それは・・・ええと・・・王様から命令を受けたのだ」
青年はしどろもどろに答えた。何か怪しい・・・私は思った。
「本当に?」
「ああ、そうだ。私はええと・・・エース執行官だ。王様から調査を任されている」
その青年はそう言い張った。そして後ろの護衛の剣士に目配せした。するとその剣士は「はいはい」というように札を取り出した。それは王家の役人が持つものだった。
「本当にそうだったのですね」
「私は嘘を言わない」
後ろの剣士が吹き出しそうになるのをこらえているのが気になるが、ここは信じるとしよう。執行官と言えばかなりの高官だ。
「エース様。ここで見張っていても尻尾を出さないでしょう」
「それもそうだが・・・」
「私が注意しておきます。町の皆にも声をかけておきましょう。もし何かあればお知らせします」
マドイ商会が盗賊を使って小麦の襲わせていることがはっきりすれば、役人が踏み込んで調べることができる。それで悪事を行った者たちを捕まえて罪を問うことができるだろう。そうなれば小麦が王都の人たちにいきわたる・・・。
だからエースのような高官の助けは必要になる・・・私は頭の中でそう計算した。いざという時は出て来てもらわねばならない。
「その時は取り締まりの役人を派遣していただけますか?」
「わかった。必ずそうしよう。だから頼むぞ。我らは引き上げるとしよう。何かあれば宮殿に知らせよ。エースと言えばわかる」
彼はそう言って帰って行った。これでマドイ商会に警戒されなくて済む。だが私もここにいても何もつかめそうにない。どうしたものかと思っていたらスピリットが飛んできた。
「どうしたの?」
【今夜、盗賊の隠れ家からここの蔵にコメを運ぶようです。盗賊がそう話していました】
これはチャンスだった。その現場を押さえればマドイ商会が盗賊とつながっていることを証明できる。
私は宿営地に戻って夜を待った。そして暗くなるとまたそこを抜け出し、マドイ商会の近くで身を隠した。ここで監視しようというのだ。私のそばにはチャオがいる。
しばらく待っていると本当に事態は動き出していた。暗い夜道を荷馬車が走ってきて、マドイ商会の裏の門から中に入って行った。
「間違いない! チャオ! 頼むわよ!」
私はチャオを走らせた。宮殿に私の手紙を運んでもらうために・・・。あとは私が踏み込むだけだ。




